*虹色の指ぬき姫~お針子さん~*
とあるお城の城下町に、王室御用達の商店にも卸しをしている、とても立派な仕立て屋さんが有りました。裏通りに面しているガラス張りの店内には、色とりどりのドレスが飾られています。そんな華やかなお店の奥では、沢山のお針子さん達が働いて居ます。
私は小さい頃に両親を亡くし、以降住み込みで働かせて戴いて居ます。多少の時間はかかるけれども、とても丁寧な仕事をすると言われて居ます。中堅的なお仕事を任されていました。
ある日お城のお姫さまのドレスのお仕立てを頼まれました。勿論沢山のお針子さんの中の1人では有りましたが、心を込めて皆と一緒に仕上げました。しかし、私が縫製した部分の仕上がりがいびつだと叱られてしまったのです。手直しして何とか納品には間に合わせたそうですが、私は責任を取らされて解雇されてしまいました。
街灯の灯りも消えたお店の前は、裏通りなので既に薄暗くなっています。行く宛もなく途方にくれて居ました。その時、何時もお仕立てを注文してくれるお客さまに出会ったのです。お客さまは私の話を聞いてびっくり。いびつだったなんて信じられない!と言ってくださり、お店の人に掛け合って下さりました。
すると下っ端からですが、また仕事をさせて貰える事になったのです。1からだから大変かも知れないけど頑張ってね。気持ちばかりだけどどうぞ。お客さまは私の手のひらに、小さな小箱をそっと乗せてくれました。小箱の中には色とりどりの7色の指ぬきと、金色と銀色の可愛い糸切りバサミが入っていました。
私はまた1から頑張りました。出戻りに多少の嫌がらせ等も有りました。でも貰った色違いの指ぬきを毎日代わる代わる指に嵌めてチクチク。指ぬきが大分色褪せて来た頃には、1人でお姫さまのドレスを任せて貰える様になって居ました。私は解雇前の自分を超える事が出来ました。7色の指ぬきが心の支えでした。
ある日、仕立て屋さんの旦那様に呼び出されました。お姫さまの婚約披露パーティーのドレスのお仕立ての依頼でした。私が暫し考えて居たら、旦那さまが言いました。実は以前の失敗は、他のお針子さんが仕上げた部分だったという事。そのお針子さんは、縫製の事を聞かれ焦りつい嘘を言ってしまったとの事。何時も作業スピードが遅い私なら責任を押し付けてもわからないのでは無いかと…。
旦那さまは今回のドレスの仕事を、最初その方に持って行ったそうです。しかし自分にはつとまらないと言われ真相を告白されたそうです。その節は本当に申し訳無い事をしたと謝って下さいました。名誉挽回の為にも、是非今回の仕事を引き受けて貰いたいとお願いされました。私は喜んで引き受けました。
お姫さまのドレスは本当に豪華で繊細でした。私は7色の指ぬきと金銀の糸切りバサミで丁寧に縫製しました。繊細なレースや刺繍には、小さな糸切りバサミが大活躍。指ぬきもこれが最後の仕事とばかりに、ボロボロになるまで頑張ってくれました。出来上がりを見た時、何故か涙が溢れてしまいました。このドレスを来てお姫さまが幸せになって下さる事を願いながら、旦那さまと一緒に王室御用達の洋品店に納品に行きました。
応接室で緊張しながら、洋品店のオーナーを待っています。既にドレスは到着時にお渡し済なのですが、私達にまだお話が有るとの事です。ノックの音と共に、オーナーさんがやって来ました。私はびっくり。オーナーさんは、以前自分を助けてくれ7色の指ぬきをプレゼントしてくれた方だったのです。
オーナーさんからのお話は、ドレスの仕上がりは大満足との事。少しでも早くドレスを見たいとのお姫さまの要望で、既に使いの者が王室に届け済。お姫さまも大変喜んで居るとの事。また是非お願いしたいとの事でした。私も喜んで戴けて本当に嬉しいです。
お話も終わり、仕立て屋さんの旦那さまと退出しようとしました。すると旦那さまは私を止めました。旦那様は一足先に戻られるそうです。後程迎えに来て下さるので、オーナーさんともう少しお話をしていて欲しいと言われました。私も仕事のお話だけでなく、以前のお礼もしたかったので勿論喜んでお受けしました。
新しい紅茶を入れて下さり2人で飲みながらのお話タイムです。オーナーさんは、今まで頑張りましたね。名誉回復おめでとうございます。と、自分の事の様に喜んでくれました。そんな笑顔を見て私も心の中が暖かくなりました。
私も助けて戴き、プレゼントが心の支えでした。こんなにボロボロになってしまいましたが、今でも大切に使って居ます。と、オーナーさんに7色の指ぬきの小箱を差し出しました。オーナーさんは指ぬきを1つづつ取り出し眺めて居ます。
そして立ちあがり、私の手を取りました。そっと小箱を私の手に戻してくれました。更にご自分のポケットから虹色のりぼんのかかった小箱を出し、此方もどうぞと手にのせて下さいました。有り難うございます。私はお礼を告げながら、小箱のりぼんをほどきます。すると中には新しい7色の指ぬきに金銀の糸切りバサミが入っていました。驚いて居るとオーナーさんが言いました。またこれで素敵なドレスを作って下さいねと…。
もし宜しければ、私の為に貴女のその指に7色のリングを嵌めて戴けませんか?勿論7色の指ぬきも素敵ですけど、貴女には是非虹色の指輪を貰って戴きたいのです。突然のお話で驚かして申し訳有りません。以前お会いしてから、私は貴女の頑張る姿に心ひかれて行きました。貴女の指は、7色の虹を生み出す様に素敵なドレスを作り上げます。貴女は私の心に虹をかけて下さいました。私も貴女の心の虹になれませんか?是非私の心のお姫さまになって戴きたいのです。
オーナーさんの素敵な気持ちが心に染み込んで行きます。今までこんなに嬉しい事が有ったでしょうか?まだ父母が生きていた頃の姿が涙と一緒に浮かんで来ました。
本当に私で宜しいのでしょうか?私には何も有りません。貴方の重荷になりませんか?
私には貴女しか見えません。貴方が良いのです。貴女は何も持って居ない訳では有りません。素敵な心をお持ちです。それ以上の物は、これから私と一緒に作って行けませんか?いえ一緒に作っていきたいのです。
とめどなく涙が溢れてきます。私で宜しければ喜んでお受け致します。2人で素敵な虹を掛けたいですね。これから宜しくお願い致します。
数ヵ月後に2人は結婚しました。花嫁はお手製の7色のドレスをまとい、2人は虹色の指輪を交換しました。
幸せにします。私の虹色のお姫さま。
幸せになりましょう。7色の王子さま。
7色の指ぬきは、7色の虹になり、2人に幸せを運んで来てくれたのです。