表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/72

夜の香り

甲声かんごえ = 甲高かんだかい声 だそうです。


悲鳴って書きたくなかっただけなのですが、他にそれっぽい言葉ってあんまり見付かりませなんだ。


ほんのりBL要素……。いやいや、この話は健全路線ですからねっ!っていうか、友人に「徹は本当は男??女?」と聞かれました。


 基本は男性の見た目をしている徹ですが、女かも知れない彼(彼女?)感性は誰にもわからないのかも知れませんね。


そしてこんな和風な小説を書いているにもかかわらず、流している音楽はバリバリ(古い?)のLoud rock[ラウドロック]だという……。


陰陽座ばっかり聞いてたら飽きたのさ。


最近のお気に入りは、crystallake coldrain noisemaker……はラウドじゃないか……。勿論、ホルモンも大好物ですが何か


音楽に関しては浮気性というか、オールラウンダーなんだよね。クラッシックも雅楽も好きっすよ


上記のバンドがラウドじゃないって方がいるかもしれませんが、「ヘビメタ」って言葉があまり好きじゃなくて使ってるだけなのでおいらのなかでは「激しい系のバンド」って意味で使ってます。ジャンルとか良く判ってないので間違ってたらめんごめんご。


てかそんなに読んでる人もいないし、大丈夫か……


         普通に(  )使うと、ルビになるから逆に困る件

 膝が震えていた。


 何故だ?何故こうなった?


 混乱する頭の中を原色や蛍光色の疑問符クエスチョンマークが、重なり思考を埋めていく。


「何が……起こった。いいや、何をした?!シュイ!!!」


 下から這い上るような怒気が、彼の守護者を打った。見えない筈の相手に対しても、しっかりと痛手を与えるため自らの周囲を衝撃波が走る。


 その力は、生あるものにだけ衝撃が通るように調整された力で、彼の目の前の門と背後の道路には何の変化も与えなかった。


”何も――”


 静かな声が帰って来る。吉良だけに聞こえる声で。穏やかで艶やかないつも通りの声音。


「そんな筈があるか!!あれを見れば誰でもわかる事だろっ!」


 この会話すら聞き取られそうなほど近い位置に、彼は倒れているじゃないか。どう見ても不自然な作用で昏倒された状態で。


”私の力の一部があの「作用」に力を貸したのは事実。けれど、あれは「仕掛け」だ。私の意志は介在していない”


「……何を言ってるかわかんねーよ!!」


 いつになく激しい口調が彼の心を現わしている。その瞳にはありありと不信感が見て取れた。


”もともと仕掛けられていた罠だといったのよ。近くに水のがあれば我でなくても作用するように仕掛けられていた”


 言葉面の通り発言の意味が分からないと受け取った、水神:シュイは丁寧な説明を施す。


「そういうことを聞いてんじゃないよ!」


 声はついつい大きくなってしまう。理由のない激高が罪なき神を責める。八つ当たりだと心の隅で誰かが言っている。


”キラ。ここで大声は良くない”


 先ほどから感情の変化の一遍も感じられない声色で、水神:シュイは吉良を窘めた。


 その平坦さに更に苛立ちを募らせるが、確かに相手の言うことの方が正しい。


 ギリリと奥歯をかんで次の言葉を飲み込むと、吉良は数瞬の間無言で深呼吸を繰り返す。


 この場所はまずい。確かにそれは正しい。ここはこの地での術力の総本山なのだから。


 ある程度の理性を取り戻し、吉良は周囲をよく見まわした。遠くから僅かに蝉のなく声が聞えている。これは、ヒグラシの声だ。


「あいつを助ける。ヤツの思うようにはさせない」


”いいわ。キラの望みなら”


 シュイの言葉はいつも平坦だ。吉良は内臓を逆撫でられるような痛みを感じながら思った。しかしそれをシュイに伝えようとはしなかった。




 嫌な噂が耳を打った。とおるは戸上一族の動向には気を使っている。我が身を、ひいては清藍せいらんの身を守るために。りくから来る情報とは別のルートでもって、怪しげな動きかないかを検証している。


 次期当主を推す派閥は大きく分けて三つあった。現当主の綾乃あやのの次男、つまり陸の叔父の庶子である娘二人のどちらかを推す一派。


 綾乃の長男の息子の陸に誰か適当な娘を嫁がせ、陸に傀儡政治をさせたがっている一派。この場合嫁候補は現在は十織とおるか清藍だ。


 そして現在は形骸化してしまっていたが、藍良あいらを綾乃の養子に迎え当主を継がせようとしていた一派だ。


 藍良が亡くなってしまった時点でこの一派は一度、清藍を推す方向で調整をしていたのだが、くだんのお山の呪い事件が表面化した。


 1つ目の一派の中心が絢乃の次男、2つ目の一派が陸の父である絢乃の長男の一派なのは言うまでもない。3つ目の派閥はそのどちらにも与しない弱小派閥だったのだが。


 三つの派閥のうち、二つ目と三つめはいろいろと問題があるために、有象無象うぞうむぞうの末に現在は合流してしまったのだが、これがまた誰が主だって旗を振るかでごちゃごちゃとしている。


 表面上纏まっていたように見えた一つ目の派閥も、次男の娘二人のどちらかを推すかで対立が始まったらしいのだ。


 さらに清藍の呪いが解かれたことで三つ目の派閥がまた息を吹き返してきた。


 戸上当主の代替わりはいつも何かしら混乱が起こるものだが、今まではもう少ししっかりとした基盤があって、ある程度暗黙の了解のようなものがあった。


 そしてその混乱に乗じて、粛清を行おうと暗躍する者がいるという噂までもがたち始めた。


 誰が何を粛正するというのか。ただのお家騒動に殺人が絡むことは、普通の人々の間でもままある話ではあったが、それが戸上の人間になると更に質が悪い。


 既に滅んだとされる「夜上」までもが召還されたという噂だ。


 夜上は危険な一族だ。それが、一般の術者の共通認識である。基本的に夜上は個人意志を持たない。完全なる殺戮兵器だ。主の命を忠実に守る。ただそれだけの術者だと。


 夜上とて生まれは普通の人間だが、その存在の在り方が夜上の者を魔者まものに変化させるのだと言われている。


 夜上の力は純粋に人を殺めるための術で、度重なる殺しで正気を失って行くのだ。


 夜上の者は、子供の時から殺すためだけに術を研鑽けんさんする。


 綾乃が当主となった時点で残っていた夜上はその任を解かれ、望むものは戸上に合流し、それ以外の者は市井しせいに埋没していった。


 けれど、市井に紛れてなお血の味を忘れられぬ者がいる。そんな者たちは結局戸上に戻り、しかし綾乃の目を避けてその息子や妻たちにすり寄った。


 そんな者たちが動き出してしまったようだ、と。



~~〇~~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~



 きゃあっという甲声(かんごえ)がファミレス内に響いた。広いソファの上で子供が二人ふざけている。親が何度か小声で注意するが中々聞き分けでくれないようだ。


 悲鳴に近い部類の声に思わず反応した徹とおるだったが、その様子を確認すると緊張を解いて顔を正面に戻す。


 残念ながら待ち人はまだ来ていない。明るい色のソファーにポップな壁紙が似合っている。気軽に出入りできる内装と値段の店だったが、どうも落ち着かない。


 時間は三時過ぎで人はまばらかと思っていたが、学校帰りの学生と子連れの主婦たちとで意外に賑わっている。店の選定を間違えた気がしたが今更遅い。


 徹のみが取っている講義のある日で清藍せいらんと陸りくが休日の日に指定したからだ。日にちでこちらの都合を通したので場所は相手の指定に合わせた。


 流石に居酒屋は断ったが。相手は外回りの仕事をしているので日中でも割と都合がつくらしい。


 しかし来たことのないファミレスは何となく落ち着かない。このファミレスは大手の格安チェーンで、味も値段も申し分なく、更にドリンクバーが単品でも三百円程度なので大変人気があるようだ。


 徹もこの系列店に入ったことはあったが、この店舗は初だった。


 約束の時間を過ぎて既に十分が過ぎている。仕事が長引いているのだろうと判るのだが暇を持て余す徹は何となく気が急せいてしまう。


 暇つぶしにと出した参考書にも集中できず、安いとはいえドリンクバーの飲み物もそんなに飲めるものでもない。


 仕方なしに徹は賑わう店内から視線を逸らし、人や車の行き交う窓の外の様子を眺めている。以前に熱中していたゲームでもしようかとスマフォを取り出し操作していると、カランと入り口のベルが鳴った。


 店員のお迎えのあいさつの声が店内に響く。


「いらっしゃいませー、いつもありがとうございます」


 溌溂(はつらつ)した声を耳にして、元気な良い声だと感想を抱きつつも、顔は上げずにスマフォを操作する。


 久しぶり過ぎてアプリが見つからないのだ。


 入って来た人物が入り口で待ち合わせだと告げたのを聞き取った時点で、やっと徹は顔を入り口近くのレジへ向けた。


「こっちっすよ。戸上さん」


 軽く手を上げて、入り口で店員と向かい合っていた新汰あらたに声を掛けた。


 急いで来たのか軽く肩で息をしている新汰は、声のする方に顔を向け徹を確認すると店員に会釈をしてこちらへ歩いて来る。


 今日は少し涼しい。昨日の夜雨が降ったからだろう。


「遅れて済まない」


 軽く一言、言って新汰は陸の正面に腰かけた。スーツ姿の新汰を見たのは久しぶりだった。前回会った時と印象の違う新汰に視線が惹ひかれてしまう。


「悪いね、時間取れなくて。この後まだ一件人に会うんで」


 徹の視線に気付いて、新汰はスーツの上着を脱ぐと、煩わしそうにネクタイを緩めた。


「いえ。俺の方こそ忙しい時に……」


「気にしないでいい。君がわざわざ連絡してくるってことは、例の件に絡んだことなんだろう?」


「……」


 口を開いて答えようとして、そこで止まってしまった徹に、何かを察したのか新汰は皺のよった背広をソファの横に放りだして居住まいを正した。


「長くなりそうだね」


 新汰はやんわりと微笑むと、店員を呼びドリンクバーを注文した。


~~〇~~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~〇~~


「……夜の一族?」


 大まかな話を聞き終えて新汰あらたは絶句した。


 顎の下に手を当てて考え込む様に視線をさ迷わせる。何とはなしにその指先を見ていたとおるは、ちらりと見えた新汰の八重歯に気付いた。


 考えてみたらこうやって正面で向き合うことなどそれ程なかった。もともと戸上から縁遠い綾乃の三男の家族と、戸上にかこわれているとはいえ外様の徹では接点かはなり薄い。


 まして、徹は戸上の一族からも隠されるように育てられた。彼の生い立ちを考えれば、彼を守るために仕方のないことだ。子供の頃の徹(十織)の姿を知る者は少ない。当然、新汰も年に何度か顔を合わせる程度だった。


 ちろりと口の中を舐めるような舌の動きまでもが目に入ってしまい、八重歯の白と相俟あいまったそのなまめかしさに、見てはいけないものを見てしまったような気分になって徹はさっと目を逸らした。


 僅かに残る自分の中の女性が反応しているような気がして、何とも居心地の悪い気分になった。


 対する新汰はそんな徹の気分など知る由もない。当然のことだ。新汰は徹を男だと認識している。そして、新汰の嗜好はドノーマルなのだから。


 しばらく徹にとってだけ居心地の悪い沈黙が続き、耐えられなくなった徹が飲み物を取りに立とうとした時にぽつりと新汰が呟いた。


「婆様の好意がこんな形で裏切られることになるなんて……」


「え……?」


 体を浮かしかけた体制のまま、顔を新汰の方に向けたのでがたりと大きな音を立ててテーブルに腰を打ち付けてしまう。


「んがっ……って~!」


 辛うじて店内に響かない程度に声を潜めたが、それで痛みが変わるわけでもない。涙目になりながら、手に持っていたコップを手放して腰をさする。


 恥ずかしさと痛みで少し情けなくなってくる。


「大丈夫か?徹君」


 徹の動向に驚いて熟考を停止して現実世界に目を向けた新汰とまた目が合ってしまう。ほんのり赤面する徹だったが、当の新汰はその理由もぶつけてしまったことに起因すると思っているだろう。


「すんません、ドリンク取りに行こうとしたら……」


 徹はそれだけ言って逃げるようにドリンクバーの方へ歩いて行った。


 無駄としか言いようのない動悸を抑えながら、徹はさっさと店内を移動してドリンクバーコーナーに向かう。大した時間もかからない行動に、飲み物を選ぶふりしてたっぷりと時間を使い、熱くなった頬が戻るのを待った。


 その後、さも何にもなかったかのような顔で、新汰の向かいに戻る。


「すんません、話の腰を折ってしまって」


 馬鹿の一つ覚えの様にもう一度誤ってから、腰を落ち着けて聞きの体勢を取る。


 見た目にはいつも通りの徹だ。


「いや、こっちこそ。ずっと黙ってたら飽きるよな」


 すまんと新汰が謝って来る。陸は頭を掻いてから、話の先を促した。


「それよりも。裏目に出たってどういうことっすか」



 夜の一族……。新汰あらたから聞かされた事実は、想像よりも衝撃的だった。


 一言でいうならば、彼らは戸上当主直属の暗殺集団だった。


 確かに術を用いれば証拠を残さず人を殺めることも可能だろう。しかし、戦乱の世でもあるまいに、どんなことに暗殺者が必要だというのだろう。まして戸上の家系は地元の名士とは言っても、政治に関わっているわけではない。


「冗談みたいだろう?」


 と、新汰は笑った。その笑いには深い疲弊ひへい諦念ていねん


 夜上やがみと名付けられた一族。他の一族と違い、夜上の「上」を「かみ」ではなく「がみ」と発音するそうだ。


 その濁点ただ一つにどんな意味があるというのか。


 他の属性を受け継ぐ傍系の一族とは違い、夜上は一族と呼ばれはしても、血で繋がれてもいないらしい。同じ闇の力を持つものなら全て一族なのだそうだ。


 りくと机を並べて、戸上の歴史について学んだとおる)だからこそ知っていることだが、戸上では姓に使われている漢字は画数が数ない程に宗家に近い血筋とされている。


 本来は「十上」という姓の一族が大本であり、今の戸上家ですら傍系の一つだったのだ。しかし、その真の宗家はもう()()()()()


 明治のに。日本の戦乱の終わりに、歴史の汚点として()()()()()()のだ。時の天帝てんのうに。


 夜上もそうして同じように闇に葬られたのかと思った。そう新汰に問うと、新汰は疲れた笑みのままに首を振った。


「夜上一族は解散された。婆様はおっしゃったんだ『光の世界へ戻れ』と」


 その呟きはどこか優しく、心を温めるような響きがあった。


 話が終わると、新汰は席を立ち、徹を促した。どこへ行くのかと問う徹に答えず、そのまま徹を伴って店を出だ。


 そのままもの問いた気な徹を連れて、近くに停めていた車に戻った。運転席に腰かけ、隣で徹がシートベルトを付けるのを確認すると、ぽつりとこう言ったのだ。


「夜上の元当主に会いに行く」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ