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名前のない悪魔  作者: ジレスメ
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第四十五話 正邪

 いらっしゃい。


 体調が少しずつ快復しています。音がはっきりと聞こえ、頭痛も治まりました。花粉症は恐ろしい病です。風邪も中耳炎も連鎖する上、肌も荒れます。つまり、大変なんや。出来るだけ外に出ず、ゆっくり挿絵描くようにしときます。


追記:ゆっくりし過ぎました。オートチェスがすごく楽しかったです。

   挿絵→入れた。次話→書けてない。お粗末!

挿絵(By みてみん)


 村の居住区から少し離れた、水車の見える森の前。いつもは人通りが多いとは言えぬ牧歌的風景が広がっているのだが、この日は例外的に大勢の人影があった。


「早く来ないかしらね~、日焼けしちゃうわ~」

「滅多にないことなんだから、ゆっくり楽しみましょうや」

「お~、坊主、少し見ない間にでかくなったなあ。これ食うか? 酒もあるぞ」

「うん、飲む!」

「馬鹿! ちょっと、やめてよ、うちの子は真面目にするって決めてるんだから! あんたも興味持つんじゃありません!」


 大人も子供も、用事など放っぽり出して物見遊山に賑わっている。抱えた網籠には食事を忍ばせ、日よけの傘まで持ち出していた。多くは近くの川で涼み、中には、まだ昇りきっていない太陽を拝みながら酒をあおる者も現れる有様であった。


「まったく、嘆かわしい……」


 オホネ様動く。


 その報は、日々平坦な日常を繰り返す村人達に衝撃を持って迎えられた。

 村長カレフは、その知らせを聞いた時、村に混乱が生じぬよう、事情を知る者は口外せぬよう命じた。長らく沈黙していたオホネ様が、如何なる意志を持って動いたのかなど、カレフの与り知るところではない。その意思の向かう先によっては、村の存続に拘わる危機となり得る。故に、まずは超常の知恵を持つファルプニやエルフの長老と相談する必要があったのだ。村内に周知するのはそれからと考えていた。

 だが、人の口に戸は立てられず。口外無用はここだけの話に変容し、ここだけの話は秘密の噂話となって、半日も経てば村のトップニュースとなってしまう。その日の食堂内では、全員が口に手を当てながら同じ話題に興じるなどという、回りくどい現象が起きる事となった。


「やー、まるでピクニックですね~」

「本当に、情けない姿をお見せしてしまいましたの……」

「ま~、たまにはいいんじゃないですか。こんな日があっても」

「わしとて、皆がオホネ様への関心を失っていなかったことには、それなりの嬉しい気持ちがありますじゃ。ですがの、これではまるでオホネ様が見世物の様で、あまりにも……」


 頭を抱えるカレフに、バランがまいったなあと、肩をすくめてアンジェラに目線を向ける。それに対しアンジェラは愛想笑いを浮かべ、背中に流れる冷や汗を悟られまいと背筋を伸ばした。

 現在、アンジェラ達は、日除けの布を張った簡易テントの下で来るべき時を待っていた。村の者がピクニック気分でいることを嘆いた村長であったが、アンジェラやバラン、イミーニア、それに、高齢であるエルフの長老に気を回して待機場所を設営した結果、傍から見て最もピクニック感を醸していた。集まった村人からしてみれば、せっかく村長がノリノリなんだから楽しまないと失礼だと、ごくごく自然な流れで思考が誘導されていた。


「ね、ねえ、本当に大丈夫なのよね? あの、し……死体は……」

「大丈夫だと思うよ。ファルプニさんやバランさん、アンジェラちゃんもいるし。それで駄目だったら、きっと何処にいても駄目だよ」

「駄目って、あなた、軽く言うわね……」


 イミーニアが隣に座るジルナートに不安を紛らわすため、絶え間なく話しかける。先日一緒に行動していた際に、転んだ際に助けてもらったり、動く白骨死体に全く動じなかったりと、イミーニアにとってジルナートは恐怖や危険に対する盾として無意識に認識されるようになっていた。真に不安を和らげるのは、堅牢な砦ではなく、穏やかに笑う隣人の姿なのである。


「どうにも、この数ヶ月で色々と起こり過ぎだな。なあガキんちょ、やっぱり今回もお前絡みだったりするのか?」


 村長のこしらえた特設席に座り、緊張の真っ只中にあったアンジェラに、ルヴナクヒエの声がかかる。


「え? ……え?」

「なんだその意表を突かれたような顔は。何かあると事あるごとにお前が呼び出されたり、その場に居合わせたりしてるんだから、関連性を疑うのも無理ないだろ」


 居合わせるってさ、最初からここに住んでたしさ、呼び出されるんやから、そら居合わせるやん?


「そもそも、お前がどうやってここに来たのか分かってないんだぞ。そんな小せーなりで魔法が使えたり、俺でさえお前が特別な存在だってことは理解できる。俺にはどうも、お前が現れてから妙な事が連鎖しているように感じる」

「……ど、どど、どうでしょ、う……。すいま、せん……」

「何で謝ってんだよ。ジルが忙しかったから、俺は今回の騒ぎについてよく聞いてねーんだよ。それとも、本当に何かしたのか?」

「え、あ、あぇ? え~……、た、玉をぉ……」


 あれ? 話の本筋は何処やったっけ? えっと、私の所為で色んな事が起きてるかについては、身に覚えのある事とないことが混ざってて答え辛いんやけど、記憶喪失の設定があるから、答えたらあかんわけや。それで……、そや、合ってるわ。門兵が動いた原因を答えるんやな。せやけど、それは意図したことではなくて、答えてもいいとは思うんやけど、どう答えたらいいんかが分からんのやな。そうかそうか。

 もう、今日はええから、目え閉じてたら明日になってへんかな。


「まー、ルヴナクヒエさん、これから本院が来てくれるんですから、直接聞いてみましょう。アンジェラさんも何だか緊張しているみたいですし」

「それもそうか。オホネ様の面はガキにはちと刺激的過ぎるからな。直に動いてんの見たってんなら、怖えのも無理はねえ」

「は、はは、あ……、あい、あいあい!」

「もしかしたらアンジェラさんの事をしってるかもしれませんしね」

「あぇ!?」

「そうか、確かに記憶が無いこいつを見つけたのが、オホネ様の前だったから、何かしら見ていた可能性だってあるわけか」


 ば、ばば、バラン氏? バラン氏マイフレンド? ……いや、友達に隠し事してる私があれなんや。あれなんやけどさあ……。


 まあいい、覚悟はしてるんや。いや、してきたんや。ある程度はね。

 根回しはしてある。オホネ様の元へは、ファルプニを先んじて向かわせている。正体を隠したいとファルプニには伝えているのだ。幸いなことに、村の者が此度の事態で最も頼りにしているのが、ファルプニであった。年長者やしね。

 ツキはまだある。今までも何とかなったのだ。今回も見事に流され切ってやるとも。


「や、ファルプニさんが来たようですね~」

「ってことは、本日の主役いよいよ登場か」


 森の中から黒衣を纏った長身のあく……天使が現れ、その後ろから白き人影が見えた。

 間違いない。オホネ様である。その顔には本来生体が有すべき一切の皮膚が削がれ、水気のない白く乾いた骨だけがあった。その手に持った純白の宝玉と、体に巻きつけた白布が真っ白な体と合わさり、簡素でありながら清廉さと荘厳さを伴って、その場にいた者の視覚を刺激した。


「お、おお~……」


 集まった人々から割かし控え目などよめきが起こる。彼らとしては、村の守護神としてのオホネ様ではなく、奇怪! 蘇る白骨人間! の方を怖いもの見たさで見に来たのである。思いの外堂に入って神聖さすら感じる姿に、騒いでいいのか分からず、畏まっていた。


「本当に動いてるなあ……」

「えっと、どうしたらいいんだ?」

「そりゃあ……、挨拶とか?」

「って言っても、みんな顔合わせはしてるよね?」

「いや、こうして出向いて来てくれたんだからさ、やっぱ、しっかりやっといた方がいいだろ?」

「ええ~、そういう堅苦しいの苦手なのよねえ……」

「そりゃ、俺だってよぉ……」

「馬鹿野郎、俺ら下々の人間がオホネ様に寄って集って自己紹介してりゃきりがねえだろ。こういうのは代表者がビシッと決めるもんだ。じゃねえとオホネ様が疲れちまうよ」

「それだ! それがいい!」


 何やら村人たちの間では話がまとまったらしく、期待に満ちた視線が特設席に座るアンジェラ達に注がれていた。


「ちょ……、ちょっと! こっちに近付いて来るわよ!?」

「本当ですね。筋肉もないのにどうやって動いてるんだろう?」

「馬鹿! なんとかなさい! ……や、な、なんとかして! なんとかしてってば!」

「イミーニアさん、大丈夫ですよ。見た目は怖いかもしれませんが、取って食べようなんて気はないでしょう。なんてったって胃袋がありませんからね」

「怖くないわよ! 武家の娘が怖気づくわけないでしょ! 早く何とかなさいよぉ!!」


 イミーニアが迫りくる人生最大の恥辱的トラウマに叫び、嘆願する。

 その声に、ジルナートも足を進めたいのは山々であった。イミーニアの願いどうこうに関係なく、眼前に広がる神秘に近付きたい欲求がある。だが、腰の抜けたイミーニアが背にしがみついている状況では、その願い欲求に応じれようはずもなかった。


「さ、アンジェラさん行きましょうか~」

「あ、あい……」


 村長の後ろをバランと共に付いて行く。


 頼んだぞ、ファルプニ。全てはあんたの根回しにかかっとるんや。


 少女は口を一文字に結び、己の正体を唯一知ると言っていい古き者へ、一歩一歩踏みしめるように足を進めた。


「おお……、なんと言葉にしていいのやら、我らクリモリ村の人間は、代々貴方様を祀り、その勇壮なる姿を敬ってまいりました」

「うむ、其処許は確か、この村の長であろう? 長き間意識がはっきりせなんだが、ここのところ耳に届く声が鮮明になってな。お主のことは、少し分かる」


 剥き出しの顎関節が開くと、如何様にしてか、声が響いた。発声器官など失っているはずであるが、その音は壮年の男であることが分かる程に、はっきりと聞き取ることが出来た。

 見物する村人達からも、再びどよめきが起こり、今更ながら会話が出来ることに驚いていた。


「わ、わし、いや、私をご存知でしたか! なんと光栄な! お言葉の通り、勝手ながらこの地で村長を務めております、ネイエイ・カレフと申す人間でございます。それで……その、恥ずかしながら、私達は貴方様の本当の名を知りませぬ。故に、名を……教えてはいただけませぬか?」

「名か? ふうむ……」


 カタリ、と音を立てて首をかしげると、空洞の広がる眼窩を空に向けた。顔色を見るということは出来ないが、その様子から何か考え事をしているようであった。


「拙者に名は御座らぬ。其処許の好きに呼ぶがいいぞ」

「え、名前が、ない……のですかの?」

「古き者は名前を持っていないものなのですよ。私ファルプニも、東のあく……然る御方に名を頂きました」


 ファルプニの説明に、腑に落ちない顔ではあったが、村長が納得する。

 人間にとって名は重要な意味を持つ。他の種族と比べ、短過ぎる命は、生きた証を欲し、名を求めるのだ。自分よりも明らかに生物としての格が上と認識している相手が、名を持っていないことに納得することが難しいのも無理からぬことであった。


「ね、ねえ、名前がないって……、あの骨……さんは、すごい存在じゃなかったの?」

「住む世界が違えば、きっと常識も違うんでしょう。イミーニアさんも凄い名前を持ってますけど、ここでは気にする人もごく少数ですからね」

「……よく分からないわ。家の名を大事にしない生き方なんて」

「有れば大事にするんじゃないですか? オホネ様は何年生きているのか分からないんですよ?

 家という考えが生まれる前の、世界の始まりだって見ているかもしれない」

「何言ってんの、それって何万年になるのよ。私が子供だからって馬鹿にしないでくれる?」

「そうだったら凄くないですか? 僕は本気でそうあって欲しいと思いますよ。興味深いですから」

「……本当、外の世界って常識が違うみたい」


 大貴族の少女は、己が常識外の世界に放り出されたのだと、今一度認識を改めた。

 一方、予想外の返答を受け、村長カレフは続ける言葉に窮していた。


「好きに呼ぶなど、私には恐れ多く……」

「拙者は一向に構わぬぞ」

「あ、あの……」


 助け舟はすぐ後ろに付いて来ていた。


「オ、オホネ、で、い、いいんじゃ、な、ないか、な?」

「アンジェラ様、それは、しかし、あの、わしらが勝手につけた名で、直接過ぎると言いますかの、ちょっと……」

「おお、それは良きにございますな娘殿。拙者にとっても聞き慣れた言葉にございます」

「よ、よろしいのですか?!」

「うむ、大事ない。其処許らが親しみを込めて使っていた名であろう? 朽ちて眠りについていただけの拙者に、友愛の念を込めて与えられた名ぞ。誉とするには充分に過ぎる」


 正式に名を得たオホネが、首を満足そうにカタカタと揺らす。古き者は、名に価値を求めないが、それが好意をによって得たものである上に、今は亡き主君の忘れ形見がそれを提案したとなれば、喜ばしいことに違いなかった。


「……アンジェラ様、感謝致します。わしは、貴女様に出会えて、本当によかった」

「え?」


 拍子抜けするほどにあっさりと受け入れたことに、村長は安堵と共に、深い感動と感謝の念を覚えていた。年を経て、何事も小難しく考えるようになってしまった自分を、少女はまるで絡みついた不安の糸を一刀両断するように導き、難題を解決してみせる。

 老人の目には、四本角の娘が紛れもない天使として映っていた。


 対して、アンジェラはその老人の様子に戸惑うしかなかった。

 アンジェラもまた古き者よろしく、名前にこだわりが有る方ではなかったので、最近慣れてきたオホネ様呼びで良いだろうと判断したのである。それだけでなく、自身が名を貰った時の嬉しさを共有したかったという思いもあったが、最も大きな理由は、村の生活に慣れた今、流石に門兵呼びは可哀想な気がしたという素朴な考えからであった。

 なんにせよ、オホネで良いと提案したのは、自身の感情の問題であって、村長の感謝を受け止める用意など出来ているはずもなかったのである。


「カレフさん、いきなりそう畏まられてはアンジェラ様が困ってしまいます。今日の主役はこちらなのですから、何かお話でも……と言っても、オホネさんは目覚めて間もないですから、今日はゆっくりするべきですかね」

「おお、ファルプニ様、すみませぬな。年寄りの悪い癖が出たようじゃ。今日は、そうですな、わしの家にお招きしてもよろしいかな? なにぶん、小さな村ですからの、提供できる家屋が限られておりまして……」

「ちょ!! ちょっ――――」


 ジルナートが素早くイミーニアの口を塞ぐ。

 現在、イミーニアは村長の家で寝泊まりしているのだ。豪胆な少女ではあるが、一つ屋根の下、トラウマと一夜を過ごせるほど肝が大きく育ってはいなかった。


「気遣い無用。拙者はこの地を守護するのが役目。館の前で良い。というよりも、そうでなくてはならぬのですな」

「しかし、そうなると外に……」

「今までと変わらぬ。それに、拙者は食事も睡眠も必要とせぬのだ。もてなしに応えられる体ではない故、それで世話になっても心苦しいだけよ。其処元らは普段通りの生活を送るがよいぞ」

「……分かりました。しかし、必要とあらば、どうぞ我らを頼ってくだされ。お力になれるかは分かりませぬが、尽力する次第ですじゃ。村の中も好きに散策してくだされ」

「うむ、そうしようぞ。とはいえ、拙者も目覚めたばかりで魔力が回復しきってはおらぬ。今日はおとなしくしていよう」


 その言葉を聞き、村長が頭を下げ、引き下がる。見物していた村人達も、お開きの空気が流れている。空になった網籠へは、夕飯用に集めた野草を入れ、川で遊ぶ子供たちを呼び戻していた。


「待って!」


 少し震えた声がした。


「あ、あなたは、何? あなたは何者なの?」


 そこには、大貴族の娘の姿があった。目の前には今まで培った常識を覆す存在がいる。スタイ家の誇りにかけ、疑念を前にして尻込みするなどという軟弱な行いは、少女の魂が許さなかった。


「何者? ……ふぅむ、実のところ拙者、流れた時の長さが分からぬほどに、長く眠っていた故、記憶がはっきりせぬのだ」


 上手い!


 角の生えた少女が小さくガッツポーズをする。


 どうやら、彼は私と同じ答えに辿り着いたようだな。いや、本当に記憶がはっきりしていないのかもしれんが。

 なんにせよよくやった! その調子や、煙に巻いて巻いて、誤魔化しきったれ!


「ただ思い出せるのは、拙者は天使だったという記憶であるな」


 あ、駄目かもしれん。


 横で満足そうに頷くファルプニを見て、目の奥にチカチカとした感覚を覚えた。


「て、天使ぃ?! また?! 」

「ええ、彼は間違いなく、天使、ですねぇ」


 黒ずくめで二本の角を伸ばしたファルプニと、館を門兵であったアンデッド。君らが天使ね……。ハハ、見た目だけで言うたら、私の方が百倍天使やで。


 もっとマシな嘘つけやあ!! バレるやろが馬鹿ちーーーーん!!!


 アンジェラはよろけた姿勢を戻せぬまま、表情を失っていた。


「そ、そう、天使ってそういうものなのかしら……?」


 意外にも、アンジェラにとって最も厄介であった少女が、あっさりと信じた。ここ数日でイミーニアの凝り固まった常識は揺らぎ、自身の無さが疑う能力を鈍らせていたのだ。


「それで、その、……なんで、あなたは、生きているの……?」

「生きている、とな。娘よ、拙者は確かに死んでおるぞ。だが、死にきれぬのだ」

「え……それは、どういう意味?」

「言葉の通り。拙者には不死の法がかかっているのだ。呪いと言えるのかもしれぬが」


 呪い?


 アンジェラが首をかしげる。

 門兵はアンジェラが物心ついたころから、アンデッド兵としてネームレス家に仕えていた。その為、存在自体に疑問を抱かず、父の魔法かなにかだろうと考えていた。よくよく考えると、確かに不思議な存在であった。


「かつて拙者は戦いに敗れ、命を落とした。だが、どういう訳か、闇の中に落ちた目に光が戻り、拙者を殺した男の姿を再び見ることになった。この体はその男の魔法によって蘇ったのだ」

「ほう、妙な話ですねえ。暴力を誇るためだとしても回りくどい。その男は一体どうしてそんなことをなさったのでしょうか?」

「分からぬ。ただ、何故か拙者に対し怒りを露にしているようであった。敗北者に生き恥を晒させるつもりであったのか、不死の苦しみを与えたかったのか。恐らくは呪いなのであろうな。されど、拙者はこの体を感謝しているのだ。この身に許された時を超え、務めを果たすことが出来るのだから」


 ……思ってた以上に、凄いし偉かったんやな。


 アンジェラは傾いたままだった体を直し、身近に存在する偉大な忠義者を改めて尊敬した。近くにいすぎると、物事の一面しか見ることが出来ず、その本質を捉えるのが難しくなるのだ


「ああ……、そお男いうんはあ、どがあ見てくれっちぃ、しとっが?」


 今まで黙りこくっていたエルフの長老が、オホネの話に反応し、話に割り込んできた。


「む、ううむ……」


 オホネがアンジェラをに顔を向け、少し考える。


「まあ、話してもよいだろう。覚えているのは角だ。……その男には四本の角が有ったのだ」


 ……四本? 私と母様と一緒?


「ああ~、まさがあ……、いやぁ、間違いね……、えらぁこったえらぁこっだあ」

「ヴァタクナーシュオン様、では、あの予想は当たっていた、ということですかの?」

「ああ……申しわげね。オホネ様あ殺っだあは、エルフの者だあ……」


 場に入る者全ての視線が、エルフの長老ヴァタクナーシュオンに注がれる。


「何、拙者に勝った男を知っておられるのか?」

「た、ただあ、俺らあも、見たこどはね! 大昔あっだ、エルフぅ国の領主様だあ。名前がねっで、無名様あ呼ばれてっだそうだあ。けんど、国い捨てっで、どっか行っちまったあだ。俺らあメイノーフィア族も、領主様あ雲隠れしぃに、出てきっがそうだあ。だあに、俺もお、話しかしらねが、仏え起こすっだあ無名様に違いね」

「無名……、私も大昔に噂を聞いたことはありますが、それは確かな話なのですね?」

「んだあ、無名様あ角お四本あっだあ聞いとおが。エルフぅ角生えっど二人しがいね」

「ふ、ふふ、ふた、り?」

「ああ~、そうだあ。無名様とお、も一人ぃ、魔王様だあ」

 お疲れさまでした。


 そう言えば、今更ですが、ネット小説大賞の一次審査通ったみたいです。つまり、次はちゃんと読まれた上で落とされるわけです。こわーい。

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