第二十三話 白日舞台
いらっしゃい。
ソウルキャリバー6が発売されたのです。
一体何が起きているのか。
アンジェラは立ち尽くしていた。
悪魔の少女は、目の前で起きている事態を理解する術を持たない。いや、周りの人間に話を聞けば分かるんだろうけど、凄く口を挟み辛いのだ。
ともかく、事は緊迫している。よく分からんが、何故かルヴナクヒエが決闘をするらしい。
というか、相手は誰なんだ……。分からん……。
「剣の勝負か。場合によっては怪我では済まないが、構わんのだな?」
「ああ、もちろんだ。お客さんは丁寧に扱うさ」
「良い目だ。良い心意気だ。良き闘いとなるだろう」
兜の男は外套を脱ぎ捨て、一振りの剣を抜き放った。
鍛え抜かれた筋骨隆々の上半身が露わになる。
男は何故か半裸であった。
「なんだ? 外ではそんな恰好が流行ってんのか?」
「強さを求めるためだ」
「……なるほど」
周りで眺めていた者は、その会話を聞き、揃って頭にクエスチョンマークを並べた。ルブナクヒエも男の返答に得心はいかない。ただ、身近に筋骨隆々でいつも半裸の男がいたので、鍛えた男はそういうものなのだろうと、深くは考えなかった。
兜の男は、片刃で厚みのある剣を数度振り、風を切る音を響かせる。
「決闘の理由も条件も聞かん。これ以上の言葉は必要か?」
「気が合うな。俺も話し合いは苦手なんだよ」
張り詰めた空気が今まさに弾けんとした刹那、男にしては太さに欠ける声が掛かった。
「ちょっと待ってください。この際、止めても無駄でしょうから、止めはしません。ですが、先に聞いておくべき事があります。命を落とす可能性があることは承知しているでしょう。しかし、貴方が命を落とした時、報復があったり、恨まれて禍根を残すような事態は有り得ますか? 有るのでしたら、村の者としては、そんな決闘を到底承服することはできません。しかし、やるのですよね? となると、全責任は決闘を申し出た、そこのルヴナクヒエ君に取ってもらうことになります」
「……難しいこと言うじゃねえかジル。ともかく、頭使うことはお前に任せた! いざ!」
「待て」
男が考え込む。
「村を脅かすことは本意ではない。それに私を討った勇者が称賛されずに罰せられるなど気に食わん。誓約書を作ろう。それでよいか?」
「助かります。それと、付け加えていっておきますと、そこの彼が死ねば大変悲しむ人がいまして、そうなると、止められなかった僕も相当に恨まれるでしょう。また、貴方が死んでも、手間暇かけて葬儀をしなくちゃいけないんですから、そこらへんもよく考えてくださいね」
「……分かった。善処しよう」
「善処ですか。その言葉の認識が私達と違っている、なんてことはありませんよね?」
「無論だ」
「……あの、最後に聞きますが、決闘をする必要性はあるんですか?」
「趣味だ」
「……」
話は通じるが、話が理解できない。
ジルナートは不思議な感覚を味わっていた。
「私も最後に言っておこう。私の名はアルカハクだ。アルカハク。もし墓を作ることになれば、『白牙』のアルカハクと刻め」
「白牙? かっけーな。二つ名があるのかい。俺にはそんなもんないが、礼儀として名乗っておこう。俺はルヴナクヒエ。ただのルヴナクヒエと名乗っておくかな」
ルヴナクヒエが構えを取る。
アルカハクはジルナートから木の板を貰う。
狩猟用の短剣を用い、文字を刻んで染料を塗り込む。誓約書の作成である。
この間二十分。
ルヴナクヒエは気まずそうに待ち惚ける。素振りをしたり、体の筋を伸ばしたり、体を動かして誤魔化しながら、ゆっくりと構えを解いた。
「……もう、いいか?」
「待て」
アルカハクはいくらかの硬貨を取り出し、ジルナートに渡す。
「その板と染料の代金だ」
「あ、どうも。でも、少し多いように見えますが」
「迷惑料だ。これ以外に形で示せる物が思いつかない」
「なるほど、礼儀正しい方ですね。ですが、お墓を作るなら、もっと貰わないといけませんし、そもそも、こんな場所ではお金に大した価値はありません。よくよく考えて決闘を楽しんでくださいね」
「……善処……する」
もはや待ち疲れて地面に腰を下ろしたルヴナクヒエは、この光景を苦笑しながら眺めていた。
「もう……いいだろ?」
「……ああ、おそらく」
「悪いな。この村じゃな、血の気の多い人間は後先考えねえのが我を通すコツだ」
ルヴナクヒエは再び剣の切っ先を眼前に伸ばし、構えを取る。
それに応えるように、アルカハクも再び剣を取った。
しかし、アルカハクは右手に剣を下げたまま、微動だにしない。なんら力みも見せず、自然体で立っている。兜で顔が覆い被されていることもあり、一切の考えを読み取ることが出来ない。
二人は、双方の剣を伸ばせば切っ先が触れる距離で対峙している。
周りで見ている村人達も、武術に関して素人ながら、何がしかの不穏な気配を感じている。
アンジェラも幾ばくかの疑念を胸に、緊張の面持ちで眺めていた。
何故半裸なんだ……。
「フッ!!」
ルブナクヒエが正眼の構えから地を跳ねるように神速の打ち込みを振るう。
常人では反応すら出来ぬ上段からの一太刀。
それを、アルカハクは咄嗟に受け止めるが、正しき構えから成した全力の一撃は体勢を容易に崩し、守勢に回す。そこにつけ込むように、腹の力のみで翻った剣が、首筋を走る。
しかし、アルカハクの尋常ではない身体能力が反応する。上体を反らし、崩れた体勢から斬撃を捉え、片手持ちの剣で捌き、次に来る攻撃を弾かんとする。
だが、ルヴナクヒエの剣は鋭い。一太刀一太刀が鋭く、小手先に頼ったような生半可な打ち込みがない。その動きは規則的なようではあったが、その洗練された太刀筋もまた、小手先に頼った技では受けることが出来ないのである。
優位を保ったまま攻め続け、休ませない。兜によって作られた死角を狙う。
雷光の如き連撃が続いた。
それでもなお、アルカハクは反応と予想によって紙一重で躱し、皮一枚で受け止めた。
ただ耐えて、集中をしていた。
そして、それは十数度に及ぶ打ち込みの後訪れた。
スゥッ――
かすかに聞こえた。呼吸音だ。
十数度の剣撃の中でたった一度だけ捉えた剣の間。
極限の集中は一瞬の機を逃さない。
刃が放たれると同時に反応し、両手剣による重撃を片手で撥ね上げた。
続けざまに、上体の伸びたルブナクヒエへ打ち下ろしを加える。
体のバネを最大限に使った斬撃は、凄まじき初速を伴う。
躱す暇も与えぬ、確実な死。
だが、ルヴナクヒエは頭上に迫る斬撃に対し、臆さず、あえて身を潜り込ませた。
手首を返し、剣を体に巻き付けるようにして斬撃を受け止める。
額まで、剣を握る拳のみしか空かぬ決死の距離。
剣身の根元で迫り合った一撃は、ルヴナクヒエの構えた剣に沿っていなされた。
斬撃はルブナクヒエの右手側にある地面へと向かう。剣が振るわれる方向に体を入れ、その角度に合わせて剣を構えたのだ。筋力に差はある。だが、刃の根元では、これを崩すほどの威力を発揮することはできなかった。
受け流したのち、剣を返せばルブナクヒエの勝利である。
しかし、アルカハクはそれを許さなかった。
左足に力を込める。
地面が陥没するほどの踏み込みに加え、体中の筋肉が軋むほどに体を反転させた。
大地を斬るかと思われた斬撃は、ルブナクヒエの剣を滑り切る前に返され、鍔を弾き、必勝の構えを崩した。
死地を脱したアルカハクは、体を反転させた勢いのまま、宙を回転し後方に飛び退く。
「称賛する。お前の剣は私よりも勝っている。見事だ」
「教えがよくてな。あんたは我流だろ?」
「良き師に巡り合うことは難しい。剣の扱いに長けたものであれば特にそうだ」
「そうかい。逆に俺はこれしか知らねえがな。……それで、もう満足したのかい?」
「いや、男ならば意地を通したい。我儘に付き合ってもらうぞ」
「助かるよ。女に剣は向けないと知れてな」
ジルナートは考える。
本当に決闘をする意味がないな、と。
それに、兜の男アルカハクが決闘を願い出たみたいになっているけど、言い出したのはルヴだ。男らしい会話は物事の順序や細かい部分にこだわらないから困る。
っていうか、父さんまだかな。
「ゆくぞ」
アルカハクが前に出た。今度は仕掛ける側である。相変わらず、ルヴナクヒエとは対照的に構えらしきものを見せない。おそらく、我流で剣の師はいないのだろうが、まるで無防備な姿は不気味である。たとえ素人であろうと体の前に剣を握るくらいはする。攻撃を見切ることに絶対の自信があるのだろう。
対してルヴナクヒエは、正眼の構えを上段に移し、迫りくる男を待ち構えた。
その顔に一切の動揺は見受けられない。
己の剣に対する信仰心。父より授かった技を信じきっている。
攻勢に出たアルカハクの剣が動く。
ルヴナクヒエはそれを見逃さない。来るであろう剣筋を見切り、上段からの打ち下ろしを見舞った。
後の先である。
アルカハクは既に攻撃の動作に移っている。上段構えから完璧な形で振るわれる一撃を受けるには、体勢が不完全であった。
攻防は逆でも成された形は一度目の打ち合いと同じ。そして、今度は有利と不利が明確についていた。
もはや躱すことも出来ない。
勝負あった。
そのはずであった。
突如としてアルカハクの剣が異常な風切り音を立てて跳ね上がる。
その直後、想像を絶する衝撃がルヴナクヒエを襲う。
人体の限界を超えた速さの剣撃は、ルヴナクヒエの打ち下ろしを弾き返すどころか、体を宙に浮かせるほどの威力を生み出していた。
だが、アルカハクの剣は、その反動で砕け散っていた。対して、ルヴナクヒエは体を大きく仰け反らされ、地から足を離されたものの、剣はしかと握っていた。
急ぎ、尻もちをついた腰を上げ、痺れた手で剣を構え――
「悪いと思っている」
頭上から聞こえる、兜でくぐもった声。
喉元には剣の切っ先が突き付けられていた。
アルカハクは剣を失ったはずであった。だが、その手には確かに剣が握られている。
「私は、剣士としてはまだ未熟なのだ」
男の声だけが、ただ響く。
砂埃が舞い、流れ落ちる汗が地面に黒点を作る。
決闘の幕は閉じた。
まだまだ夏の暑さが盛る日、太陽の覗く昼下がりの事であった。
お疲れさまでした。
ソウルキャリバー6でキャラクリを頑張るのです。




