53.奇妙な関係②
お盆ですね。お墓参りとか、色々めんどっ臭いっすよね。とは言え、大人ですからね。行って来ました。旦那の方の。明日は私の方の墓参りかな~。大人ってめんどくさいね!
「この寝ている人は、知り合いなの?」
桐華が持って来た荷物を一通り確認し終わり、会話もひと段落した頃に、桐華はそう正樹に問い掛けた。
正樹が座っていた椅子を進められすったもんだの末のことだ。今は桐華がパイプ椅子に腰かけその隣に正樹が立っている。
相変わらず桐華は吉良をいないものとして振舞っていた。
「ああ、うん。友達の親戚の……ああ、この前会ったでしょ、新汰の従兄弟」
「この前……ああ、疾上君の退院の日にあった人ね。あれ、そう言えばあの人もとかみさんだよね」
「ああ、読みは一緒だけど字は違うんだ。まあ、それで仲良くなったんだけどさ。あっちは、井戸の『戸』に上下の『上』で戸上さん。陸君も同じ」
「この辺、戸上姓多いもんね。地元の名士なんだっけ……」
「そうらしいね。新汰んちもすっごいでかいよ。家の廊下でかけっこして怒られたもん、子供の頃」
吉良を置き去りにしたまま二人の会話は盛り上がっていく。
吉良もいい気分はしなかったが、今はその会話に割り込む気分にもなれずそのまま、そんな会話を遠巻きにして窓の外を眺めていた。
吉良にとっては桐華は通りすがりの存在でしかない。よく図書館で見かける気になる女性という程度だ。
あの口下手だと言っていた、正樹が気安く話せる間柄という事には興味がわくが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
それよりも彼の心を占めていたのは、正樹が所有している眷属神の方だ。彼女の到来で聞くタイミングを逸してしまったことの方が気にかかっている。今は桐華には早くご退場願いたかった。
気が付くと二人の会話はひと段落して、桐華がこちらを見ていることに気付いた。吉良の様子を伺うような、もの問いた気なような表情をしている。
しかし、彼女の方から問いかけることはなく、吉良と視線が合うと表情を消し何でもない素振りで視線を外した。
吉良にとって桐華はただの通りすがりの。まさか、ここに来て要注意人物と自分が位置付けた者の知り合いとして登場するとは当然夢にも思っていなかった。
こんな状況で登場されてしまうと、彼女に対しても何かあるのではないかと疑ってしまう。
それは事実ではあるのだが、桐華としてもこの事態は不測そのものだ。
桐華は、吉良が名乗らずとも、戸上に連なる人物であることはある程度予測できていた。けれど、正樹に対しては全くの予想外だった。
正樹から感じ取れる術力はそもそも昔から鍛錬されて、基礎が出来上がっているという雰囲気ではなく、単純に自然体の状態で溢れ出ているだけに感じられたからだ。
それこそが、正樹が他の術者よりも力劣っている理由の一つであったが、それを桐華が知る由もない。疾上一族はもう存在しておらず、その鍛錬方法もとっくの昔に歴史の闇に消えているのだ。
「相馬君はどうするの?一応、陸くんは落ち着いたみたいだけど」
正樹と桐華の様子を伺っていた吉良に、正樹が声を掛けてきた。
「ああ、どうしようかな。陸くんとは知らない仲でもないし、できれば目が覚めるまで待っていよう」
「ああ、そうなんだ……」
「そっちは?」
何なら帰ってくれても良いよと言う前に、正樹が返した。珍しいほどの反応速度で。
「俺も、新汰に連絡着くまでは待っていようかと思って」
二の句を封じられた形になった吉良。再び気まずい沈黙が襲来することになった。