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邂逅の後に   彬華side × 新汰side

ガクブルしている桐華さん(笑)


普段、彼女は物怖じしない不敵な性格なのですが、どうも言いつけをした方は相当コワいみたいですねぇ。


そして、違和感に悩む新汰さん。新汰は気づいてしまうのでしょうか。


気付いたとしても桐華さんに不利になるようなことをするような人ではないと読者の方々はご存知でしょう。「知らない」って怖いですね(笑)

 正樹たちと別れた桐華は、足早に病院から離れながら混乱する自分を抑え今の状況を整理し始めていた。


 自然と足が速くなる。体が少しでも早くこの場所から離れたがっている。


 最初に感じたのはまずいことになったと言う事。


 油断したつもりはなかったが、まさか偶然知り合った友人が『あの戸上』と関わっているとは夢にも思っていなかった。


 そもそもいくらこの地が戸上の本拠地とは言っても、住人は一万人以上存在する。偶然でも遭遇する確率はそう高くないと思っていた。


 桐華は自分の甘さに歯噛みした。しかし後の祭りとはこの事だ。


 そもそも戸上−−つまりこの地の呪術的守護者−−と関わらないと決めたのは彼女自身だ。


 彼女が自分の能力に目覚めたのはただの偶然で、本来であればその力は目覚める事なく眠っている筈のものだった。少なくとも彼女はそう思っている。


 彼女の家は戸上本家からも察知できないほど血の薄まった家系で殆ど一般人と変わりない。そう言う意味で言うならば、戸上の血筋はこの地域に根付いており、能力はこの地に存在する全ての人々に発現はつげんする可能性がある能力なのだ。


 だから最初から言いつけに背くつもりなどなく、事故に巻き込まれた友人を見舞うだけだった。


 桐華は目を細めた。急いで来たためにいつもの派手なカラーコンタクトもしていない。派手なコンタクトをしていたのはただの趣味ではなく−−趣味に寄るところが大きいのは事実ではあったが−−特徴的すぎる目の色を隠す為というのも理由の一つだった。


 普通の人であれば気にも留めないその色。ただよく見ると少し違和感を感じると言う程度。


 光降り注ぐ午前中の光ですら彼女の瞳は日に透けない黒を保っている。それこそが闇使いの証だった。


 全ての闇使いがその色を持っているわけではない。それどころか当代の闇使いの頭領は、これとは逆と言っていい特徴的な色をしている。


 ただ言える事は一つ。闇の色、黒い色は夜の神が好む色であり、その色の美しさという尺度だけで力を与えることもある気まぐれな存在であること。


 そうして、『闇を使う』という性質上迫害されることもあった闇使いの一族だったが、皮肉な事に迫害を恐れ地下に潜る事で、その血筋を濃く保ったまま現在に至っていた。


 桐華はそういった一族の中でも本当の意味で末端に生まれたに過ぎず、自分でも『術者』としての自覚もなければ、この土地の名士である戸上という存在すらよく知らず関わるつもりもなかった。


 その術力に目覚めさえしなければ彼女の人生は今と大きく変わっていたのだ。


 偶然知り合うこととなった当代の闇使いの当主は、彼女に興味を示した様だったがそれ以下でもそれ以上でもなく、ただの気まぐれの様に彼女に自らの技術を分け与えたが何かを要求してくることもなかった。


 ただ一つ。戸上と関わるつもりがないのであればその術は無意味に使うことがないようにと言い含まれただけだった。


 術を使い続ければいつかは戸上に知れることになる。と言うことは、ちょっと考えれば判る。


 その危険を少しでも下げる為の言いつけだろうとはなんとなく判った。


 言い含められずとも、闇使いの術を他者を傷つけることしかできないロクでもない力と認識していた桐華だ。乱用するつもりもあまりなかった。


 そうして、今に至る。


 人に余る力を得た人間にしては慎ましく生きてきた筈だった。しかし、ことは起こってしまっている。後悔しても遅い。


 ある程度病院から離れて、桐華の心も落ち着いたのか早足に進めていた足を止めて振り返った。


 視線の先には先ほどまで自分がいた病院があった。


 早鐘を打つ鼓動と全身に冷や汗をかいていた事実に今更気付く。


 やらかしたかも知れない。と思うのはある程度自分が落ち着いたからこそ言える感想かも知れなかった。


 でも、と心のどこか奥底で、冷静なままでいる自分の声がする。


 焦って動くのはダメ。これは本当にただの偶然なのだ。自分にも相手にも意図が存在しない以上、これ以上には発展させない方がいい。


 ただ、警戒だけはしないといけない。まずは、身を守る事を考えなければ。そう、言い聞かせた。




 新汰は正樹を家まで送った後、そのまま戸上に家には戻らず正樹の家の近所の公園に車を止めその辺りを散策していた。


 懐かしいと思う。短大への進学を機に正樹は父親の住む東京に住処を移していた。そのまま父親の会社に就職したため地元に戻るのは久しぶりだ。


 この辺りもよく正樹を含めた友人わるがきたちと遊びまわったものだ。


 正樹はまだ体のあちこちに小さな傷が残っていてまだまだ本調子と言える状態ではない。相方が動けない今の状態では派手に動くこともできない。術者の単独行動は許されていないのだ。


 まるで刑事みたいだよな。などと、関係のない感想を思い浮かべながら新汰は散策を続けている。今日は暖かく、生地の薄い長袖一枚でも少し汗ばむほどだ。


 疾上の姓を名乗ってはいるが風使いとしての能力を受け継いでいるのは正樹のみで、正樹の家族は兄を含め全員が術者としての素質はなく、風使いの術者だったことも知っていなかった。


 それ故に正樹は自らの術力ちからのことも、戸上の家からもたらされる『仕事の依頼』の事も何も家族には話していなかった。


 だから今回の怪我も、悪友と一緒に洪水を起こしそうな川を見に行って運悪く巻き込まれたと説明している。


 体の切り傷が多いのは、洪水に巻き込まれた時に流れてきた瓦礫で怪我したことになっていた。


 よく見ればその説明では矛盾するような場所に切り傷が――例えば頬に――あるのだが今のところその説明で家族は納得しているらしい。


 新汰と正樹は小さい時からいわゆる『悪ガキ』で、この手の危険な遊びで怪我をするのが今回だけではないこともあり納得しやすかったのかも知れない。


 家族も心配するのに飽きたのか、ただの慣れか少々の怪我ではあまり驚かない。


 そんな状況だから帰宅して来た正樹に対する家族の対応は、仕事から戻った家族に対するものとそう変わらず、普通に迎えられ母親に今日だけでも休めと言い含められた程度だった。


 父と兄に関しては、仕事からまだ戻って来ていなかった。


 相変わらずだなあと感じたが、そういった対応だからこそ、知られずにこの仕事を続けてこれているのだとも判っていた。


 新汰の興味は今しがた別れた正樹ではなく、その前に出会った女性、桐華にあった。


 何か引っかかっている。理由が思い浮かばないのではあるが。危険を感じ取ったわけではない。実戦経験では陸達に遠く及ばないが、感覚の鋭さに関してはそれなりの自信があった。


 その感性が彼女を敵とみなしていない。少なくとも今のところは。けれど、何かが引っかかる。


 ざりっとスニーカーを履いた自分の靴が砂を蹴る音がした。考えながら歩いていたせいか、気づくと舗装された道から外れ、少し砂の多い砂利道になっていた。砂利道のためにわずかな盛り上がりを踏んで音がしたようだ。


 ざっと、今度は意識して地面を蹴る。蹴り上げられた砂が風に舞って周囲に散らばる。


 なんだろう。何が気になるのだろう。


 答えは出ない。


 答えの出ないまま、また新汰は歩き出す。

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