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僕と彼女と朝

僕の生活は雪降るあの日から少しずつ変わった。

基本的なところから、些細なことまで。

全部ではないけど、変化は起きてた。

ぼくの朝は目覚ましを鳴る前に止めることから始まる。

中学生のときから、目覚まし時計のなる数分前に僕は目覚めるようになっていた。

それは時間を変えても同じで、原因とかは分からない。

布団をたたみ、着替えを済ませてから部屋を出てヤカンに水を入れ、日にかける。

ジリリリリリッ・・・・・・ジリリリ、チンッ

目覚ましの音と、止められた音。これは隣の部屋に居る冬野のものだ。

「・・・相変わらず、朝は弱いみたいだね・・・」

僕は苦笑いをしながら、二人分のコーヒーの準備をする。

インスタントのコーヒーではあるが、味は悪くない。

コーヒーが飲めるくらいに冷めた頃、彼女は自室から顔を出す。

「おはよう、篤生」

「冬野、おはよう」私服姿の僕とは違って、パジャマ姿の冬野。

彼女の家では普通の事らしく、朝食をとって一段落してから着替えるらしい。

このときには僕は新聞を読みきっていて、彼女に、コーヒーと一緒に渡す。

「ありがとう」

彼女は礼を言いながらコーヒーを啜り、新聞に目を通す。

その間僕は朝食を作る。

端から見れば僕が主夫に見えるだろうが、

変わりに僕は彼女に勉強を見てもらっている。

これは、彼女からの要請であり、僕にも徳があったので了解した。

冬野は文章を読むのが早い。

「僕は、気になる文章とかを選別するのが早いだけさ」

前にそのことを言ったときの冬野の言葉。

僕が読む時間の3分の2くらいで読みきってしまう。


冬野は新聞を読みきる頃にはすっかり目を覚まし、出かける支度を始める。

僕は昨日のうちに大体を終わらせているので、二人分の弁当を作るのみ。

作り終わる頃には彼女の準備は終わっている。

基本、冬野は化粧をしない。

「僕は、まだそういう「着飾る」事に意識が向かないんだ。

好きな男でも出来れば気にすると親は言っていたけれど」

冬野は詰まらなさそうに言った。

僕はあまり化粧を好まない。

昔、高校生時代に電車通学をしていたら隣のOLが僕の方に顔をつけて寝てしまい、

制服にファンデーションがついたのが嫌だったのだ。

だから、化粧をしてない素の顔の冬野は僕にとってはとても綺麗に見えた。

だから、僕が家を出てキャンパスへの道の途中で、

「化粧をしてないほうが冬野は綺麗だと思うよ」

と伝えると、

「君は、あまりそういうことを言わないほうがいいと思うよ。

確かに嫌な気持ちではないけれど・・・恥ずかしいよ」

冬野の頬はほんのり赤かった。

いつも飄々としている冬野の反応に、僕はもう少し遊ぶことにした。

「冬野は目もとはっきりしてて鼻も口も小さくて可愛いよ?」

「だからっ、あまりそういうことを言わないでくれと、何度も・・・・・」

そこまで真っ赤になりながら言ってから、冬野は立ち止まる。

遊びすぎたみたいだ。僕が謝ろうとすると、

「篤生、そうやって女の子を苛めるのは楽しいかい?」

冬野が俯いたまま僕に語りかける。

「・・・ごめん、少し遊びが過ぎた」

「今更遅いよ。それで?楽しいのかい?」

「・・・少し・・楽しかった」

「ふぅん?・・・君はそうやって女の子をいじめる趣味があったのか。

知らなかったよ」

「いや・・・どちらかというとあまり苛めるのは好きじゃないかも・・・」

「ふぅん?・・・・では君はあまりしたくもない行為をしたのかい?」

まずい、これまでの生活で一番よくわかったこと、それは冬野に口で勝つのは僕にはできないということ。

「いや、だから悪かったって」

「その程度では僕の受けた屈辱を晴らすことは不可能だ」

「・・・・がく」

「学食をおごるというのも謹んで遠慮しよう。

僕は者で釣られるような人間ではないからね」

「・・・・本当にすまない」

万策尽きた僕は彼女に頭を下げながら素直に謝った。

「・・・」

無言の彼女が右手を後ろにテイクバックしていく、

(叩かれる!)

そう思って身構えた僕の耳元で

パンッ

大きな平手の音がした。

「っ!・・・・・・・?」

確かに、僕の耳は大きな肌を打つ音を聞き取ったが、痛覚神経は何も感知していない。

反射的に瞑った目をゆっくりと開けると、やけに楽しそうな冬野の顔が見えた。

「ふふ、これでチャラにしてあげよう」

そういって彼女はまた歩き出した。

つまり、彼女は平手をする振りをして、僕の耳元で拍手を打ち、驚いた僕を楽しんだのだ。

つい、漏れてしまうため息。

「ほら、早くしないと、後30分で始まるよ!」

自分の腕時計で確認した冬野が手を振る。

僕は若干の悔しさをかみ締めながら冬野を追いかけた。

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