表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
話せる人  作者: kikuchiyo
1/9

遠山の金さん外伝

「いい御身分だね・・・昼間っから。」

 道乃進は部屋を見渡した。

 この部屋には自分と猫しかいない。

“猫がしゃべった?”

かなり悪酔いしてるようだと道乃進は考える。 最近呑みすぎなのだ。

「とうとう頭に来ちまったか。 こう毎日酒ばかり飲んでたんじゃ無理もねえ。 いよいよおいらも終しめえだな。 まったく、頭痛くなってきたぜ。」

「何言ってんのさ! そう思うくらいなら少しはお酒を控えりゃどうなんだい。 そのくらいの理屈がわからないほど、あんたもおバカさんじゃあるまいに。」

猫は道乃進の方をちゃんと見て言う。

「うわっ。 こりゃダメだ。」

猫は下町の芸者みたいな口を利く。

 酒の品が変わったのではないかと、疑ってみる。

 オミチがケチって安い酒に変えやがったのではないかと。 そりゃあるかもと。

 無理もない。 自分のような居候抱えて利の薄い商売をやっているのだから、そうしたくもなるだろう。

 酔いが覚めて一心地つけば、正気にもどるだろうと、もう一杯口をつけた。

 「そうはいかないよ。」

 うわっ、また喋った。

 猫は上目遣いにこっちを睨むようにしながら、ペロリと舌を出し、お手々を数回舐めたあと、再び道乃進を見た。

 「あんたは呑み過ぎて自分の頭がおかしくなっちまって、猫が喋ってるように聞こえるって思ってるらしいけど、そうじゃないの。

 あたいがあたいの意思でもって、道乃進、あんたに喋ってんだよ!」

息がつまりそうになった。 だいたい道乃進なんて呼ばれるのは久しぶりだ。

猫をじっと見ていると、猫もじっと見返してくる。 背筋が寒くなり、一変に酔いが醒めた感じがする。

ここは逆に思い切って猫に言ってみた。

「おいら、猫の言葉がわかるのかい? 猫もおいらの言葉がわかるのかい?」

言ってみてまたびっくりした。

いざ喋るとその声は、まるで洞窟の中で喋っているように聞こえる。

こごもって、響いている。

口で喋るのではなく、頭の中で喋っているような・・・妙な具合だ。

「おうだよ。」

猫が応えた。

「それとね。 ったく、猫猫って言わないでおくれよ。 あんたが付けた三毛って名前があるだろう。 三毛猫だから三毛なんて考えがなさすぎるけどね。」

 そうだった。 

この猫が小汚い子猫だった頃、自分に付いて離れないものだから、連れて帰って来たのが始まりなのだ。

食べ物と水を与え、どっかいなくなるだろうと、放っておいたのだが、そばを離れようとしない。 情が湧き、三毛などと名前をつけたことも道乃進は今思い出した。

 その時はオミチも

 「困った時はお互い様さ。」

 なんて言っていた。

 いやそんなことではない。 

今自分は猫といや、三毛と話をしている。 そんなバカな・・・

 「あんたは元々そういうとこがあんのさ。

 今まで気づかなかっただけでね。」

 まだ信じられない。 いや夢をみているのか、頭がおかしくなってしまったかどっちかとしか思えない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ