6話 オリジナルの魔法・・・
リリーは今、闘技場の中央に立っている。
そこに立っている人は12人。リリーはサドンデスマッチに参加していた。
『おっと、今回は随分と小さな子供がいるようだ!大丈夫なのかー!?』
ナレーションが失礼なことを言ってきた。
確かにリリーは身長の低さから8歳程度に見られる事が多いが、れっきとした12歳なのである。
「会場の奴等全員見返してやるんだから···!」
そんな風に意気込んでいるリリーを客席から見ていたエルは、うっかり殺してしまわないだろうかとヒヤヒヤしていた。
『それでは、開始!』
大きな銅鑼の音が響く。
その瞬間、全員がリリーに向けて詠唱を開始した。どうやら打ち合わせをしていたようだ。
だが、リリーはなにもしない。
地面が抉れるほどの威力の魔法が全員から放たれ、リリーの回りが爆炎で覆われた。
───おかしい。そうエルは感じた。明らかに威力が規格外だ。だが、魔力上昇ポーションはまだ開発されていないし、その手のマジックアイテム類が装備されているわけでもない。じゃあ───?
「けほっ、けほっ、土煙が目に···『ウィンド』」
だが、そんなエルの不安も杞憂に終わった。
煙の中から声が聞こえると、一瞬にして煙が飛ばされ、中から出てきたのは、
「目に入ったゴミを取る魔法とか無いのかな····」
そんな独り言を呟く、無傷のリリーだった。
客席のエルは一人ため息をつき、対戦相手は全員目を剥く。
「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」
「はぁー····」
しかしそんな回りの様子をまるで見えてないかの様に、ブツブツ独り言を続けるリリー。
「今私に撃たれた魔法····『マジックボム』····なぁんだ、一種類か····」
しかし、そこで何かに気づいたようにハッと顔を上げる。
「あれ?そういえば入学式で私が撃った魔法って、魔導書に書かれてなかった······オリジナルの魔法····!?」
エルは自分の耳を疑った。
───オリジナルの、魔法?何を言ってるの?そんなの、できるわけが·····
だが、物は試しとリリーは右手を前に突き出す。
そのタイミングで、ほとんど放心状態だった相手が全員、意識を取り戻し。
「なんか仕掛けてくるぞ!防御魔法最大出力展開ッ!!」
リリーを除いた11人全員が防御を展開する。
子供相手に何を本気になってるんだか、とリリーは思ったが、すぐに脳内での魔法の構想に入る。
(水、地、闇····全てを複合、相殺しないように術式改編····できた)
世界で一度も達成できた者は居ないとされる三属性複合魔法をあっさり編み出したリリーは、すぐさまその魔法の詠唱に入る。
「『水の精よ、地の神よ、闇夜の悪魔よ。我は全てを統べる者なり。我が左腕を差し出そう。盟約に従い、眼前の敵を食い破れ。第一の呪、《血盟・黒獣》』」
───瞬間、リリーの左腕が弾けとんだ。
だが、そこからは血も出ず、リリーも痛みに顔を歪ませる様子もない。
その直後、リリーの周辺に落ちていた瓦礫が、あっと言う間に黒い狼へと変わった。
『蹂躙せよ。』
雰囲気が全く変わったリリーがそう呟くと、10匹ほどの狼が一斉に相手に襲いかかった。
相手の防御魔法はまるで紙のように簡単に破られてしまった。
そのうちの一匹が、一人の腕を噛みちぎる。
「ぐぉぁぁぁぁぁっ!?も、もう降参だ!止めろ!」
相手がそう言うと、狼は興味無さそうに他の相手の所へ向かっていった。
だが、他の相手も全員地面に座り込み、両手を上に上げていた。
『·······勝者、リリー・カーライル選手』
歓声は起きなかった。当然だ。人の腕が噛みちぎられたのだ。
エルは、急いでリリーの元へ向かった。
「リリー···!」
だが、そこでエルが見たものは、到底信じられないものだった。
いつも輝いていた金色の目は、銀色に変わっており。
左の頬には赤い爪痕のようなものが浮き上がっていた。
それ以外はリリーなのだが、まるで全てがリリーじゃないような、そんな雰囲気。
「リリー、なの···?」
エルが恐る恐る声をかける。
───すると、リリーはいつものリリーに戻り、意識を失って倒れてしまった。