81.吉良の暴走②
どうでもいい話ですが、うちの猫が吐いたご飯をもう一匹(のうちの猫)が美味そうに喰ってる……気持ち悪っ!
「マジでかっ!」
声を上げたのは驚いたからか、気合を入れるためか。
動いたのは新太の方が早かった。周囲の落葉が風に吹かれたように舞い上がる。
正樹は一歩前へ踏み出し、自ら新太の盾になるような位置に動きながら片手を前へ差し出した。
飛来する氷刃に呼応するように落ち葉がそれを包み込み、氷刃を叩き落していく。撃ち漏らしたいくつかの氷刃は、正樹の手の前に構成された風の盾で防ぐことができた。
前に踏み込んだその勢いを殺さず、正樹は一歩前へ飛んだ。その右手にはいつの間にか、特殊警棒が握られている。ぽっちゃりとした体形からは想像もつかないほどの身軽な動きだ。
予想以上の速さで懐に飛び込んでくる正樹に、吉良は両の手を正面で交差して防御姿勢を取るが、それでも正樹の勢いは殺しきれず大きく数歩後ろに飛ばされた。
キインっとあたりに響く硬質な物同士がぶつかり合う音が響く。
「くっ……」
呻いたのは正樹の方だ。警棒を握った右手がビリビリと痺れる。
正樹の警棒が吉良を捉える寸前に、二人の間に出現したのは六角形の氷の盾の様な物だった。役目を終えたそれは瞬時に音もなく消滅する。
「そこをどいて。君と争いに来たわけじゃないんだ」
追撃をして来ない正樹に吉良が声を掛けてくる。
昨日も同じ様なことがあったなと呑気に正樹は思った。今日は新汰がいてくれる。1体1ではない事に少し引け目を感じるが、それよりも心強さの方が大きかった。
「それとも昨日の続きをする?僕はそれでも構わないよ」
今日はそんな気分なんだと笑いながら吉良が続けた。
「相馬君……」
正樹の背後で新汰が小さく声を上げた。正樹は吉良や新汰に何と声を掛けていいか判らなかった。
「この石碑を壊す気なら止める」
ただそれだけだ、自分に出来ることは少ない。石碑を壊すことが良い事だとは思えない。そう思ったから正樹は腹を決めた。
新汰が背後で術を練り、正樹に強化術を掛けてくれる。
すうっと一つ息を吐いてから、正樹は前に跳んだ。風の加護を身に纏い二歩で吉良に迫る。そのまま、風の力を乗せた警棒で右、左と払う。
急所を狙うことはしなかった。殺すつもりなど最初からない。
その都度、狙った場所に氷の盾が出現し攻撃はすべて防がれる。吉良の眷属神は自立して吉良を守っている様だ。
体が左に流れた反動を利用し、そのまま右足を繰り出すがそれも結果は一緒だった。くるりと体を回して正樹はまた吉良と対峙する。
吉良の防戦一方に見える戦局だったが実はそうでもない。正樹が離れればまた氷刃が飛んでくる筈だ。
正樹は接近戦を続けるしかない状態だった。
正樹が一呼吸ついた隙に飛来する氷刃は、背後の新汰が操る木の葉が叩き落してくれる。
先程と同じように飛び込んでくる正樹を、体を入れ替える形で吉良が避ける。単調な攻撃に見えた正樹の突進だったが、吉良は新汰と正樹に前後で挟まれるような立ち位置に移動してしまったことに気づいた。
対人戦に不慣れな正樹だったが、同じように吉良としても対人戦に慣れているというわけでもないのかも知れない。
二人の動きを冷静にそう分析したのは新汰だ。そうは言っても新汰自身も対人戦が得意というわけでもない。
何とかこの場を収める打開策を探したかった。