見舞客
やっと新キャラ登場ってあれ?女性じゃないじゃんって思ってます?!すみません……『高地の~』でちょっと出て来た、清藍にちょっかいを掛けている男性ですねぇ。(覚えてる人なんていないかも……)
でも暗くない場面を書くのはやっぱり楽しいですね。早く、陸君達も元気を取り戻してくれるといいのですが……。
と思わせといて、今度こそ女性の新キャラですよ!!と言ってもどっかで見たことある様な方ですけれど。
やっぱり女性が多いとやる気がでますね!え?私だけ?
このシリーズでは今まで出たことのなかった、お色気系のキャラなので文章で書いていない(書けない)行間で何をしているのか考えるだけで楽しい!
いやいや……この小説は全年齢対象の健全な小説ですヨ!!(笑)
病室のドアをノックする音で陸は顔を上げた。
正樹が出て行ってからしばらくが経っている。忘れ物というわけでもないだろう。
「……はい?」
通る声で返事を返すと、からからと遠慮がちに病室のドアが開いた。
廊下から覗いた顔は見覚えのないものだ。
「……うわっ、すごい病室……」
落ち着いた雰囲気の室内が先に目に入ったんだろう。小さくそんな声が聞える。
突然の来訪者に何だろうと反応し一度顔を上げたが、そのまま反応がないので手元の参考書に目を戻しかけたところで再び声が掛る。
「……あ、あの。ここは水上さんの病室で合ってますか?」
どうやら間違いではないらしい。
来訪者は一歩だけ踏み出した足を、一度戻してドアの横にあるネームプレートを確認しながら問い掛けてきた。
「水上ですが、清藍の部屋かという問いであればそうです」
客と判り陸はふわりと作り笑いと感じられないくらいの自然な笑顔を作って答えた。
「みかみ……?ああ、あれそう読むんだ」
小さい独り言が聞こえてくる。清藍は自分の名前の読み間違いすら訂正していなかったようだ。彼女らしいと陸はほんの少し頬を緩めた。
「あ、良かった。具合悪くされたと聞いて……」
そこまで聞いて見舞い客らしいとやっと気付き慌てて陸は腰を上げた。
「どうぞ、中に。すみません、生憎彼女は今眠っていますが……」
そう声を掛けられて見舞客はほっとした様子で室内に入って来た。
陸は彼女に自分たち以外の見舞客が現れると思っていなかったため、対応が後手に回ってしまった。内心驚きながらも表情にはあらわさず、来客に椅子をすすめる。
広い室内である。勧められる椅子もパイプ椅子などではなく、木製の座りやすそうな椅子だ。
陸は窓側に椅子を置いて座っていたため、入り口側の椅子に来客を座らせることになってしまったことを少しく悔いたがもうどうにもならない。
そちら側には仕切りで区切られて見えなくはあるがトイレがある。来客に進めるには失礼だったと思ったのだ。
来客は小さくまとめられた花籠とケーキか何かの入っているであろうと推測される白い小箱を陸に手渡すと勧められるままに入り口側の椅子に腰かけた。
随分と軽薄そうな若者だ。
陸が最初に彼を見た時の感想はそんな感じだった。明らかに色を抜いていると思われる栗色の髪に、左耳には金の地金に緑色の石がはめ込まれた小さなピアスが光っている。
整っているといって差し支えない顔に少したれ気味の瞳が印象的だ。切れ長で精悍な印象の陸とは対照的な人懐っこい雰囲気がある。美少女といって差し支えない清藍を挟んで陸とその青年が向き合う姿はなかなかに絵になる。
「みずかみさん、ではなくみかみさんだったのですね。すみません、ずっとみずかみさんと呼んでいても訂正されなかったので……」
恥ずかしそうに首の裏を掻きながら青年はそんなことを言い訳がましく呟き、それから思い出したように顔を上げた。
「あ……僕は高木といいます。みずか……水上さんとは大学の同期です」
「崎大の……わざわざありがとうございます。お見舞いまでいただいてしまって……」
「貴方はお兄さんですか?ご両親はいらっしゃらないと伺っていますが……」
「あぁ、失礼しました。僕は戸上陸といいます。彼女の遠縁です。仰る通り彼女には親族が少ないので。それに僕も崎大の学生です」
「あぁ……なるほど」
高木と名乗った青年は眠っている清藍と陸を順に見て何かの共通点でも見出したのかそう言った。それから室内の様子をもう一度見まわしてから
「元気そう……って言うのも変ですけど、それ程は酷くなさそうで安心しました」
ベッドに眠る清藍の顔色を眺めて高木は安心したように笑みを浮かべる。
清藍の頬には赤みが差している。傍目にはただ眠くて寝ているだけの様にしか見えないだろう。今にも目を開けそうだと陸とて何度も思ったのだ。
高木もそう感じたのだろうという事はすぐに推測が付いた。陸もわざわざ悪い方向へ訂正する気もなく作った笑顔をさらに深く刻んで見せた。
「ありがとうございます。せいらが目を覚ましたらお見舞いいただけたことを伝えておきます」
「はい……お願いします」
高木はそれから少しの間、清藍の寝顔を眺めていたが、眠っていて反応のない彼女を見ているだけでは、部屋の中にもう一人いるこの状況では居心地が悪いというのが正直な感想だろう。
もしも陸がいなければ気の済むだけ、それこそ彼女が目を覚ますまで寝顔を眺めていてもいいくらいなのだが……と高木は思った。
名残惜しい思いを引きずりながらも高木は立ち上がった。
「眠っている彼女に迷惑になってしまいますので今日はこれで」
「はい、何もお構いできませんで」
帰り支度を始めた高木に姿勢よく立ち上がり、出口まで見送りながら陸は内心ほっとした。
本当は精神状態のあまり良くない今は正直すぐにでも帰って欲しかった。
「では失礼します」
礼儀正しくお辞儀をして去っていく青年の背を見送りゆっくりと病室のドアをしめると、陸は作り笑顔をすっと消して清藍を振り返った。
「良かったな、せいら。お見舞いしてくれる人ができて……」
そんな風に呟いた。正直男だということが心のどこかに引っかかっていたが、それがどういう感情から出ているのか良く判らなかった。
病室を出て出口へ向かい歩く高木は、ちらりと頭の中で先ほどの男――陸の顔を頭に浮かべた。
「せいら……ね。仲のいいところをひけらかしたわけでもない感じが余計に気になるよね。親類って言ってたけど、彼氏……かな……?」
今会ったばかりの礼儀正しく生真面目そうな雰囲気の青年の様子を思い返して、高木はにやりと少し人の悪い笑みを浮かべた。
「ライバルは一人じゃなかったかぁ。まぁ、それくらいの方が面白いよね」
その言葉は清藍を狙うその他大勢を指してはいない。
「え……?」
急に言い渡された事柄に驚いて、その女性は顔を上げた。いつも通り左右色違いのカラーコンタクトを付けたその瞳が大きく見開かれている。今日は黄色と青だ。
「済まないな」
その声は深く落ち着いた声だったが、何の感情も含まれていない様に感じられた。
「当代の戸上当主は、夜上を暗殺者としては使わないって言ってたんじゃ……」
「そのつもりだったらしいがな。状況が変わったんだろう」
「勝手ねぇ……」
「とにかく、お前の存在は戸上の関係者には知られない方がいい。しばらくは大人しくしていろ」
「別に知られたってどうってことはないと思うけど……」
言う事を素直に聞こうとしない相手に小さく舌打ちをする男は、一言で表すとしたら『異相』な男だった。
正面に腰掛ける女もある意味で異相ではあったが、明らかに不自然な色合いの瞳は生まれつきだと思う者もおらず、そういうファッションなんだろうと納得されるだろう。しかし、この男のそれは違う。
ある一つの事柄さえ思考から外してしまえばあり得そうな組み合わせだった。髪の色は茶色というよりもっと明るく光の加減で金に近く見える栗色で、その瞳も光彩の外側は緑で中心へ行くにしたがって茶色に変化するいわゆる『淡褐色』と言われる色合いをしている。
しかし日本人ではないのかと問われると違うとも言い切れない。精悍と言っていいその顔はどう見ても日本人そのものだからだ。
「たまには言われた通りにしろ」
「はーい」
ふざけた様子で右手を上げる女に、大袈裟にため息を付いて男は立ち上がった。テーブルの上にあった伝票を取りそのまま振り返りもせずレジへ向かう。
テーブルに頬杖を突いた姿勢のまま女はつまらなそうな表情で男を見送った。
男が店を出て行き、完全に姿が見えなくなると頭の後ろで腕を組み背を逸らせた。
「あーあ、しばらく退屈になりそぅー」
そのボヤキは小さく誰の耳にも聞こえなかった。
☆☆☆☆☆
その女性は黒一色の出立ちで病院のロビーに訪れた。まるで喪服かと思ってしまうが、単に黒一色で統一されているだけの様だ。
見舞いの品と思われる小さな紙の小箱を手に受付で確認した病室へ向かいロビーを奥へ歩いて行く。
ぼうっとしながら正樹を待っていた新汰は、黒のロングスカートに黒のカットソー姿の女性がカツカツと靴音を響かせて奥に歩いて行く姿を見送った。
病院で上下真っ黒の姿は好まれないんじゃないかなどと適当な感想を浮かべていた。
奥にあるエレベータの前で立ち止まり上階へ向かうボタンを押すと、折良くそのエレベーターが開き人が出てくる。
出て来た患者や見舞客の中に正樹の姿を見留めて新汰は腰を浮かせた。
そのままこちらに向かって歩いてくるかと思ったが、正樹はエレベーター前で待っていた黒服の女性と知り合いだったらしくそのまま立ち話を始めた。
黒服の女性の見舞い相手が自分の相棒だった可能性に思い至り、新汰は再びソファに座り直した。
話している相棒が出口の方を向いているため表情が良く見て取れる。恥ずかしそうな笑みを浮かべながらしきりに女性に頭を下げる正樹の様子にこれは、新汰はこの女性が例の女性かとにやりとした。
改めて新汰は相手の女性を観察した。
特徴のある茶色の髪は大きく波打って背を覆っている。ロングといってもその長さはマチマチで、肩より長ければロングと分類されるだろう。しかしこの女性の髪はその背中を全て覆うに止まらず腰から下、尻に到達するかという長さだった。
髪を伸ばす者は昨今では男女問わず増えて来たが、これ程まで長くしている者は珍しいのではないかと思われる。わずかに露出するその肌は日本人にしては少し浅黒い気がした。
話しながらこちらへ歩き出した二人を確認して新汰は再度腰を浮かせた。
「……正樹」
立ち上がった青年を見て、呼び止められた正樹と女性がこちらに視線を寄こした。
「新汰?」
「迎え来たんだけど……お前、入院先からそのまま転院しただろ?」
足に困ってるだろうと思ってという台詞は言わなくても判ると思ったのか口に出さなかった。
「あぁ、助かる。バス使うかなって思ってたから」
「あら、お友達です?ごめんなさいね、まさか退院の日に来ちゃうとは思ってなかったので」
綺麗な発音で紡がれた言葉に、外国人の可能性をほんの少しだけ期待していたことに気づき新汰は心の中で苦笑いする。
「いや、退院の日取り教えていなかったの俺だし……。まさかお見舞い来てくれると思ってなかったから……」
元々口下手な正樹はしどろもどろだ。焦っているらしい相棒のころころと変化する表情を面白がりながら新汰は彼女に向かい会釈をする。
「戸上と言います。正樹とは中学からの付き合いで悪友です」
「戸上さんですか。篠崎です」
戸上という姓に篠崎彬華はほんの少しのけぞった。
戸上の関係者に関わるなってさっき言われたばっかりな気がするんだけど……。背中にじっとりと浮き出す汗を感じながらも、二人には気づかれない様に桐華は作り笑いを作る。
「偶然ですね、二人同時に同じ時間にお見舞いに来るなんて……」
「そうですね……」
「ここで立ち話もなんだから、上のレストランで飯にしない?新汰も昼飯まだだろ?」
ぎこちなく会話をする二人に一番焦って見える正樹が少し上ずった声でそう言った。
R03-05-08 一部訂正・追加