8話 飛ぶのに翼を使うのは甘えだし・・・(震え声)
あれからリリーはすっかり復活し、普通に活動できるようになっていた。
リリーにあの変化については言っていない。
あと数週間で夏休みに入るので、その時に話そうとエルは思っている。
「エルちゃーん?次は実技だよ?急がないと遅れちゃうよー」
「ああ、うん。急ぐ。」
今は考えても仕様がないと、エルはこの事を考えないようにした。
◆◆◆
「今日から実技の授業は、夏休み明けの魔法大会へ向けてのトレーニングへとシフトする。」
はて、とリリーは小さく首をかしげ、エルに訊いた。
「ねぇねぇエルちゃん、魔法大会って?」
「1年に2回、夏と冬に開催される大陸規模の大会。これも授業でやった。でもリリー寝てた。」
···意外と教科書に載ってない事も多いんだな、とリリーは少し感心し、たまには授業で起きていようと思った。それを実行できるかは別だが。
「とりあえず、ペアを作れ。教えあった方が実力もすぐに上がるだろう。」
───ペアを作れ。それはボッチにとっては死刑宣告も同じ。
だが、このクラスは偶数なので余りは出なかった。優しい世界。
もちろんリリーはエルと組んだ。
「ねえ、エルちゃん。オリジナルの魔法って、そんなに凄いの?」
「凄い。だから、リリーは攻撃用の魔法を創っちゃだめ。絶対に。」
エルはとりあえずリリーに攻撃魔法を創らせない様にしている。
また暴走されたら、辺りの被害が尋常では無くなるし、何よりリリーがまた腕を壊してしまうかもしれないからだ。エルはそれが怖かった。
「じゃあ、攻撃じゃなかったら良いの?」
「まぁ···良いよ。」
攻撃魔法以外の魔法はそこまで必要魔力量が多くないので、それを許可する事にした。
「じゃあ、翼を生やす魔法とかカッコいいかも!······むむむ、えいっ!····あー、流石に一回じゃ無理か」
具現化の魔法は、全魔法の中でもトップレベルに術式が複雑だ。
いくらリリーでも一回では無理だったようだ。
エルがそんなリリーに少し安心すると、リリーはすぐさま再挑戦を始めた。
「えーっと、ここがこうなると、こっちがこうなるから···」
どうやら頭の中で術式を組んでいるようだ。
異常な記憶力を持つリリーにしかできない芸当である。
「よーし····そりゃぁ!」
ボンッ、と言う大きな音を立てて、リリーの背中からゴツゴツした銀色の翼が生えた。
エルはとても驚いたが、リリーだからと自分を納得させた。
対して、リリーは不満そうに呟いた。
「あれ、天使の羽根みたいなのをイメージしたのに····まあいいや!カッコいいし!飛んでみよう!」
リリーはむむむと力むが、どうやらなかなか動かしにくいらしい。
これを見たエルは少し面白そうだと思い、この魔法をリリーに教わる事にした。
「リリー、私にもそれ、教えて」
「あっ良いよ、背中にほんの少し骨を具現化して、それを回復魔法で回復させると翼になるんだ。なぜか」
·····どうしたらこんな発想が出てくるのだろうか、とエルは思った。
具現化魔法や回復魔法などは適正が無いため、頑張れば誰でも使える。
つまり、強い魔法使いならだれでも翼を生やせるということだ。
「骨を具現化、それを回復·····あ、できた」
もちろんエルにも具現化と回復の魔法は使える。なのであっさり成功してしまった。
エルの背中には、大きな天使の羽根がついていた。
それを見てリリーが、
「あ゛ーっ!私がイメージしたのとほぼ同じー!」
と叫ぶ。不可抗力だ、とそれを無視し、翼の動かし方を練習するエル。
その翼はリリーのとは違いふわふわと上下に動き、エルの体を宙に浮かばせた。
「ああもう!私は飛行魔法でも創って飛ぶもん!そりゃ!」
そうリリーが叫ぶと、すっとリリーの体が浮き上がった。
この一瞬で魔法を一つ編み出したようだ。
末恐ろしいな、とエルは苦笑いする。
「それにしても、この翼出したら魔力が上がった気がする」
「一応骨だからね。体が大きくなったと魔力が勘違いするんじゃない?」
エルが疑問を口にすると、リリーがそれを答える。
あたかも当然の様に言っているが、魔力を騙す魔法なんてどうかしているのではないか。
エルはそう思うだった。
「ところでリリー、この翼、どうするの?」
「あ·····」
空間魔法で翼の部分だけ別空間に送っておくことで解決した。