44.小さな軋轢②
久しぶりのコメディ要素。ラブが付かないこの悲しさ。ひげづらの小太り兄ちゃんと綺麗めのお兄ちゃんのBL要素なんて書きたくないしなぁ。どうせやるならどっちも綺麗なお兄ちゃ……。違う違う。
このお話は健全路線ですよっと……。裏設定見るとものっすごいどろどろのメロドラマが想像できるなんて……ことはないんだZE。
そろそろかわいい女の子を書きたいが、この話は女の子の方が強い場合が多いんだよねぇ。私の唯一の癒しは杏子姉さんだけだ♡
ああ文子おばちゃんも結構好きw
診察と治療は終わり陸は、ナースステーションから近い個室に寝かされていた。
呼吸も心拍も安定しており、じき目を覚ますだろうと担当医は二人に告げて次の診察に向かって行った。
病室に残された二人はどうしたものかと所在なげにしながらうろうろしている。
見舞客用だろうかパイプ椅子が二人分用意されているが、吉良は最初から座らずに窓際の壁に背中を預けて立っているし、正樹はパイプ椅子に座り落ち着かなさそうに顎の無精ひげを撫でている。
「本家に連絡したの?」
沈黙に耐えかねたのか吉良が正樹に問い掛けた。
気付けは陸が病室に運ばれてたっぷり三十分以上言葉を交わしていなかった。
正樹は先程から手で弄んでいた加熱式煙草の入った箱を見詰めたままで吉良の方に顔を向けてこない。勿論返事も帰ってこない。
それどころか正樹はおもむろに立ち上がり病室を出て行こうとした。
「ちょっと!」
慌てて正樹を呼び止める吉良。
「俺の声、聞こえてない?どこ行く気だい?!」
普段は穏やかな吉良だったが、流石に腹を立てて声を荒げる。
「……声」
対する正樹の声は小さい。大きな体を猫背にして、こちらを伺う様にして振り向いているが相変わらず視線は合わない。
「声大きいよ。……ここ病院だから」
声が小さすぎて言葉の意味を理解するのに一瞬時間を要した。窘められたのだと気付くと更に苛立ちが募る。
それ以上何も言わずに歩き出す正樹に、その苛立ちをぶつけてやろうと吉良もそのまま彼について病室を出た。
正樹はそのまま入ってきた通路を逆に辿り、病院の玄関ロビーを抜けると外に設置されているベンチに腰掛けた。
いつの間にか手にしていた加熱式煙草を喫煙用の器具につけておりそのまま口に運ぶ。
どうやら煙草を吸うために出て来たようだ。
「それで、戸上の家に連絡を入れたの?」
先に口を開いたのはまた吉良だった。一口、二口と正樹が煙草を吸うのを待いたがそれでも話し出す様子のない正樹にしびれを切らしたのだ。
聞かれてからもう一度煙草を吸い、更に数秒してから正樹の返事が返って来た。
「君がもうしていたのかと思ったよ」
「何で?!」
「さっきそう言ってたでしょ『本家に連絡した』って」
吉良はしたのかと確認するために問うたのだが、正樹には語尾が聞き取れなかったようだ。もしかしたら考え事をしていて良く効いていなかったのかも知れない。
「したのかって聞きたかったんだよ」
「そうか。……ごめん。一応、新汰には入れたけど既読になってないな」
左手に煙草を持ち替えて、右手でポケットの中からスマフォを取り出し、画面を送りながら正樹は答えた。
「新汰???」
突然出て来た固有名詞に、吉良の頭の中で疑問符が飛んだ。
暫く考えてやっとそれが戸上当主・綾乃の三男のさらに下の息子だと思い出した。その新汰と親しい術者は誰だったか……。
「あっ……!疾上正樹!」
急に大きな声で名前を呼ばれてびくっと肩を震わす正樹。
「そっか、戸上じゃなくて疾上かぁ!どうりで聞き覚えのない名前だと……」
戸上も疾上も発音の上ではおなじだ。紛らわしいことこの上ない。
「……びっくりした……」
やっと正樹の姓についての勘違いに思い至った吉良の耳に届いたのは、正樹の小さな声だった。
そして吉良はもう一つ大きな悟りを開いた。こいつただのコミュ障だと。