71.戸上邸内の暗雲①
昼めし食いすぎました。しゃぶしゃぶ食い放題80分って時間短いネ
屋敷の中はいつになく多くの人が出入りしている。
多くは使用人風だったが幾人かは雰囲気の違う人物もいる。
例えば、まさに今目の前で、泣きながら綾乃に縋り付いている四十後半と思われる婦人とか。
少し肉付きの良い気がするが、それを差し引いても綺麗な人だと思った。小柄で上品な服を身にまとっているが、よく見ればそれほど高価な物とは思えない気もした。
彼女も使用人の一人だろうか?
今朝、朝食を取りに居間に来た清藍を迎えたのは文子一人だった。
清藍が寝泊まりしている場所は、戸上邸内でも西奥にある離れだ。
戸上邸は東と南に門があるが、正門とでもいえる門は東門で、離れは敷地内の西の奥にあった。
離れだけで生活が完結できるように、母屋とは別に台所、居間、浴室と一揃いの揃っており、離れだけで普通の住宅程度の規模がある。普通の家族程度なら両親と同居していたとしても問題なく暮らせるだろう。
ただその離れが他の住宅と違うところがあるとすれば、無駄に広々とした土間の部屋があるという事だけだろう。
その室内だけは当主である綾乃の部屋を除けば、どこよりも強力な結界が張られている。
そこが昨日、清藍と綾乃が詰めていた『修練場』だ。
食事を準備していた文子に問うことはせずに、清藍は十織の部屋を訪れた。いつも通り寝坊しているのだろうと思ったからだ。
けれど部屋に徹はいなかった。
そこで初めて清藍は、昨夜徹が戸上邸に戻って来なかったことを知ったのだった。
いい年の男子だ。一晩帰って来ないくらいで大騒ぎする程の事ではないだろう。そう思った。朝食を取りに来ない陸も同じなのだろうということはすぐに想像ができた。
二人が揃って姿を消すとしたら、戸上の仕事に関わること何だろうということも、もう判るようになっていた。けれど、それでも何も言わずに出掛けて行った二人に対して何も思わないわけがなかった。
清藍は少々むくれながら朝食を取った。何か一言くらい声を掛けてもバチは当たらない筈だと。今朝の段階では清藍は二人の行動に怒りはしても、心配はしていなかった。
けれど、状況が違うと判ったのはその女性が来訪してからだった。
その女性は人目も気にせず騒がしく来訪してきた。取り乱しているせいかその物言いは要領を得ず話が前後して理解しにくかったが要はこういう事らしい。
彼女の娘が昨晩戻って来なかった。
どうも書置きを残していったらしく、言うなれば思春期の女の子の家出絵騒動らしい。普段は物分かりのいい女の子らしくこんな事はしたことがなかったらしい。
清藍は離れと母屋を繋ぐ廊下まで出てその話を聞いていた。もっとも、聞こうとしなくても声は母屋中に響き離れまで届いただろうことは想像に難くない。
母親の話を聞き取った綾乃は、既に使用人たちや戸上の術者達が捜索に当たっている旨を、かみ砕いて含ませるように話して聞かせた。
そして、やっと落ち着いは女性は綾乃に連れられて母屋の奥へ――おそらくは客間へ通されたのだろう。
清藍は部屋で先ほどの出来事を思い出していた。
おそらく二人はその女の子の捜索に出掛けたのだろう。清藍に声が掛らなかった理由も判る。彼女はまだ術者としては未熟であったし、何よりこの戸上邸に匿われている存在だからだ。
けれど、それでも清藍は戸上邸でじっとしているつもりなどなかった。
「アーガ、聞こえる?」
だから、そう呼び掛けた。
R03-04-30 サブタイトル変更 戸上邸内の小さな騒動→戸上邸内の暗雲




