16話 鬼教官?
「これが答え······?」
リリーが思わずポツリと呟く。エルは声を出すことすら忘れている。
それもそのはず、今目の前にいる龍はロイギスの5倍はあろう巨大なものだった。
「この龍は時龍クロノシアス。五頭の神龍の頂点で、龍神王とよばれたりもするわ。」
「え、え?で、でもその神龍がなんで答えなの?」
リリーはもっともな疑問を問う。
マリアは悲しそうな、でもどこか嬉しそうな表情でこう答える。
「この龍は私の夫。─────つまりあなたのパパよ。」
「「·······え?」」
◆◆◆
「えーと、つまり?ママは龍と結婚してて?私は龍の子で?その龍がパパで?もう訳わかんないよぉ」
リリーは一種の混乱状態にあった。
もともと父親が死んでいると聞かされていたことも相まってさらに混乱を加速させていた。
そんな中、マリアは呆然としているエルに話しかけた。
「エルちゃん、リリーが暴走したことってある?」
「ハッ!え、えっと、一回だけ」
いつものようにあだ名で呼ばないあたり、真剣さが伝わってくる。
「その時、何か目立った特徴は?」
「確か、目が銀色、左のほっぺたに赤い模様。····爪痕?」
するとマリアは少し嬉しそうに龍を撫でながら、
「しっかりあなたの血が流れているのね·····」
と、笑顔でそう呟いた。
だが、すぐにエルの方に向きなおすと、真剣な表情でこう言った。
「その暴走はね、身に危険が迫ると発動するようになってるわ。体のパーツのどれかを持ってかれたってあたりかしら。まあ良いわ。リリーにはこの家にいる間、それを使いこなせるまで成長してもらおうかしら。」
その一言で、トリップしていたはずのリリーの意識が即座に呼び覚まされる。
そしてマリアに向かって、冷や汗を流して問う。
「······まさかママ、本気ではやらないよね?」
「ん~?勿論、全力を以て指導するわよー♪」
「うわああああああああぁぁぁぁ嫌だああああああああああ」
事情を知らないエルは困惑しているが、マリアは意外と容赦が無い。
人に物を教える時には慈悲の欠片も無いので、リリーはそれが苦手。というか嫌い。
「あ、ついでにエルるんの魔法も鍛えちゃおうかしら♪」
「え、ちょっとママ!魔法苦手だって言ってたじゃん!」
「ふふふ、あんなの実力隠してたに決まってるじゃない。あのファイア、一応詠唱破棄してんのよ?」
「うわああああああああエルちゃん逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
その日、エルは初めて地獄というものを体験した。
◆◆◆
「ぜーっ、はーっ、ぜーっ、はーっ、」
「ぅぅぅぅぅ········」
マリアによるスパルタトレーニングが終了した。
リリーは床に倒れこみ、肩で息をしている。
エルに至っては涙目だ。四つん這いでリリーに近づいている。
「ママっ····もうっ、人に物、教えるの、禁止っ······」
「りりぃ~、もうやだぁ~、ぐすん」
リリーは途切れ途切れに文句を垂れ流し、エルは泣きじゃくりリリーにしがみついている。
それをみてマリアは満面の笑顔で、
「ママってば、教師の才能あるかも~☆」
などとほざいていた。
やめてくれ、と心から願うリリーだった。
◆◆◆
「エルちゃん、寝ちゃった。割りと子供っぽいのかも?」
「ふふふ、泣き疲れたのね。可愛いわ~」
エルはただいまリリーの膝枕で寝ている。
初めての人にマリアの指導はキツすぎたらしい。
「それで、暴走は使いこなせたかしら?」
「暴走を使いこなすってあれだね·····まあ、一応。ほら」
リリーからボウッと音がしたかと思うと、リリーの目が銀色になった。
ちなみに、リリーは自分が暴走した記憶は無いため、一からマリアが教えた。
「うん、それだけ使えれば十分かな。完璧だと髪の毛も銀になるわよ」
「ふーん。それで、何が使えるようになったの?」
「そうね、魔力上限の上昇と、《時魔法》、それに《空間魔法》、《時空魔法》が使えるようになったわよ。そうパパが言ってたわ。」
リリーは魔法を創れるが、流石に世界自体に干渉する魔法は使えなかった。
《時魔法》と《時空魔法》は世界に干渉する強力な魔法だ。
「それにしても、エルちゃん起きないなぁ、膝痺れてきた·····」
「歴史的名誉をそれにしてもで片付けるなんて·····まあ良いわ。それこそ時魔法で運んであげればいいんじゃない?それか空間魔法で。練習にもなるでしょ」
「そうするかな·····でもあれ、時魔法ってどう使うんだろう、えいっ」
リリーの気の抜けた掛け声で、世界は灰色に包まれた。




