日々5
「ただいまって言っておく‼」
「他に言うことあるのかよ……」
次女モナの虚言に合わせ、玄関まで迎えに行ったユージロウ。
「ただいまおかえり、おかえりただいま!」
「モナが帰ってきたんだよね?」
「そうだよ‼」
「うん、だよな」
「いいからモナのランドセル持っていってあげて」
ハルリはユージロウを見て居間に急かした。
「お母さん、まだ帰ってきてないの?」
「まだ帰ってきてない。というか、寝てたから分かんない」
「は?それじゃあいないのと一緒じゃん。泥棒でも来たら同じように寝てたで済ませるの?」
「それとは話が別だろ」
ハルリは少々イライラしていた。無理もない。暑い中、モナの迎えに行ったのに留守番していたユージロウが呑気に寝ていたのだから。じめじめしているため余計苛立ちは増す。
ユージロウは申し訳なさに謝る他はなかった。
ハルリは一杯乳製品の原液と水とを1:3の割合でグビグビと飲み干した後、自身の部屋に籠ってしまった。
残されたのはユージロウとモナのみ。
年の差、およそ十歳。何を話せと言うのだろうか。逆に会話が成立し、気兼ねなく話せたらそれはどちらかの精神年齢が異常である。
「モナは今から何がしたい?」
試しに聞いてみた。
どうせ、小学生の女の子だからおままごとや、お絵描きが妥当だろう。
「家族お絵描き!」
予想通り。しかも二つ同時。少し引っ掛かったが、お絵描きの題材を「家族」にしたいと言うだけだろう。
仕方ないから付き合ってあげようと思った。
クレヨンと自由帳で不器用な世界を描いていく時間。
ユージロウにとって普通だと感じる日常だった。