41.最悪の邂逅③
意外な組み合わせの二人。予想していない展開になってしまって、作者自体がわたわたしているのは内緒です。
陸君また、気絶してる……。
「とかみまさきって言ったね?」
後部座席から声が聞えて来た。ごつい見た目に反して、小さい可愛い車に乗っている正樹だったが、中の方は酷いものだ。
ごちゃごちゃとした車内の色々な物を、ただ後ろのトランクに放り込んで、後ろに二人座れる空間を作り出している。
念のためシートベルトを絞めた吉良は、足元に転がる何足かの靴類の間に、菓子パンの袋が混ざっているのを見て顔を顰めた。
よく見れば加熱式の煙草の吸殻も転がっている。車内の中は若干というか結構臭かったが、文句を言うのはやめておいた。
汗とニコチンの香りの混じった車内で、発車するまでの間は黙っていた。
臭いに堪らなくなって少し窓を開けたが、効果はあまりなく、更に少し我慢して耐えられなくなった頃合いになって思わず上げた声だった。少しきつい口調になっても仕方ないというものだ。
「え?あ……うん」
相手、正樹は運転に集中しているのか、返事は何だか曖昧だ。声もあまり大きくない。というか、車のエンジン音で良く聞こえない。
「本家の人?」
「へ?」
一瞬、正樹は固まり暫く考えてから、戸上と疾上を取り違えていることに思い至る。その間も運転自体はスムーズだ。交差点を吉良の指示通りに左に曲がって直進する。
その際に助手席の裏に腰掛けてぐったりとしている陸を盗み見た。変わらず呼吸はしているが意識は戻らっていないようだ。
精鍛とした陸の顔に比べ、吉良は若干線が細く中性的な雰囲気の青年だ。身長は、軽く正樹より10センチは高い。
こうして並べて二人を見比べると、雰囲気は全く違ったが、顔に関してはやはり似ているような気がする。チッ、二人ともイケメンだなあ、と何故かちょっとだけイラっとする。
戸上の人間かと聞きたいのは、自分の方だと思ったが、やはり言葉には出せない。
正樹の返事をどう捉えたのか、吉良はまさき……まさきと小声で繰り返している。心当たりを思い出そうとしているのだろうか。
正樹はポケットから加熱式の煙草を取り出して口を付けた。独特の香りが車内に流れる。その様子を目にして吉良は構えたが煙は出ない。
吉良は煙草を吸わないし、火を付ける方の煙草はどちらかと言うと嫌いな方だ。
だがこちらは多少生臭いような気もするが、香りだけなら悪くもなかった。
「煙草、吸うんだ」
「え?あ、嫌いだった?」
「いや、大丈夫」
謝罪の言葉を口にしながら、慌てて煙草をゴミ箱に捨てて窓を開ける正樹に、吉良の方が焦ってしまった。
「加熱式の奴、大分臭い違うなって思って。嫌じゃないから、吸っていいよ。大体、あなたの車だし」
「あ……ああ。そうか、良かった」
何が良かったんだろうと二人とも心の中で突っ込んだが、声に出してはいない。そのまま、車は病院の敷地内に入って行った。
病院の名前は相良総合医院と書いてあった。
入り口にある大きな看板に50台は止められるだろう大きな駐車場。今日は土曜日の午後だったため、車の往来は多くないが普段は混雑しそうだ。
今も見舞い客らしい人々が出入りしている。
適当な場所に車を停めて、吉良は車を降り受付に歩いて行った。数分も待つと、ストレッチャーを押した看護師達が、正樹の車に向かって来て、あれよあれよと言う前に陸は運ばれて行く。
正樹はその様子を見送ってから、車に鍵を掛けて病院へ向かって歩き出す。入り口には吉良が、待つともなく立ち尽くしている。
R02-07-30 病院名訂正 相馬 → 相良