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~ bad dream & happy dream~  作者: 桜鶯
♪happy end series♪
7/9

*私男の娘?トリップ~パン屋の娘さん~*

 小さな町の外れに赤いお屋根の小さなパンやさんが有りました。お母さんを早くに亡くし、お父さんと娘さんの2人暮らし。お父さんは毎朝早起きしてパンを焼きます。美味しそうなパンの焼ける匂い。そんな匂いを纏いながら、娘さんはサンドイッチやコッペパンにジャムを塗って開店準備。お店を開けると次々にお客さまがご来店。ささやかだけど毎日充実した日々を過ごして居ました。


 そんなある日、パンやさんに強盗が入ってしまいました。しかしお金になる様な物なんて何も無かったのです。それを怒った強盗がお父さんを殺してしまいました。お父さんに庇われた娘さんは、何とか外に逃げ出しましたが、後ろから走って来た馬車にはねられてしまいました。でもあれ?娘さんの姿が何処にも見当たりません。辺りに人影も無く、馬車も気付かずに走り去ってしまいました。パンやさんは強盗に入られ、娘さんは拐われたと思われてしまいました。



 私ははふと目を覚ましました。馬車にはねられた筈なのに、体はどこも痛く有りません。辺りをキョロキョロ。お家の様子を見に、こっそり窓から中を覗きこみます。誰も居ません。パンも並んで居ません。今日はお休みみたいです。


 取り合えず、町の中心に行く事にしました。変わらぬ町並みに行き交う人々。でも何かが違う。雰囲気が微妙に違く感じます。小さな町なので殆どの方が顔見知りなのですが、誰も話しかけてくれず、私も何故か話しかけにくい。段々と辺りも暗くなって来ました。元居た場所に戻ると、お家に灯りが灯って居ます。こっそり中を除くと、死んだ筈のお母さんが居ます。びっくりして飛び込んでしまいました。お母さんに抱きつき泣き出してしまいます。何処の誰かもわからない、そんな不審な私なのに、お母さんは優しく話を聞いてくれました。私は息子さんと双子の様に似ているそうで、他人に思えないと言ってくれたのです。もうすぐ仕入れに行っていた息子さんも帰宅するそうです。


 帰宅した息子さんを見てびっくり。確かにそっくり。本当に男の子?髪の毛は私より短いけどサラサラだし、顔立も私よりハッキリしてて可愛いタイプ。私よりもてそう。少し凹んじゃいます。気を取り直して、そんな息子さんも交えてお話しました。


 息子さんは、お父さんを早くに亡くし、お母さんとパン屋さんをしているそうです。うちと殆ど同じですね。でもやはりここは私の家では無いんですね。世界が違う感じです。巷で人気の俗に言うテンプレ、異世界トリップと言うものなのでしょうか?でも異世界とは違う様な感じがします。考えて居たら、息子さんが言いました。


 明日町の魔法使い様を訪ねてみましょう。以前異世界からの迷い人を、元の世界に送り返した凄い方だそうです。何かわかるかも知れません。今日はもう遅いので、夕食を食べて休みましょう。


 朝です。これから教会に魔法使い様を訪ねて行きます。魔法使い様は教会で治癒魔法を使い、怪我人のお世話をしているそうです。


 私と息子さんは教会に着いて、魔法使い様の時間が空くまでお手伝いをしながら待っています。暫くするとお会い出来るとの事で、魔法使い様のお部屋にお邪魔する事になりました。魔法使い様は時折頷きながら、しっかりと私の話を聞いてくれました。私の居た場所と此方との違い等を細かく質問されました。


 魔法使い様のお考えは、私は異世界トリップでは無い。以前の迷い人とは全くタイプが違うとの事。可能性としては俗に言うパラレルワールド。選択による未知の可能性。分岐した都度の結末の違い。それによる沢山の可能な未来。つまり自分の住む世界と同一の様で少し違う世界が複数存在する。その1つの可能性で有る平行世界へのトリップでは無いかとの事です。つまり…。


 此方の私=息子さん。私が息子さん(男性)だった場合の世界。私のお母さんは早死にしたけど、此方ではお父さんが亡くなって居る1つの世界。これも可能性による違いなのですね。


 元の世界に戻す為にはかなりの魔力が必要になるそうです。それらを魔法石に貯めるまでに3ヶ月。私が此方に居る事で歪みが生じる恐れが有る為、国で魔力は貯めて下さるそうです。本当に有り難うございます。


 あれ?でも戻ると馬車にひかれて死んでしまうのでは?


 今生きていると言う事は、死ぬ前に此方に来たと言う事。戻る際は、此方での3ヶ月がプラスされた時間に戻るので馬車にひかれる心配は無いとの事です。しかし私の世界では魔法使い様って居なかったけど、魔法って本当に凄いんですね。


 3ヶ月後、また教会でお会いする事をお約束し、息子さんと帰宅しました。私は3ヶ月間、パン屋さんのお手伝いをしながら、居候させて貰える事になりました。


 毎日が楽しく過ぎて行きます。正直何だかこのまま帰りたくなくなって来ています。彼方に戻れてもお父さんはもう居ない。私は独りぼっちです。此方にはお母さんも居る。でもお母さんは本当は自分のお母さんでは無い。それもわかっては居るのです。そしてもしかしたら此方でも強盗に襲われるのかも知れない。お母さんと息子さんは大丈夫なのだろうか。考えれは考える程わからなくなります。でも歪みが生じると此方の世界が困る。お母さんと息子さんにも迷惑がかかってしまう。八方塞がりです。


 そしてとうとう元の世界に戻る日が来ました。明日の朝教会に行きます。今日は最後の夜です。私は歪みを作りたく無いから帰る事。でも本当は帰りたくないと言う気持ちを伝えました。また強盗には気をつけて欲しいとの事も伝えました。


 すると何時も温厚だった息子さんが怖い顔で言いました。此方と貴方の世界は確かに似ている。貴方と私は同じ存在かもしれないけど、住む世界が違うから全くの同一では無い。此方の世界には貴方は居ない。貴方の本当のご両親も居ない。お母さんが亡くなって、男手1つで貴方を育ててくれたお父さんも彼方の世界で眠って居る。最後まで貴方を心配して死んでいったお父様に、無事なお顔を見せなくて良いのですか?墓前にお花をお供え出来ず、供養も出来なくて良いのですか?私がもしこの先強盗にあい、同様な状態になっても、必ず帰る方法を探します。貴方は探さなくても帰る事が出来るんですよ。私が仮に貴方の世界にトリップしたら、帰る方法が有るのかわかりませんよね。


 そうですよね。言われて初めて気づきました。私は優しい世界に逃げていた。自分にはまだすべき事がある。気付かせてくれて有り難うございます。怒ってくれて有り難うございます。3ヶ月間本当に有り難うございました。お2人には感謝しきれません。


 束の間の優しい世界に心から感謝します。もしこの世界に来れず、彼方の世界で私1人になっていたら、毎日が苦しくて心が壊れていたかも知れません。


 私は自分の居るべき場所に戻りました。


 帰ってからは毎日がてんてこ舞いでした。突然戻って来た私に町の人々もびっくり。本当の事は言えない為、私は記憶を無くしていたが、思い出して帰宅した事にしました。


 パン屋さんのお家はそのまま残って居ました。お父さんは、町の教会で弔いをしてくれたそうです。私は先ずお父さんのお墓に報告に行きました。このお墓には、先にお母さんも入って居ます。今頃はきっと仲良くお話しているのでしょう。花束を供え、向こうの世界で出会った方々の事を報告。私はこれからお墓を守りながら、パン屋さんを再開し頑張って行きたい事。話はとめどなく涙と共に溢れました。パン屋さん、再開出来たら直ぐにお供えに来ますね。また会いに来ます。


 教会の裏手に有る墓地から出口に向かって歩き出します。すると見覚えの有る方とすれ違いました。あの方は彼方の世界での魔法使い様ですね。魔法使い様はキチンと男性ですね(笑)この世界には魔法は無いけど、何をしてる人なのかな?お墓参りに来ている様です。何だかとても気になります。


 この後私はパン屋さんを再開し、毎日忙しく過ごして居ます。再開最初に焼き上げたパンは、勿論父母に供えに行きました。その際、かの魔法使い様に再開し、勇気を出して少し強引に職業を聞き出しちゃいました。薬草専門の調合師さんで、作成した薬を教会に届けて居るそうです。魔法使い様も子供の頃にご両親を無くされて居るそうで、時間を見つけてはお墓参りに来ているそうです。1人だとつい面倒でご飯作らない事が多いと聞きました。焼き立てパンをプレゼントしたら喜んでくれました。その笑顔が眩しくて、もう毎日でもお届けしたくなっちゃう。コロッケパンとか野菜サンドとかだと栄養バランスも良さそう。そう言えばお名前聞くの忘れてた!心の中でしか呼んでないけど、魔法使い様では可笑しいよね。次回聞いて見よう。


 私は、何だかんだと毎日充実した多忙な日々を楽しんで居ます。もう2度と会えないお2人&魔法使い様に忘れえぬ感謝を。


 パン屋の娘さんの猛烈なラブラブアタックに落ちた、魔法使い様改め調合師さま。2人が結婚し、薬草を練り込んだパンを開発したりと、2人でパン屋さんを続けるのはもう少し先の未来のお話になります。

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