59.病院での会見③
日付変わってしまいました。今回も短いですが、読んでいただけると幸いです。
「ところで、日上君には連絡入っていないの?新汰から伝えてくれるだろうと思っていたんだけれど」
新汰と吉良の会話がひと段落下あたりで、正樹が問い掛けた。
徹の名が出た途端に吉良が僅かに顔を顰めた。それに気付いた新汰が、おやっと言う顔になり吉良の方に視線を流す。
「日上君は苦手ですか?相馬さん」
「いや……そんなことは」
言葉を濁すが明らかに先ほどと比べると表情が曇っている。
正樹もそれに気付き、少しの間吉良の様子を伺ってみたが、吉良はその件については聞かれたくないらしく言葉を継がない。
「日上君ね……。実はこっちも色々あってさ、本家に戻っているんだ。陸君の件は今のところ本家には話していないから、日上君のところに陸くんの話が届くのは来週になってしまうかも知れないよ」
少しの間の後、新汰は正樹の質問に答えた。吉良の様子の変化が気にはなったが、本人が言いたくないことをあれこれ詮索する気分にもなれない。
「本家も何か起こってるん?」
「何かって言うならあそこはいつでも何か起こっているような場所だけど……。今回はちょっと大事になってしまいそうだよ」
「暁乃がまた何かやらかしたのかい?……それか逸夏の件かな?」
そこへ今まで口を閉ざしていた吉良が横やりを挟んでくる。
生来のおしゃべりなのか吉良は、聞かれたくない事以外は気さくに話してくれるようだ。
「うっ、鋭い。良く判りましたね」
「いい意味でも悪い意味でもあの二人は目立つからね」
「そうなんだ……」
暁乃と言う女性に関しては正樹も何度か見たことがあったので顔は思い出せた。確かに子供の時からキツイい性格をした女の子だったという記憶があった。
暁乃と逸夏というのは、新汰の父の下の兄の子供たちだ。今現在、戸上家には女性の術者は彼女達二人しかいない。
つまり、彼女らは誰もが認める最有力の当主候補なのだ。
しかし、姉の暁乃は享楽的な性格で、修行どころか学校にもろくに行かず、遊び歩いているという。そのせいで術力は高いもの練度は低く、その性格も相俟って術者達からは評判が悪い。
対する逸夏の方はまだ若干12歳だ。術者としての修行を始める頃合いではあるがこちらも能力は未知数だ。
「逸夏は真面目で大人しい子だから、問題を起こしているのはまた暁乃かなぁ。あいつ性格悪いしなぁ」
頭を掻きながら半ばあきれ顔の笑顔で語るその様子は、吉良が暁乃と既知の間柄である様だ。
考えてみれば彼らは母は違うとはいえ兄妹である。知らない方が珍しいだろう。
「まあ、そんな感じで今日は日上君は来れなそうなんだ」
「そっか……じゃあ、このメンツで行くしかなさそうなんだね」
「いく?どこへ?」
急に話が飛んだことに驚いて二人の顔を見比べる吉良。正樹も何のことだか判らないのか、きょとんとした表情をしていた。
こうして横に並べるとスラっとしている新汰の方が背が高く、がっちりとした体形の正樹の方が背が低いので、実はさほどにあるわけでもない二人の身長差が強調されるのだと言うことに気付いた。
「ああ、まだ話してなかったか。実はね……」
まるで漫才のコンビの様な二人の佇まいに、吉良は笑いそうになってしまうのを堪えながら大して興味も湧かない新汰の話を流していた。
R02-09-01 一部訂正