48.戦いの兆し②
こんな終盤になってまで登場しないので、北斗さんやる気ないのかと心配してたところです。
【高地の異変~】でちょびっと出て来ただけで、全然動いてない(ように見える)から、どうしようか結構困っていたんですけど、こんな田舎でさぼってたようです。
男ばっかりで、花がないのに更に男臭くなるという。可愛い女の子はいないのか?!
つ……次こそは女の子を出すぞ!出すぞ出すぞ詐欺になりそう( ノД`)シクシク…
人の悪い笑みを見せて笑う新汰に、徹は吹き出してしまった。
「似合わないですよ。そういうの」
隣のシートに腰掛けてまだシートベルトすら外していない状態で、徹は隣でひとしきり大笑いする。
運転席の新汰はというと、憮然とした顔で腕を組んでいる。
「……少しくらい、格好つけさせて貰ってもいいと思うんだけどね」
「貴方は……正樹さんもそうだけど、人が良すぎます」
「それも気に入らないんだよ。どうして、俺は『戸上さん』で正樹は『正樹さん』なんだい?」
「それは、単純に二人の苗字が『とかみ』だからですよ。先に出会った方が苗字呼びされるのは宿命でしょ?」
「気に入らないから、名前呼びを要求するぞ!!」
「判りました、判りました。新汰さんって呼べばいいんですね」
新汰の子供染みた要求に笑いながら応じて一頻り和やかに笑いあうと、シートベルトを外す音を合図に二人は顔を引き締めた。
正樹の車は鄙びた農村地帯に停められていた。市内からは想像できない程、のどかな風景が広がっている。周囲は刈り取られたばかりで淋しい様子を見せる田圃があり、結構な広さの川がそれを横切っている。
所々に林檎など果樹の木が植わっている畑があるのが見て取れた。林檎と判ったのは果樹に白い袋が掛けてあったからだ。
「ここは……?」
車は走ってきた道路に隣接する砂利の広場に停められているが、周囲には多少の民家が見えるものの特にめぼしいものは見当たらない。
「一応まだ市内だよ」
答えにならない答えが返って来た。
新汰の真意を測りかねて、徹は新汰を振り返る。新汰は仕種だけで付いて来るように促すと、先に立って歩きだした。
言わないという事はそれなりの理由があるという事か。
しばらく歩くと、周囲に点在する民家すら途切れ、小さな林に差し掛かった。二人が辿る道はその話の中に向かっている。
ほどなく二人は昼なお暗い雑木林の中を歩くことになった。
しかしそれも長い間ではなかった。数分も歩けば道の終着点が見えて来た。
それは小さな木こり小屋の様に見える。
近付いて行くうちに、道はそこで終わっているわけではなく、左右に蛇行しながら小屋の後ろの山へ続いていた。
近付くにつれて、それが言葉通りの掘っ立て小屋ではなく、人が寝泊まりするのに十分な広さを有した建物であることが判った。
新汰はその小屋の前で足を止めて、ゆったりとした動作でドアを叩いた。
徹は林に入る前とこの小屋に近付く直前に、新汰がそれとなく周囲を伺っていることに気付いていた。それ程に用心が必要なのは、この小屋の外かそれとも――。
答えはすぐに帰って来た。深みのある低い声だとは徹の素直な感想だった。
扉を開けると、入ってすぐに部屋に、丸いテーブルを囲んだ数客の椅子の一つに、黒衣を纏った青年がゆったりと腰掛けていた。
最初に目が行ったのは、身にまとう黒衣。そして、砂色の髪。よく見ると瞳の色もかなり薄い色をしている。外国人かと思ってしまう見た目ではあったが、先程の声は綺麗な日本語を話していたのを思い出す。
しかし、その外見の色彩とは裏腹に、徹には彼からどんな術力の欠片も感じなかった。
「お久しぶりです」
椅子に腰かける男に軽く頭を下げて、新汰は後ろにいる徹に場所を譲るように一歩下がった。
「徹君、紹介するよ。彼は、谷守北斗さん。北斗さん、こっちは日上徹君です」
北斗と呼ばれた青年は、新汰から徹へ視線を移し、うっすらと微笑みを浮かべて会釈した。
「新汰君。多分、こういった方が説明が早いだろう。夜上北斗と」
「夜上――」
車での道中に新汰からもたらされた情報がすぐに思い返された。
「日上と相見える日が来るとはね。我らは対極に在るものだが、もうどちらも滅びゆく運命にある。願わくば、戦場で逢いたかった……」
柔らかく穏やかな声で紡がれる言葉は、あまりにも剣呑で。この期にあっても、闇の気配のひとかけらも漏らすことなくある存在にただ徹は戦慄していた。