62.再集合後の騒動③
成人男女の二人の会話だというのに……。でもおくて同士だとこんなものでしょうか。
なんかあまずっぺー感じで書いててこっちが恥ずかしくなるネ。
高校生くらいだと勢いで肉体関係に行ってしまうけど、これくらいになると慎重さが出てきて逆に勢いづけないんじゃないかなぁって思ってこんな会話になりました。
ちなみに彼らは、大体25歳前後の設定です。二人とも多分、童貞処女ではないと思うけどね。
にわかに緊張の高まった病室内に不似合いな明るい電子音が響き渡った。
一瞬にして全員の視線がその音源に集中する。
「わっ、わっ。ご……ごめん」
その場にはふさわしくない明るく軽快な音は、正樹の腰のあたりでしていた。まるで、一昔前のゲーム音の様な音は、正樹の電話の着信音だ。
慌てて正樹はスマフォを尻ポケットから取り出し電話に出る。
険悪な雰囲気の二人を残し、病室から出て行く。
正樹は内心ほっとした。こんな風に言い合う険悪な場面は彼の性には合わない。糾弾されているのが自分でないと判っていても、何となくどぎまぎしてしまう。
だから正樹はこれ幸いとそそくさと病室を抜け出し、電話を掛けてきた相手が誰かもよく確認せずに出ていた。
『もしもし。篠崎です。とかちゃん携帯であってますでしょうか』
とかちゃんとは正樹の友人間での正樹の愛称だ。疾上の上二文字を取った簡単な物だったが、これは彼が小学生の頃からの彼の愛称だった。
これに倣うなら、当然新汰も『とかちゃん』なのだが、正樹が新汰と会った時には既に正樹の愛称として『とかちゃん』が定着していたため、そして新汰の名前がそのまま呼びやすい名前だったために、正樹と新汰の二人の間では名前で呼び合うようになったのだった。
「あっ?えっ?篠崎さん?!」
いつもの男友達か家族からの電話だと思いながら電話に出たため、正樹はドギマギして声が上ずってしまった。
『あ、うん。おはようこんな時間に。まだ寝てた?』
「あ、いや。ううん、大丈夫……どうしたの、確か篠崎さんも朝苦手って言ってたよね」
『うん……そうなんだけど、さ。昨日の子、えっと戸上……君って言い難いね。陸君だっけか。見た感じじゃ異常なさそうなのに目を覚まさないって言ってたから。ちょっと気になっちゃって……』
やはりイケメンだと気になるのだろうか。
ふとそんなことを考えてしまう。自らの容姿と陸のそれを比べてしまい、一瞬にして気持ちが沈んでしまう正樹だ。
「それなら……」
『でね、とかちゃんがもし良かったら、今日もお見舞いにでも行かないかなって電話してみたんだけど……』
それでも陸の様子を伝えてあげようと口を開けかけた時、彬華がそんなことを提案してきた。
これはデートの誘いなのでは……!
一瞬にして落ちていた気分が元に戻る。現金なものだ。
彬華にとっても陸の――戸上の長男の――不調は気になるところだったのだがそんな事情は正樹は知らない。彼女が術者の端くれだという事すら知らないのだから。
それは彬華自身も同じことだ。術者という言葉すら彼女は知らない。術を抑えるために自ら研鑽を重ねていたが、それが術者としての力量を上げることに繋がっているなど考えもしていないからだ。
「あ、うんそれなら。今、新汰と病院にいるんだ。篠崎さんもおいでよ。駅まで迎えに行くから」
二人の会話はそんな裏事情などどちらも知らぬままに進んでいく。
「そうなんだ。実はね、もう近くまで来てるの」
「えっ?!」
声は電話の中とすぐ傍から同時に聞こえて来た。
顔を上げて正樹は周囲を見渡す。陸の病室は玄関ロビーから通路を挟んで繋がる緊急処置室の隣に仮に収容されていた。
自動ドアをくぐって入って来たことで彼女の声が聞えるようになったのだろう。誰もいないロビーは良く声が響く。
彬華の声は女性としては低い方であったが、甘く擦れる良い音がする。
音に敏感な正樹だからこそわかる、彼女の声の癖を感じ取って、彼は微笑んだ。
すぐにロビーまで歩いて来ていた正樹は、微笑んで彬華を迎えた。
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