10話 私たちは食べてもおいしくない
───龍。それは、世界にいる生物で最も優れている存在。
身体能力、知能、魔法。全てに於いて圧倒的である。
その龍が、リリーの前に立っていた。
『人間なんて見るのいつぶりだろうな。数えた事もねぇか。』
全身が漆黒に覆われた龍は、心底懐かしそうに目を細めてリリーたちを見る。
リリーはそこに恐怖を覚えず、逆にどこか安心すると思った。
そこでその龍が何かを思い出したかのように声を上げる。
『ん?お前は····ははっ、こりゃ傑作だ。あんたら、何しにここに来た?』
そこで、リリーとエルはハッとした様子で慌てて後ろに下がる。
「わ、私たちを食べても美味しくないですよ!」
「むしろ、まずい」
『こらこら、俺はお前らを食ったりしねぇよ。人間は好きな方なんだ。』
龍は面白そうにそう言う。
だがリリーは若干震えたまま、疑いの目を向けている。エルはリリーの後ろに隠れている。
「ほ、本当ですか?」
『本当だ。龍族が人を食ってたのって10万年以上前だぞ』
そこまで聞いて、エルが首を傾げて龍に質問する。
「その時、生まれてたの····?」
『おうよ、天地創造の時からいたさ。』
その言葉を聞いて、二人はぎょっと目を見開いた。
天地創造から存在する龍。神話によると、それは神龍と呼ばれ、何かしらの概念を司っている。
そして、一頭でも欠けると世界が崩壊してしまうらしい。
『お、その反応を見ると神話にはなかなか詳しいらしいな。じゃあここらで自己紹介でもするか』
その龍はゴホン、と咳払いをしてから話し始める。
『俺の名はロイギス。五頭いる神龍のうち、この世の絶対悪を司ってる龍だ。』
ニヤリと笑ってそういう龍···ロイギスにリリーは一瞬寒気を覚えた。
だが、すぐに普通の楽しそうな笑みに戻った。
『ところでさっきも聞いたが、何でここに来たんだ?』
「え、あ、新しい魔法を試してたらこの塔を見つけまして」
『そんで来たって訳か。ところで、その新しい魔法って?』
「ああ、えっと、これです」
そういってリリーは翼を出す。エルも何となく出す。
ロイギスは目を丸くして、関心した様に声を出す。
『へぇー、器用なもんだなぁー。あ、そうだ。』
ロイギスが唐突に何かを思い付く。
そして、リリーたちにこう言った。
『ちょっと俺に本気で魔法打ってくんね?』
「「え?」」
エルと声が被ってしまったが、そんなことはどうでもいいと、リリー。
「いきなり、どうしてですか?」
『いやな、お前たち相当強いだろ?特にお前なんて、メルタより強いかも知れんぞ』
気になる単語が出てきたので、エルはすかさず質問を挟む。
「その、メルタって、誰?」
『ん?ああ、人類最強って言われてたらしい、ローレライ・メルタクラスの事だよ。この大陸を一番最初に見つけてきた人間。知ってるだろ?』
エルは絶句してしまった。
人類最強とそんな親しいのか、と。
『それで、だ。折角ここまで来たんだから、強さに応じた土産でも渡してやろうと思ってな。』
◆◆◆
リリーとロイギスは、10mほどの距離を取っていた。
リリーは右手を前に、ロイギスは座って構えていた。
『よーし、全力を撃ってこい』
「後悔しないで下さいねー、っと。」
リリーは一度呼吸を整えてから、詠唱を始める。
「『氷よ、我が望みを聞くが良い。氷は時を奪う。全てを凍てつかせ、世を覆い尽くせ。』」
リリーの目が銀色に輝く。エルにはそれが見えていなかった。
「『絶対零度』」
────その瞬間、氷が視界を埋めつくした。
◆◆◆
エルが塔を見下ろすと、塔全体が氷に包まれていた。
リリーはいつものリリーに戻っており、地面に横たわり肩で息をしていた。
一方でロイギスの方は、無傷だった。
『はは、まさか人間でこんだけ強いのがいたなんてな。ほら、飲め』
ロイギスは笑いながらリリーに赤い瓶を投げるとリリーはそれを受け取り、嫌そうにしながらそれを飲んだ。
すると、みるみるリリーの魔力が回復した。
『そりゃネクタルっつってな。魔力回復、最大量増加の優れものだ。』
「あ、ありがとうございます」
『あと、こっちも受けとれ。』
そう言うとロイギスは自分の口に手を伸ばすと、牙を折った。
リリーとエルが驚いていると、その牙は光を放ち始め、少しずつ形を変えていった。
少しすると、その牙は杖になっていた。
ロイギスはその杖を投げたので、リリーは慌ててそれをキャッチする。
「わわっ····ってこれ杖!?こんな高いもの貰えませんよ!」
そう、杖というのはもともと非常に高価で、貴族などが使うものだった。
『今作ったんだから値段なんて無いだろう。大体、お前以外に使えないようにしたんだから、受け取ってもらわないとこっちが困るんだよ。』
「あ、そうですか····」
リリーはどこか納得のいかない表情でそれを受け取ったのだった。




