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五里霧中①

 ものすごい場の空気が悪くて書いてる私まで暗くなってしまいます。

 折角、呪いを解かれたというのに今度はこんな状況という、清藍は結構不幸な部類に入るヒロインなのではないでしょうか。

 まだ確定ではありませんが、男所帯のこの作品ですがもう一人女性が出る予定……です。勿論、杏子の再登場もあり得ます。あの方かもしれませんし、全然違う方かもしれませんが。(一応、徹はヒロイン枠なのだろうか?笑)

 というか、杏子って戦ったら実は最強なんじゃないかっていう説が……自分の中だけですが……。

 病院の最上階にある個室に清藍せいらんは寝かされていた。

 

 無駄に豪華な部屋だと、高そうなカーテンを眺めながら心の中で悪態を付く。


 大きな窓からは燦々と光が降り注いでいたが、傍に腰掛けるりくの心は晴れない。


 陸もまた入院中の患者という身の上だった。もともと血色のいい方ではないのだが、それにも増して顔色が悪い。


 川が氾濫したのは2日前のことだ。ロビーに行けばどのチャンネルもその話題で持ちきりで、連日テレビから氾濫の続報が流れている。けが人や死者が数十人出たという事だから田舎街では大事件だ。


 しかし、陸の体にはそれほど大きなけがはなかった。入院理由は検査入院であり、2日たっても下がらない熱の理由を見付ける為のものだ。


 重くだるい身体を押して清藍の部屋に来ていた。


 医者は多分、洪水に会った際に折った精神的疾患のせいだと結論付けるだろう。ふんと鼻を鳴らし陸はそう予想していた。


 彼は自分の体を苛む症状の原因を知っていた。いや、っていた。


 ゲームであればMPを使い切れば、魔法は使えなくなる。けれど、現実は違う。術力が枯渇したとしても、別のエネルギーを使用し術を使い続けることができるのだ。


 そう、HPを。そしてゲームと同じようにHPが枯渇すれば人間キャラクターは死ぬ。


 陸はベッドに横たわる清藍に目を向けた。


 ベッドに横たわる彼女の顔は血色が良く身体自体も健康そのもので、目を覚まさない理由が全く判らないらしい。


 結果、生命維持のための栄養剤の投与以外にできる処置がなく、目を覚ますのもいつになるか判らない。


 体の痛みより、術の負荷より彼を苛むのは今この状況そのものだった。何を犠牲にしても守りたい彼女が目を覚まさない。笑顔を見ることもできない。辛いのかどうか確認することさえ――。


 陸がため息をついたその直後に、病室のドアがノックされ、次いで遠慮がちにドアが開かれた。


 ドアから顔を覗かせたのは陸達と同じく病院に入院している正樹だった。


「……入ってもいい?」


 遠慮がちな声に薄く笑い陸は答える。


「どうぞ」


 その返答に小さく頭を下げ、正樹は室内に入ってくる。ベッドの中の彼女を確認し、同じ様にため息をつくと窓際の手すりに手を掛けて外へ目をやった。


「まだ目覚めないんだね」


「はい……原因が判らないらしくて……」


「外傷は擦り傷くらいしかないんだったっけ。検査とかで見つかってない頭の打撲とかもしかしたらそういうのが原因かもね」


「……だったらまだいいんですけど……」


「それもなさそう?」


「判りません。また明日検査するそうです」


「そうか。……原因判るといいね」


「そうですね……」


 二人ともにため息をついたところで、気分を変える為か陸が顔を上げて正樹を見た。


「正樹さんは退院ですか?」


「あ、うん。会社もそう休んでいられないしね。小さい切り傷だけだからちょっと無理言って退院手続きしてきたとこ。明日から会社行かなきゃ」


「まだ、あちこち痛むんじゃないですか?」


「うん、正直結構痛いけど……あんまり休んでたら路頭に迷っちゃうし。会社行きたくなくなっちゃうし」


 苦笑いして正樹は本音を吐露する。


 合わせる様にあははと笑う陸だが、なんだか気持ちが入っていない。


 再び室内に沈黙が訪れる。それを嫌う様にまた陸が口を開く。


「無理しないでくださいね。あの風の御神との一戦したばかりなんですから……」


「うん。会社に話したら明日から数日はもう一人付けてくれるって言うから」


「……そうですか。それなら安心ですね」


 気の無いけれど沈黙を嫌う故に意味の薄い会話が織り成されている。


「陸君はまだ退院できないみたいだね」


「……情けない話ですが、熱がまだ下がらなくて。徹がいないとこれ程不甲斐ないのかと情けなくなります」


「まあ、洪水の負荷から身を守ったんだから……。僕も守護術は苦手だし。同じ状況ならきっと今頃……」


 そこまで言って言葉を切った。彼女の様になっていたかもとは言えなかった。


「……僕が代わりになれたら良かったのに……」


 ベッドで眠る女性に目を落として、ポツリと漏れた小さな声は、運悪く正樹の耳にも届いてしまった。


 陸の藍良への想いは正樹も薄々気付いていた。愛しい人の肉親を守って彼女の元へ行けるのならば本望と言うところなのだろうかと、痛ましい気持ちを覚えながら年下の青年を見下ろす。


「……そんなこと言わないで。もし、彼女を庇って君が死ぬようなことになっていたとしたら、彼女がどれほど悲しむか……それに日上ひかみ君だって悲しむよ、きっと」



とおるは腕と肋の数本にヒビが入っており、現在起き上がることも許されていない。ベッドの上で己の未熟さを呪うだけの無為な時間を過ごしている。


 度を越したおせっかいな徹だ、いつもであれば何よりも先に清藍の安否を確認したがるだろう。その男が今まで一度も清藍たちの見舞いに来ないのは、怪我のせいだけではない。清藍や陸に会わせる顔すらないのだろう。


 返事のしようもなく言葉を探す陸に正樹はさらに言い募る。


「それに、彼女はまだ亡くなったわけじゃない。全員命があった事を喜ぶべきだよ。生きてさえいれば何とかなる。そうじゃない?」


「……そうですね。僕が弱気じゃ駄目ですよね。ありがとうございます」


「うん……。じゃあ、俺は行くね。日上君にもよろしく言っておいて。今は誰とも会いたくないだろうから」


「はい……、正樹さんもお大事に」


「ありがとう」


  細い目をさらに細くして正樹は微笑み病室を後にした。


~~〇~~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~


「本気……なの?」


 電話の相手は擦かすれた声でそう問い掛けた。


 何を今更と思う。


 青年は顔の見えぬ相手に気取られぬように笑みを溢した。


「お前だってずっと不満だったんだろ?今の……この状況に」


 青年の静かな声に含まれる得体の知れなさに、今耳にしたばかりの話の内容の恐ろしさに、電話の相手が息を飲む気配がする。


「そ……そう、だけど……」


 気弱そうな声に、ど・も・る・ような口調。


「そそそそのためにか関係ない人を、きき傷つけて良いわけがない……お、俺はい嫌だ」


 覇気のない小さい声に聞き取りずらい発音。まるで子供のような話し方。けれど青年は電話の相手が自分と年の近い青年であることを知っていた。


「じゃあ、このままずっとあいつの良いようにされたまま、人生を終えるつもりなのか?自分の欲望だけに忠実なクソ野郎の為に?」


 色素の薄い瞳に強い決意をたたえて空を見上げる青年の瞳は、一対の宝石の様に煌めいている。


「俺は……俺たちはあいつの道具じゃない。あいつはそんな事も判っていないんだ。それを教えてやるんだよ。頼む協力してくれ」


「おおおお前は……ただ、当主になななりたいだだけ……じゃないのか?ま前に言ってただろ……」


「違うっ!確かに子供の頃はそんな風に考えたこともあったけど。今は自由になりたいんだ。こんな……家から解放されたい……」


 それは電話の向こうにいる相手の願いでもあった。その気持ちに最も共感できるのは自分だということも良く判っている。けれど、それでも。




「あああいつらだって、た多分。俺たちと同じ、なんだ。ななななのに、じ自分の為にあああいつらを傷付けたら、おお俺達だってそそそのクソと同じ……だ。だから、おお俺は……」


「……そうか……。そうかも知れない」


 どもりながらも一生懸命自分の気持ちを伝えようとしてくる相手に青年は心を打たれ、そしてその相手の言い分の正しさに驚き、青年はその琥珀色の瞳に迷いの色を浮かべた。


「判った。彼らを傷付けることは極力避けよう。俺の標的はあいつだから。それなら、協力してくれるか?」


 スマフォから相手の荒い息遣いが聞えてくる。迷っているのだろう。それはそうだ。迷わない方がおかしいのだから。


「……う、うん。それなら……いいよ」


 数分の後に相手はそう返して来た。ホッとした青年は、今頃になって自分がきつくスマフォを握っていることに気付いた。それ程に緊張していたのだ。


「……ありがとう」


 感謝の気持ちを伝えたいのに、うまく言葉が見つからなかった。結局、伝えられたのはその一言だけだった。けれど、その分深く気持ちを込めて言おうと努力するしかなかった。


 伝わればいいなと思った。この世界でただ一人、思いを共有できる相手だったから。

R03-05-08 一部訂正・追加

R03-12-07 旧3.五里霧中①と間劇 蠢くもの① 招かれざる者を合併

R04-02-02 前半部改稿

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