9話 町の外にはダンジョンが
「いやー、まさか羽根が消えないとはね」
リリーは気楽に言う。空間魔法のおかげで回りからは見えていない。
しかし、動かし方を理解しているエルにとってはまるで地獄だった。
「むぅ····動かさないと、すぐ凝る····リリー、消す魔法とか、創れないの?」
まるで、2時間以上正座をしている気分だった。
今は寮の部屋の中だから自由に伸ばしているが。
「うーん、じゃあ、こんなのはどうかな?」
リリーはそう言ってパチンと指を鳴らす。
すると、二人の背中の翼が消え、丁度生えていた辺りに紋章のようなものが浮かんだ。
「胴体の方と一体化させてみたよ。多分、好きな時に出せると思うな。」
そうリリーが言ったので、エルはそれを試す。
出ろ、と念じたら確かに出てきた。
リリーはそれを安堵した。
「よかったー、成功みたいだね!魔法創る時って、割と緊張するんだー」
「ん、折角だから、町の外、出てみない?」
エルが提案した、大陸の外側。
魔法生物が蔓延っており、そこに出る者は滅多にいない。普通の人なら恐怖する。
だがリリーは楽しそうに、
「いいね!行こう!」
◆◆◆
「うぇ~、広いね~」
リリー達の目の前には、広大な草原が広がっていた。
世界には三つの大陸があるが、このメルタクラス大陸には草原が多いとされている。
「私も初めてだけど、言う程、危険かな?」
エルの言う通り、そこは平和そのものだった。
だが、リリーが遠くに異様な雰囲気を放った塔のようなものを見つけた。
「あそことか行ってみようよ!何かお宝あるかも!」
「賛成、行こう」
───次の瞬間には、二人は空に舞っていた。
◆◆◆
亜音速で飛んだリリーたちは、一瞬で塔にたどり着いた。
「相当スピード出るんだね····目が乾いちゃった」
目を擦りながら塔を見上げると、異常と言える光景が視界に飛び込んできた。
頂点が見えない程に高い塔、そしてその上空だけに立ち込めた黒雲。
エルはそれを見て呆然と口を開けていた。
「これ、塔自体に魔力が宿ってる···」
だがリリーは塔に触れ、冷静に塔を分析していた。
そして、一つの結論に辿り着いた。
「よし、飛んで一気にてっぺんに行こう!」
そこでエルの意識が覚醒し、リリーを引き留めた。
「これ、ダンジョン。てっぺんに、幻獣がいる。危険だよ?」
そう、これはダンジョンと呼ばれているものであり、世界の各地に存在している。
その形状はさまざまであり、洞窟だったり遺跡だったりする。
その最深部には幻獣とよばれる魔法生物が棲んでいるらしい。
「生きて帰った人、ゼロ····危ない」
だが、リリーは少しの迷いもなく、こう言い切った。
「よし、倒そう。」
◆◆◆
リリーたちは塔の側面を凄いスピードで昇っていた。
だが、音速に近い速度で飛んでいるのに、3分以上着かない。高すぎる。
「あっ、あれてっぺんじゃない!?」
「うん、多分····」
頂点がようやく見えた。スピードがスピードなので、見えてからは一瞬だ。
リリーたちは塔の最上階に降り立った。
───だが、リリーとエルは、そこで自分の目を疑った。
『ほう、来客か。珍しいな。』
────そこには、巨大な龍がいた。