49.戦いの兆し③
今回も短いです、ハイ。
戦闘っぽいシーンになると急に遅くなるのはいつもの事とは言え……。
新キャラの北斗はちこっと扱いづらい存在なので、余計に遅くなるという、ね。
そして、この状態で冷静でいられる新汰君が実は最強説。傍観している人間は冷静に対応できても、当事者になったらパニくるのが凡人というものです。
そして、結局女の子を出す出す詐欺になってしまった件。しばらく出てこなさそうだヨ。( ノД`)シクシク…
『夜上の一族の中には血に酔って狂ってしまった者もいる――』
先ほど新汰から告げられた事実の中の一言が一瞬、徹の頭の中を過る。
無意識に身構えた徹だったが、――急に訪れた戦慄が誘った、頭の芯までしびれるような感覚はなじみ深い――それに気付いて自然に笑みがこぼれていた。
こんな自分に心底嫌気を感じながらも、徹は自分こそが生まれながらの血に飢えた獣なのだと嘲笑った。
それが、徹に余裕を与えてくれた。
「俺を試したんですか?」
声は硬質。緊張を解いたわけではない。それでも、敬語を崩さないのは、近くに新汰がいるからか。
そうだ。近くに新汰がいる。巻き込むわけにはいかないのだ。
視線だけを辺りに這わせて、悠然と腰掛けたままの男――北斗と、新汰の位置を探り、立ち位置を変えずに微妙に体の向きを調整する。
「試す?」
徹の構えにも、挑発するように練成する術力にも、北斗は反応しない。変わらず悠然と椅子に体を預けている。まるで、徹など相手にしていないと言われている気がした。
「主様の秘蔵っ子を試す必要がどこにある?」
主とは誰なのか、など問う必要もなく、何故か徹にはピンときた。
「それは俺じゃない……」
「ちょっ……!」
「下がれ、新汰。今はお前の出る幕じゃない」
どんどん剣呑な方向へ進んでいく二人の会話を止めようと――徹を庇う意志も働いたのだろう――一歩前に踏み出した新汰を、視線の動きだけで牽制して、静止させたのは硬質なままの声そのものだった。
悠然と座したまま、北斗は視線を新汰から、徹へと移す。
何の感情も映していない不思議な色の眼が、こちらに注がれていると意識しただけで重圧が上がるようだ。
交錯する視線。動きは僅か。音すら聞こえない攻防。術力を練り上げる気配すら感じない北斗の自然体に見える姿こそが何よりの脅威だった。
俺ごときでは術を練る必要もないってのか。
その思考が僅かに徹に焦りを誘い、術の練度を下げようとする罠なのだと判っていてもどうすることもできない時もある。
高まる緊張と、練り上げられる術の気配に新汰ももうどうにもできないと、半ば絶望的な思いで唇をかみしめている。
今声を上げて下手に徹の意識をこちらへ向けては、かえって彼の邪魔をしてしまうだけだ。今の自分にできる事と言えば、周囲に被害が及ばないように配慮するくらいか。
幸いここには木が沢山ある。
焦ってはいけない。自分に言い聞かせる。それでも、じりじりと心を焼く何かを完全には押さえられてはいない。
緩やかに高まっていく焦りを、高揚へすり替えて新汰は成り行きを見守るのだった。