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百花繚乱入学式

 百花繚乱入学式


『入学式。期待に胸膨らませた新入生たちが体育館の中でウサギ小屋のウサギのように集まる儀式。俺はこのF高の入学式の時、期待に胸を膨らませていたかというと、そんなことは絶対になく、不安しか心の中になかっただろう。

 可愛い下級生と知り合って、ラブコメの始まりか、というと、俺には決してそんなことはなく、まあ、今日も一つトラウマが増えたしな。

 F高の上履きは学年によって色が違ってな、俺が一年だったときの三年生の上履きは赤色だった。そして、今日入学した新入生の上履きも赤になる。色は三色しかなくて、その色は使いまわしなんだ。

 つまり、俺が何を言いたいのかというとだな、今日偶然にも新入生に出会うことがあって、その時見た上履きの色が赤だったから、俺は下級生相手にビビってしまったってことだ。そのことから察するに、俺は去年から上履きの色ばかり見てきたってこと。え?イマイチ意味が分からないって?わざわざ言わせんじゃねえよ。俺は去年から上級生にビビッてんだよ。悪いか。悪いよな。

 だから俺は下級生とラブコメができない。

 あ、そう言えば、俺、昼休みに保健室に送られたみたいなんだよな。保健室なんて小学校でゲロ吐いて以来縁がなかったから、無駄に緊張したよ。保健室の先生も噂通り綺麗だったしな。処置を施されてる間、気絶してたのが悔やまれるぜ。でも、なんで俺は気絶なんてしたんだろうな。歩いてたら急に倒れたから、貧血っぽいらしいけど。俺が貧血か。ちょっと信じられねえけどな。』


 バゴバゴバゴ。

 その音が俺の目覚まし代わりである。

 俺は毎日、妹が俺の部屋を蹴り飛ばす音で目を覚ます。

 ちっ、今日も世界は滅亡しなかったか、と悔しがりながら、俺は下の階へ降りていく。

 食卓には白飯と塩鯖と味噌汁。

 安定の日本食。

 安定過ぎて怖い。

 俺がここに来てから、一度も朝食のメニューが変わったことがないのが、非常に怖い。

 だが、俺はそのことに文句は言わない。いや、言えない、が実情だ。食事を作っているのは祖母であり、祖母に逆らうよりかは、全世界を敵に回す方がよっぽどましなのだ。

 俺はいつも通りに朝食をぱっぱと食べ、時代遅れ感のハンパない学ランを着こみ、顔を洗い歯を磨き、祖母のお手製の弁当を包んで、家を出る。

 俺は歩道の一切ない国道を自転車で走っていく。

 危ないんじゃないかって?

 危ないぜ、これは。

 でも、これしか通学路がないしな。たまに大型のトラックが通るときにヒヤリとする時がある。俺がカーブを曲がっていて、トラックが後から曲がってきたときの接近感といったら、ホント、冷や汗ものだ。よくも俺は今まで生きていると思うよ。

 行きは下り坂なので、十分足らずでK駅に着く。帰りは三十分くらいかかる。まあ、ただ単に、俺がダラダラと帰っているからなんだろうが。

 K駅に着いた。

 俺はプラットホームに直行する。

 その際、切符は買わない。元々無人駅だし、切符売り機だってない。

 俺はF駅の改札(と言っても、これも有人改札なのだが)で定期券を駅員に見せればいい。

 駅には、顔なじみの女子数人と男子がいた。ちなみに、女子数人の中には服部叶も入っている。今日も朝から不機嫌そうで何よりだ。

「おはよう、樹。」

 俺は一人の少年にあいさつをする。

「おはよう、又ちゃん。」

 佐々木樹とは小学生の頃からの友達である。ここに転校してきて以来の友達だ。

「どう?マオクンどこまで進んだ?」

 マオクンとは、魔王君臨というゲームの略称である。ちなみに、この会話でのマオクンとは、魔王君臨Ⅸのことである。

「あー、まだ主人公の正体が人間だったってところかな。」

 残念ながら、俺はゲームをするスピードが遅い。ゲームは好きではあるのだが、苦手だ。アクションとかは、絶対にできない。俺には難しすぎる。やるのはロールプレイングかギャルゲ、エロゲだけである。

「じゃあ、妹クユは?」

 おいコラ待て!唐突にエロゲの題名の略称を言うでない。それも、近くに女子のいるところで。

「うん。樹くん。ちょっとばかし、その下ネタ連発マシンである口を閉じておこうか。」

 そう。こいつも残念なイケメンの一人。俺たちとは違う学校に行っているが、完璧な残念過ぎるイケメンである。

 公然とNGワードを連発する、ピーなイケメンである。

「ちなみに妹クユというのは『妹をくねくねクユらせよう』の略で、くおお。」

 樹の最後の言葉がおかしくなったのは、俺が樹の口を塞いだからである。

 まさか公共の場でエロゲの題をフルネームで答えるとは、俺の予想の範疇を遥かに超えていた。

 恐るべし、佐々木樹。

 俺が妹がいるのに妹もののエロゲやってるってばれたかもしれないじゃないか。

 でも、俺は信じてるぜ。田舎者は口が堅いってことを。大丈夫さ。みんな知らんふりをしてくれるはずさ。

 そうこうしているうちに、電車が来た。

 女子が初めに乗り込み、次に男子が乗り込む。

 なぜこうなったのかの理由は分からないが、こうなっている以上仕方がない。問題は取調室で起こっているんじゃない。現場で起こっているんだ。

「ところで、千秋はどうしたんだ?」

 俺は小学校からの友達の一人のことを樹に聞いた。

「うん。きっと、ラブコメしてるから遅くなるんだろうね。」

 樹はそう答えた。

 ラブコメというのは、ゲームの題ではない。

 ラブコメディ。

 意味は人類の夢である。

 そんな人類の夢を現実世界で堪能している、怪しからん奴が一人いた。

小倉千秋。

これがその怪しからん奴の名だ。

「怪しからん、怪しからんぞおおおお。」

 俺は一目も気にせず、叫んでいた。

 「女の子を拾った」ってなに?それ、エロ本かなにかのことかしら?

 千秋は一人目の女の子を俺にそう紹介した。

 活発そうで、体型は日本人とは思えないほどのないすばでぃ。ついでに童顔。どこの二次元から抜け出してきたんだよ。

 「空から降ってきた」

 それが二人目の女の子の紹介である。

 銀髪の長い髪に、丈の長いスカート。長身で大人びていて、どこかの令嬢のような印象を与える美少女。千秋の口調が、隣から猫が迷い込んできた、とでも言わんばかりの口調だったので面食らた覚えがある。

 どんな猫だよ。そんな猫、欲しいよ。

 「気が付けば家に住み着いてた」

 これが三人目の紹介。

 茶髪の小さめの女の子。どうもシャイらしく、千秋の後ろに隠れていた。やはり、可愛いね。なんだか小動物を連想させ、守ってあげたくなるような、そんな女の子でした。いいねえ。

 小倉千秋という野郎は、これら三人の女の子と、あろうことか、ど、同棲しているのだ。

 なんてエロゲだよ、それ。

 俺にもやらせろや。

 俺なんて、何が嬉しいのか、父と祖母と妹と弟との同棲ですよ。

 しかも、妹は二次元な妹とは程遠く、祖母をよりわがままにした、怪物なのである。まだ祖母には逆らえないからいいのだが、祖母が旅行などに出かけていると、俺や父や弟に家事を全て押し付けるのである。祖母に妹がするように言いつけられたことなのにである。

 恐ろしいので、父も弟も妹には逆らえないのである。俺は言わずもがなだね。

 大声を上げたせいか、大勢の視線が俺に向かって来る。

 あろうことか、俺は叶と目が合ってしまった。

 叶はすぐさま俺から視線を逸らす。

 そうです。これが俺の三次元。

 三次元には希望なんてないんです。

 そう言えば、叶は小学校とか中学校とかの友達とはつるんでないな、と俺は気が付く。

 まあ、あの性格なのであんまり友達は出来なかったんだろうが、アイツもアイツで、無理に他人を避けようとしている節があった。小学校の頃はそうでもなかったんだが、中学の三年生くらいだったかな。アイツが急に周りを避け始めたのは。

 アイツのことなんか何も知らない俺がどうこう考えたって、どうしようもないわな、と俺はそう思って、窓に目を移す。

 緑。

 木しかないので、緑か見えない。

 都会の人間からしたら、風流なのかもしれないが、田舎者からすれば、ただの緑である。

 これが田舎だよな、と思いながら、俺は窓の外を眺め続けていた。


 駐輪場から自転車を出して、自転車にまたがり、学校へ行こうとしていたときである。俺は服部叶が歩いて学校に行こうとしているを見つけた。叶は普段、自転車で行っている。タイヤがパンクでもしたのだろうか。

 時間的には、歩きでも十分間に合う。

 しかし、歩くには、少し辛い。

 一応叶は部活に入っているようだが、小学校の頃は俺の半分の距離しか歩いてなかったし、女の子だしな・・・

 色々と悩んでいると、悩んでいることが馬鹿々々しくなってくる。

 俺はそんなところがあった。

 俺は獅子に挑むような心持で、叶に話しかけた。

 ライトニング・プラズマとか放ってこないよな。光速拳とか繰り出さないよな。

「荷物、載せていってやろうか?」

 少々、馴れ馴れしかっただろうか。昨日、何年かぶりに話したばかりなのに。

 ギラリ。

 俺には叶の睨む目つきから、そのような音が聞こえるのをハッキリと感じた。まさか現実でギラリという効果音が聞こえるとは思わなかったぜ。

「ああ、ええっと、すいません。」

 女の子の荷物を持っていこうだなんて、デリカシーがなさすぎだ。そりゃ、叶も怒るわ。

 俺は逃げようと、ペダルに足を乗せた。

 その時、叶の口が開いた。

「の、乗せなさいよ・・・後ろに・・・」

 叶が「乗せなさいよ」と言ったところまでは分かったが、その後は上手く聞き取れなかった。叶の滑舌が急に悪くなったからである。

 まあ、ろくな言葉ではなかっただろう。

「はい。どうぞ!」

 俺はヤクザの下っ端が組長の娘に対するような受け答えをし、自転車を叶に差し出した。

「え!え?」

 叶は何故か戸惑っているようだった。

 お前が命令したんだろうに。

 叶は腑に落ちない顔をしながらも、俺の自転車にまたがる。

 サドルが高すぎたのか、乗るのが苦しそうである。

「行ってらっしゃいませ、お嬢。」

 俺はテレビでよくやっているヤクザの頭の下げ方をした。

「なんでこうなるのよー!」

 そう言いながら、叶は目にも止まらぬ速さで、自転車をこいでいった。

 というか、それは俺のセリフではないかしらん。


「今日は遅かったな。」

 小木は俺が教室に入ると、そう言った。

 その間も、文庫本から目を離さない。

「お前はいつも早いな。」

 俺たちの電車は早い方で、大体教室に一番乗りになるのだが、小木はそんな俺よりも早く教室にいる。

 一体、どうやって学校に来ているんだろうな。

 謎が多いのが、この小木透人である。

「今日は何を読んでるんだ?」

 俺は言った。

 このセリフ、どこかで聞いたことがあるな。きっと、S×S団の部室でだな。

「『花火の声は届かない』だ。」

 はあ、なんか難しそうな本だな。

「どんな話なんだ?」

「全人類がキノコになって幾星霜。世界征服を狙うトンビキノコが伝説のヒト型最終兵器『ハナビ』を起動させた。しかし、ハナビはキノコの制御が効かず、キノコを貪り食うようになるのであった。果たして、キノコはハナビから逃れることができるのか。そして、ヒト型最終兵器の真実とは・・・」

「は、はあ。」

 どうやら、とんでもない作品のようである。つーか、人類がキノコになってるって、どんな世界設定だよ。ヒト型最終兵器よりも、そっちの謎の方が気になるだろう。

「しかし、入学式か。入学式になんで七時間も俺たちは授業があるんだろうな。」

 なにが「しかし」かは分からないが、俺は付けておいた。

「そういう学校だからだろう。」

 小木は言った。

 全く、その通りです。

 この学校は、国公立大学へバンバン進学する。それゆえ、水曜を除く、週四日は一日七限もある。二週間に一度は土曜日に午前だけ授業がある。

 これで部活もやっていたら、遊ぶ暇もないだろう。

 俺はやってないので、気楽なもんだが。

 そう考えていると、脳裏に服部叶の姿が映った。

 俺なんかと違って、アイツは勉強も頑張ってるし、部活も真剣にやっている。性格さえ良かったら、俺は惚れてたかもしれないな。

 なーんてな。

「又兵衛、どこ見てるの?」

「うおおおぅ!」

 音も気配もなく、背後から聞こえた修治も声に、俺は危うく椅子から落ちそうになった。

「野原さんを見てたでしょ。」

 今度は修治は俺の耳元で囁くように言った。

 きっと、この声は小木にも聞こえてはいないだろう。

 俺は顔が火照るのを感じた。

 耳まで熱い。

 そう。俺は野原咲という女生徒に淡い恋心を抱いていた。

 くわああああ。

 は、恥ずかしい!

 小さめの背に、少し茶色がかった髪。その髪は短くカットさせており、うん、可愛らしい。ソフトボール部に入っていて、明るく活発な、でも、どこか恥ずかしがり屋な少女。

 そして、あの輝かんばかりの笑顔。

 グレイト!

 ビューティフォー!

 ブリリアント!

「気持ち悪い顔。」

 俺の妄想を打ち砕く言葉。

 また音もなく気配もなく現れたのは古巣であった。

「てめえ、俺の素晴らしい妄想を打ち砕きやがって。」

「だから又兵衛はモテないんだよ。」

「うるせえ!」

 クックック、と古巣は不気味な笑い声を出す。お前もそれがなかったら、モテてただろうな。

「あ、そうだ、古巣。今日『俺真』の最新刊が出るけど、一緒に買いに行くか?」

 俺は古巣に言った。

 ちなみに、俺真とは、『俺は新興宗教の信者になっている』という漫画の略称である。

「当たり前だろう。前巻で宗教を鞍替えするのかどうかっていういいところで終わったんだから、楽しみで仕方なかったんだよ。」

 古巣がやけに興奮している。

 まあ、前巻のあの終わり方では仕方がないよな。

「よし、じゃあ、放課後まで頑張ろうぜ。」

「ウズウズ。」

 口でウズウズって言うやつはなかなかいないよな、などと思っていると、授業の予鈴のチャイムが鳴った。

 またな、と言って、修治と古巣は自分の教室に帰っていった。

 さあて、今日も一日頑張るか。


 趣味は散歩。

 俺がそんなことを言ったら、絶対笑うよな。でも、本当なんだよな。笑いたきゃ笑え。花の男子学生の趣味が散歩だなんて、俺だって笑うからな。

 しかし、春の散歩というのは非常に気持ちがいい。

 朗らかという漢字がこれほど似合う季節なんてそうそうないぜ、ホント。

 桜のひらひら散る昼休み、俺は校門前まで来ていた。

 校門近くには多くの大人が写真を撮っている。

 その姿を見て、俺は今日は入学式だったことに気が付いた。

 写真を撮る時の新入生の顔は、もちろん笑顔だが、やはり少しぎこちない。これからの高校生活に感じている不安が隠せないのだろう。

 俺も去年はそんな顔をしていたのか、と思うと、少し微笑ましくも、また、少し心苦しくも感じる。複雑だな。人間の心理なんてのは。

 生活委員会が校門の前でにらみをきかせているのに気づき、俺は踵を返すことにした。委員会に関わるといいことがない。去年、委員会や生徒会にケンカを売って、危うく潰されかけた部の噂を聞いたことがある。名前は忘れてしまったが、文化部だった気がする。なんか、とてつもなくオカルトチックな名前だったような・・・

「あのう、お聞きしたいことがあるんですけど。」

 校門に背を向けた俺に背後から呼びかける声がする。

 教室を訪ねる保護者かなんかだろうな、と思った俺は、後ろから俺を呼びかけた人物を見た瞬間、時間が止まるのを感じた。

 メイドさん。

 俺に声をかけたのは、なんと、メイドさんだったのだ。

 何故学校にメイドさんがいる⁉

 それも、黒髪ツインテールとか、反則じゃないですか。

 二次元の産物が三次元に存在しているとか、ダメでしょ、それ。二次元の存在意義が無くなっちゃうじゃないですか。

「な、何でしょうか。」

 胸の動悸が止まらない。

 これは夢ではないのだろうか。

 いや、違う。夢で動悸が起ることなんてあるはずがない。

 俺は恐る恐る、好奇心に満ちた目でメイドさんの受け答えをした。

「後藤又兵衛さんという方にお会いしたいのですが。」

「お、俺ですけど。」

 俺は何も考えずに、反射的に答えてしまっていた。

 普通、自分の名前が出てくるだなんて思わないし、そんな時、反射的に答えてしまうのが世の常だろう。

「私はついていますね。最初に声をかけた生徒が標的だなんて。」

 メイドさんは可愛い笑顔を見せて言った。

 俺はメイドさんが言った「標的」という言葉に疑問を感じる暇さえなかった。

 目の前の光景に目を奪われたからだ。

 機関銃。

 メイドさんの腕にはいつの間にか機関銃が握られており、その銃口は俺の体に押し付けられていた。

 一体どういうことなのか。

 頭を整理する暇もなく、俺の腹に痛みが走った。

 俺はいつの間にか気を失っていた。


「うおおおおおお!」

 俺は自分の上げた声に目を覚ました。

 いつの間にか上半身を起こしている。

 夢落ち。

 俺の頭にはそんな言葉がよぎる。

 俺は周りを見回す。

 ベージュのカーテンが周りにかかっている。

 ジャキ。

 カーテンをきる音と共に、白衣を着た女性が現れる。

「気分はどうかしら。」

 女性は俺に言った。

「俺は・・・一体・・・」

「あなたは一度死んだの。メイドさんの撃った機関銃にハチの巣にされてね。」

 なんだと・・・

 あれは現実で、じゃあ俺はなんで生きている?それとも俺は死んでいて、ここは俗に言う、冥途なのか。メイドさんだけに。

「面白くないギャグね。あと、ここは死後の世界ではないし、あなたは生きてるわ。」

 なんで俺の考えていたことが分かるんだ?言葉には出していないはずなのに。

「あなたは単純だから、考えてることぐらい分かるわ。ばっちり顔に書いてある。」

 そんなバカな。

「俺は一度死んだんだろ?じゃあ、なんで俺は生きてるんだ?」

 俺は思ったことをそのまま言葉にした。

 白衣の美人はどうも俺の考えてることが分かるみたいなので、俺は素直に言葉にした。

「一度死んだ人間が、現在生きている。この二つの現象の間にあるのは一つの事象しかないわ。」

 白衣の美人は、もったいぶるように言葉を止める。

 俺は固唾を飲む。ゴクリ。

「あなたは蘇ったの。偉大なるショッ×ーの蘇生技術によってね。」

「じゃ、じゃあ、今の俺は・・・」

「そう。あなたは今や、ショッ×ーの人造人間よ。ポーズをとって、変身!と叫びなさい。そうすれば・・・」

「まさか・・・」

 俺はポーズをとって、変身!と叫ぶ。

 すると、俺は・・・

 案の定、姿は変わらない。

 ただ、白衣の美人の笑い声が響いているだけだった。

「おい、これって、まよ×キのパクリじゃねえか。」

「まさか、本当に騙される人間がいるなんて・・・はははははは。」

 美人は腹を抱えて笑い転げている。

「で、ここは保健室か。俺はどうなったんだ。メイドさんと機関銃はどうなったんだ?」

「あなたは校門の近くで倒れたの。もちろん、機関銃でハチの巣なんかになってないし、そもそもメイドさんなんていなかったわ。」

 じゃあ、あれは夢だったのか。そして、俺は知らず知らずのうちに寝言を言っていて、それをこの人が悪い美人が悪用したのか。

「さっき、この女、人が悪いな、って思ったでしょ。これでも私は保健室の先生、つまり、学校医なのよ。」

 噂では聞いたことがあった。

 うちの高校の保健室の先生は若くて美人だと。

 しかし、この女のいうことを信じてはいけない。

 噂では、保健室の先生は人が悪いとはなっていなかったからな。

 きっと、この女は偽物だ。

 法王のメロンが操っているに違いない。

「大丈夫。私は本物の保健室の先生よ。D×O様からの刺客ではないわ。」

 なんで俺の考えていることが分かるんだよ。

「だから、顔に書いてあるって言ってるでしょ。」


 本当に俺は夢を見ていたらしい。メイドさんが学校に来ていたら、そりゃ目立つだろうから、目撃証言があるはずだが、誰もメイドさんなんか見ていないと言っていた。

 ま、機関銃を持ったメイドさんなんて存在するわけないよな。

 てなことで、いつの間にか放課後になっていた。

「ほら、又兵衛。『俺真』買いに行くぞ。」

 放課後になっていたそうそう、古巣は俺の教室に来ていた。

「分かったよ。あ!」

 俺は机の中から出てきたものに驚いた。

 ラブレター。

 などでは決してなく、図書室から借りていた本だった。

 返却期限は今日だった。

「あー。古巣、悪い。俺、本を返しに行かねえとなんねえわ。」

「じゃ、早く行くよ。図書室。」

「お、おう。そうだな。」

 俺は古巣に少し気後れをしてしまった。よっぽど漫画の続きが気になるらしいな。

 俺はカバンに教科書を突っ込んで、古巣と一緒に図書室に行くことにした。


 危機的な状況に陥ると、目の前の光景がスローモーションに見えるらしい。

 そして、俺は今、目の前の光景がスローモーションに見えている。

 女子の背中が迫ってくる。

 どうも女子が降りてきた誰かとぶつかって、階段から落ちかけているらしい。

 その女子の背後に運悪く位置していたのが俺というわけだ。

 どたどたどた。

 そんな音と共に、俺の体には痛みが走る。

 目の前は真っ暗だ。

 今度は気を失ったのではなく、女子の背中で視界が遮られているのだ。

「大丈夫ですか。」

 これは男子の声。

 どうやら俺の上に乗っかっている女子とぶつかった人物らしい。

「あ、ありがとうございます。」

 体がふと軽くなった感じがした。

 痛みのせいで重さなんて感じられてなかったのだ。

 男子と女子は何やら話し合っている。その話はなんだか楽し気だぞ。

 おい。負傷した人間をおいておいて、何をイチャイチャしとるのだ。

 けっ。

 俺はこっそりと二人の間を通り抜ける。

 通り抜ける瞬間に、横目でチラッと二人の様子を見た。

 男子の方には見覚えがある。二年六組の清水とかいうヤツだ。スポーツ万能、成績優秀、眉目秀麗のモテモテ王子。

 俺は女子の方を見て、肝を冷やした。

 正確には、女子の上履きを見て、である。

 赤い上履き。

 赤い上履きは、三年生の証だった。去年までは。

 F高は上履きの色が学年で違い、赤、青、黄の三色を使いまわしている。つまり、去年の三年生は赤い上履きだったが、卒業して、そんで今年の一年生が赤い上履きを履いている。

 ちなみに、今年の三年生は黄色い上履きで、俺たち二年生は青。

 俺は女子の赤い上履きを見て、一瞬上級生かと思って、身を強張らせたのだ。

「ビビり。」

「ビビりで悪いか、ビビりで。」

 俺はいつの間にか傍らに来ていた古巣のイヤミに言葉を返した。

 ビビりで悪かったな。


『いや、今回は前回よりも良かっただろ。むしろ神回だったね。』

 それはない。

『はァ?前回なんて、厨二丸出しの駄回だっただろ。お前は今までちゃんとアニメ観てきたのか?』

 午前三時。

 俺は現在、パソコンの前に座り、必死でディスプレイを睨んでいる。

 俺の日課は、深夜まで徹夜してアニメを見て、その感想をSNSに投稿することだ。

 その日課を初めて以来、俺の感想に一々文句をつけてくるヤツがいる。

 ハンドルネーム・百花繚乱。

 この男は俺の何が気に入らないのか、アニメについて俺が書き込むと、何かと文句をつけてくる。

 でも、なんていうか、その、コイツを嫌いにはなれないんだよな。

 俺がMってわけではないぞ。

 なんていうか、ケンカするほど仲がいい、って感じなんだよ。

 もしかしたら、百花繚乱と俺とは似ているのかもしれない。

『お前、ガン×ムを劇場版でしか見ていないだと⁉それも、ゼ×タとター×Aも劇場版だけで、テレビ版を見ていない⁉信じられん。お前はそれでもジ×ンの軍人か!人生をやり直せ。』

 なんでそこまで俺はバッシングされなきゃなんねえんだよ!

『永遠に眠ってろ。』

 分かったよ。望み通り、ぐっすりと寝てやるよ。

『もう起きてくるな』

 余計なお世話だ。


 楽しくもなんともない、と思っていることは、本当は楽しいことなのかもしれないな。

 どういうこと?

 そんなことも分からないから、お前はストーカーなんだ。

 あの女と態度が全然違うじゃない。昨日だって、あんなに楽しそうに・・・

 また盗聴してたのか。

 ぎくっ。

 私がお前に興味がないのは、お前が巨乳だからだ。その乳を萎ませてから、私の前に現れろ。

 ホント、アンタは変人ね。

 ストーカーに言われたくないな。

 ・・・

 どうだ?今、お前は楽しいか?

 全然。

 じゃあ、楽しくないか?

 そうでもないけど・・・

 じゃあ、どちらだ?

 う~ん・・・どちらでもないかも。

 つまり、そういうことだ。

 ?

 楽しくもなんともない、苦しくもない。そんなことの方が実は楽しいことなんだってことだよ。

 そうなのかな?

 私にも分からない。しかし、自分で楽しいと思っていることは、実は思っている以上に楽しくないことかもしれないんだよ。

 はい?

 人間ってのは、自分の中に必ず信念が存在している。その信念に従って、この世界を見ている。つまりは、個人が見ている世界ってのは、それぞれの信念というレンズで見たものということだ。

 つまり、世界の見え方は、人それぞれってこと?

 まあ、そんな単純なことではないのだが、大方そうだろう。だが、その世界の見え方が人それぞれで共通している部分があるのはどういうことだ?例えば、今、この屋上からは桜の木が見える。その桜の木は私には桜の木に見え、ストーカーにも桜の木に見えている。他の人間からも同じ桜の木が見えている。

 そんなの、当たり前じゃない。

 本当にそうかな?

 え?

 人がそれぞれ本当の個性を持っているのなら、同じようには見えてはいけないはずだ。その物体を桜の木と言う人がいれば、それを川だと他人は言わなければいけない。

 ?

 人間は人間である限り、他の人間と共通の認識を持っていなければならない。もし、それを持っていない者がいれば、ソイツは人間と認められないだろうな。

 訳が分からないんだけど。

 人は人である限り、共通認識に縛られてしまっている。それ故、完全なる個性なんて存在しない。その個性は何らかに操作されている可能性がある。生きる理由、つまり、信念も同様にな。

 な、なに?急に桜の花びらが舞い上がってきた!

 一体、人間はどういう風に生きていくべきなんだろうか。

 バカね。アンタは。

 ?

 そのくらい、誰だって無意識に感じてるわよ。でも、いや、だからこそ、自分の信念を貫いていくの。だって、そうするしかないんだし、それに、信じてるのよ。

 何を?

 無理を通せば道理引っ込む。我を通せば真理引っ込む。

 全く、その通りだな。

 だって、アンタは現に・・・

 分かっている。私も自分の信念を無理に通そうとして、そんなことを言い出したのだからな。

 でも、この花吹雪はなんなんだろう?周りが全然見えない。

 ま、超常現象だろうな。


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