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恐らく、この物語に名前はない  作者: パブリッククレイン
4/8

日々4

課業終了後は教室は無人と化してしまう。

高校一年生は全員何かしらの部活に所属する決まりがユージロウの高校にはある。

第一志望の高校に合格した後、即行で野球部の練習に参加した。


体がウズウズして仕方なかったのだ。

お蔭で入学して二ヶ月のまだ六月というのに練習メニューも覚え、先輩や同級生と上手く付き合っている。

「次、走り込みなっ‼」

「はい!」



広大な校内でサッカー部、テニス部、ラグビー部がいる中、一際目立つ野球部の掛け声。

女子の黄色い声が響く。



白いユニホームに土がつき、努力の雫を流す風景は夢にまで見た最高のシチュエ一ション。

文句なし。


「よっしゃ一、張り切っていこうか‼」


※※


家に帰ればハルリがいた。

ユージロウの高校の中等部三年の妹はどうやら着替えるのがめんどくさいらしく、スカートを脱いだだけのカッターシャツ姿だ。

「おかえり少年」

「一応あなたの兄やってます」


早々に扇風機の電源をつけ、室内の冷房で冷えきった風を一身に浴び続けた。

「やっべ、涼しいわ」

「あ、ズルい私もしたい」

「後でな」

冷蔵庫に手を伸ばし、炭酸水を取り出した。

スポーツマンたるもの、ジュースは控えたい。

砂糖が入っていなくて、多少なりとも満足できる物で見つけたのが炭酸水というわけだ。



「炭酸水って頭皮に良いらしいよ」

ハルリがどこから持ってきたのか分からないイチゴのショ一トケーキを頬張りながら言った。

「どこ情報かは知らないがよくそんなんしってんな」

「天才ですから一一一一」

「あらそうですか」



流すしかなかった。事実、ハルリは頭が良い。

理系科目が得意という点はユージロウとは真逆だった。

身内から言うのはおかしな話だが、スペックは高い。

背はユージロウよりも高く、ハルリ自体は兄を見下ろしている事に違和感が拭えず気にしている。

回りからは「可愛い」だの「綺麗」、「頭が良い」「容姿端麗」「才色兼備」等と言われる。しかし、誉められるのに未だ慣れないハルリはどう受け答えをすれば良いのかいつも困っていた。



「ハルリ、今年受験だよな?内部進学にするのか?」

ユージロウは聞くまでもない質問を投げ掛けた。

中高一貫校であり、県内で偏差値の高い私立校なのにエスカレーターで上がらないわけがない。

ハルリは一度ユージロウの方を見て、フォークでケーキの上に乗っているイチゴを突っついた。



ハルリからでた言葉は予想としてた事ではなかった。

「内部進学しないよ」

「え???どゆこと?」

「私、今の高校には進学しない」

「なんで?」

「何でって……うち私立だから、公立高校に進学するんだよ。お兄ちゃんうちの高校来たんだから私が公立行かないとお母さんとお父さんに負担かかるでしょ。お兄ちゃんの場合は野球したかったからうちに来てるからすっごく良いと思うよ。でも私はただ学校行ってるだけだしなぁ。うん、それで良いと思う」



「今までの友達はいいのか?」

「私、別に死ぬ訳じゃないけど?」

「まぁそうだけど、俺がいうのも何だけどそういうの大事だと思うよ。家庭のこと考えてくれるのは良いけど、自分のこともよく考えた方が後々後悔しない選択が取れるよ」

「お兄ちゃん……大袈裟すぎる。それに私、公立って言ったけど、正確には国立だから妥協したわけではない。環境は良い方が良いに決まってる」

ハルリはどや顔を見せつけ、イチゴを頬張る。

ユージロウはハルリの内側から見えた熱意を感じ、聞いてみた。

「何か将来の夢でもあるのか?」

「そんなんないわ」

「ないんかい。でたよ、最近の若者の目標なし精神。いつから現実主義になったんだ」

「お兄ちゃんも充分若者の一人だよね?それに現実主義って……」

ハルリの呆れ顔はユージロウの瞳には映っていなかった。



「そろそろ、モナを迎えに行かないと」

モナとは小学生のもう一人の妹の事だ。

ハルリは自身の腕時計を見て急いで身支度を始めた。

「お母さん帰ってきたら私がモナのお迎えに行った事言っといて‼」

「お、おう一一一一」



ハルリは家を出て、一人ユージロウはポツンと居間にいた。











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