78.黒い靄の中心点③
久々の投稿でなんか辛い。待ってくださっているかた……いらっしゃるのでしょうか。いたら嬉しいな。お待たせしました。
そろそろお話を収束させたいところです。そんでもってそろそろ苦手な戦闘シーンでしょうか(汗)
池の中の小さな石碑を遠巻きに眺めていた三人だったが、意を決したように新汰が石碑の方へ近づく。
池の中の小島は孤立しており、外からの近づく方法は見受けらえない。
橋がかかっているということもなく、外から跳んで届く距離とも思えない。
「近寄るのもちょっと難しいかね」
正樹が呟く。
新汰と正樹が顔を見合わせてどうしたものか思案していると、吉良が池の縁に沿って歩き出した。
数歩遅れて二人も吉良について歩き出す。
吉良もそれで何か判ると思ったわけでもないだろう。
やがて、池の周りを四分の一程歩いた辺りで、吉良は立ち止まった。
視ることのできない目で何かを探すように周囲を見渡す。感覚という能力において吉良よりも劣っている新汰と正樹はその様子を伺うしかない。
「流れ出しているのは、ここからだと思う」
微かな逡巡の後、吉良はそう教えて来た。
「この辺りだけ、空気が冷たい。やっぱり、瘴気の元はあれだと思う」
「あれをなんとかしたら、瘴気は止まる……?」
「だとしても」
正樹の問いかけに応えるのは新汰だ。
「瘴気が流れ出すのを止めることと、件の御神を目覚めさせることが関係あるのかな?」
「関係ないかもしれないけど、これを放置することがいいことには思えないよ、新汰」
「まあ確かにそうなんだけどね」
「神を目覚めさせる……?」
新汰と正樹の会話は大きなものではなかったが、近くにいる吉良に聞こえないわけはなかった。
「何を隠してるの?」
吉良は自分の後ろで、吉良を眺めていた二人に首だけを向けて問い掛けた。
吉良の声はいつも通り穏やかで柔らかい響きがする。けれど、その中にどこか棘を感じて、新汰は吉良に視線を投げた。
「当主からの依頼を遂行しているだけだよ」
「当主……おばあ様の……」
吉良はめったに会う事のない戸上家当主の顔を思い浮かべた。
吉良に接してくれる時は常に穏やかな祖母に、『当主』という硬い言葉は余りに不釣り合いに感じた。
「それが神様を覚醒させること……なんです?」
「……」
新汰は口ごもる。それは返答に困っているようにも、迷っているようにも見えた。
「なんで答えられないんですか?」
声を少しだけ大きくして吉良が声を重ねた。
「この件の当事者は俺たちじゃないから、かな。依頼を受けたのは陸君たちのグループで僕たちは単純に彼らに協力しているだけに過ぎない」
「戸上陸と戸上新汰は同じグループじゃない?」
「そう、陸君は日上君と二人だけのグループだった筈だ。俺らは一応四人で組んでいる。メンバーの一人はこの正樹だ。他に二人、戸上姓ではない男二人がメンバーにいる」
新汰の言葉に正樹が同意するように頷く。
「今、当事者の陸君はあの状態で、日上君って人もこの場にはいない」
「そうなんだ。僕らの判断だけでどこまで話していいか判らない」
だから離せないと言いたいらしい。そうは言われても、吉良に納得できるわけがない。
「悪いことをしているわけではないなら、話せるんじゃないんですか?」
「悪いことをしているつもりはないよ、けど……もう少し待ってもらえないだろうか」
新汰は真摯に答えようとしているように見えた。けれどそれでも吉良の中にもやもやが残る。信用されていないのだろうか、とも思う。
それにまたあいつが出てくるのかとも感じている。
この地に住む術者ならば知らぬもののほうが少ないのだろう。特異体質の男、日上徹。
そもそもあいつは崎宮市の住人ではないだろう。とも思う。けれどその力の強さと、異質さはずいぶん昔から吉良の耳にも入っていた。
自分と同じように不遇で、そして自分よりも綾乃にかわいがられた男。それが、吉良が彼を毛嫌いする理由の全てだった。