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闘技試験 後編

戦闘描写の難しさに頭を捻りつつせめてストーリーだけでも遅々たる進みながら、面白いものになっているといいなと思うこの頃。

「Aブロック本戦準決勝、第2戦目ライゼとクロエの両者、前へ!!」


 審判の掛け声と共に今の今まで仁王立ちの不動を保って虚空を見つめていたライが、ふぅと一息付いてクレイの方に向き直る。


「んじゃちょっくら行ってくるわ!」


 ライは今の今まで険しい表情をしていたにも関わらず、クレイにひと声かけると散歩に行くようなゆっくりとした足取りで闘技場の中央へ向かって歩いていく。


「ライ……あの調子で大丈夫なんだろうか」


 審判にクロエと呼ばれた謎の女剣士はとっくに準備ができており、ライ急ぐよう注意している審判の隣で相変わらず急ぐ様子を見せないライの方をフード越しに観察しているようだった。


 そんなライの気が今までにないぐらい高く練り上げられているのは、気を扱えないクレイにでも放たれる威圧感プレッシャーからよく分かる。ここまで本気で気を練りこんでいるライは長い付き合いのクレイにしてみても初めて見るかも知れない。


 だが、クロエと言う女剣士からは威圧感といったものは感じないが立ち振る舞いや歩く姿を見れば、少なくとも一流と言われる剣士達と同じ無駄な動作のない流麗な動きである事が分かる。実力のほどまでは詳しく読み取れないが油断できない相手だというのはライとクレイ、両方が直感していた。


 クレイがそんなことを考えているうちに、ライは中央に到着し審判の注意を軽く聞き流しながら女剣士と対面していた。






 

「分かった分かった、次はちゃんと急ぐから!そろそろこの辺で終わりにして闘技を開始しません?向こうも待ちくたびれてるみたいだし!」


 ライは反省の態度もそこそこに審判に戦闘開始の合図を促す。


「本当に分かってるんだろうな……だがまぁ確かにこれ以上時間を無駄にするのも惜しい。では両者準備はいいな?」


 審判も反省する様子のないライに注意を繰り返すのは無駄だと切り捨て、自分の言葉に対しライとクロエの二人が頷いて肯定を示すのを確認すると大声で合図を叫ぶ。


「それでは、互いに構え! ……開始!!」


 ライは合図と共に姿勢を低くし、先制攻撃を与えるべくクロエへと気を充実させた体で走り込む。クレイに比べると速度は劣るがライにはクレイにはないパワーがある。


 逞しい肉体とそれを強化する気を使って鋼鉄をも打ち砕く拳を、ライが間合いに入っても未だ動こうとしないクロエが片手で持つ得物シミターを破壊すべく剣腹に放つ。


 だが、そんなライの狙いはクロエが突如、迫り来る拳に反応し半歩身を捌き、バックステップで距離を取ることで不発に終わる。


「へえ~……あのタイミングであそこまで迫った拳に反応するとは……やるねえ」


 ライとしてはすでに必中の距離に居たにも関わらずクロエが自分の拳を避けたことを賞賛したのだが、クロエは心底残念といった様子で答える。


「貴方は真面目に戦う気があるんですか?それなり期待していたのに、いきなり私の弱体化を狙って武器を壊しに来るなんて……あっちの聖剣と同レベルの実力という噂でしたし期待はしていたんですが色々と裏切られた気分です」


 どうやらクロエはライが真っ先に武器を破壊しに来たことで、ライに対する評価を数段落としたようである。


「それは落胆させたようで悪かったな、俺としてもこの勝負にはどうしても勝ちたいもんだからついやっちまった」


 ライは周囲に対してなるべく普段通りを装っているつもりではあるが、内心の動揺が外に漏れていないかと冷や冷やしながら考える。


(クロエとか言う女……なんであのギリギリのタイミングで避けることができた?反射神経が凄いとか言うレベルじゃねーぞ。クレイみたいな魔法でのアシストがあれば避けることもできるだろうがこいつが魔法を使った気配は無かったし、ローブ越しでもこいつが気を使えるほど体を鍛えこんでるとは思えねぇ)


 通常、魔法という物は大気中に充満している魔素を、魔法を行使する人間が触媒となり、エネルギーに変換して魔法として撃ち出す、もしくはクレイのようにエネルギーを体の外側に纏わせて肉体能力をアシストするものだが、どちらも触媒となった人間の精神力を消耗し、使用する魔法の固有名の発言と魔法の規模にもよるが魔素をエネルギーに変換するチャージタイムが必要になる。


 対して気は、大気中の魔素をエネルギーに変換するところまでは魔法と同じだが、そのまま体の内側にエネルギーを閉じ込めることによって魔法による外付けのアシストではなく、肉体自身を一時的に強化するという技法である。こちらも気を練るための準備期間はある程度必要だが慣れてくれば魔法に比べて格段に速い時間で爆発的な能力の向上が見込めると共に一度練ってしまえばしばらくの間は精神力を必要とせず消耗の少ない状態で闘い続けることができる。ただし、覚えてコツ掴めば初歩的なものは使えるようになる魔法と違い、こちらは自身の肉体を気の使用に耐えられるレベルになるまで鍛える必要がある。もし体を鍛えていない一般人が気を練って使おうとすれば、肉体がエネルギー使用に耐えられず筋繊維がちぎれ、神経回路が摩耗し自滅の一途を辿る事になる諸刃の剣である。


 そしてその片方、もしくは両方を使いこなしているからこそクレイとライは傭兵会でも聖剣と剛拳という二つ名で呼ばれるほどの実力者に至ったのだ。


(だがこの女からは魔法と気、そのどちらも使っている気配は無い……ならなんでさっきの俺の一撃に反応できた……?)


 いくら頭をひねってもクロエが必中の一撃に対処できた理由は浮かんでこず、このまま考え込んでいてもらちが明かないとライ軽く頭を振って注意深くこちらを観察しているクロエに視線を送る。


「考え事は終わりましたか?なにやらいろいろと考え込んでいるようでしたが私はあなたと違って正々堂々の勝負を好みます、観客も焦れて来ているようですしそろそろ勝負を再開しましょう」


 ライの黙考している時間が長かったためか周囲の観客席から少しづつ「早く闘えー!!」等のヤジが飛び始めているのを確認したクロエは静かに最初と同じように片手でシミターを構えライに戦闘の再開を持ち掛ける。


「そうだな……考え込んでたって何かが変わるわけでもないしな、ただ次は本気で闘うから覚悟しろよ?」


 涼しげにこちらの攻撃を待つクロエに対しライは不敵に告げると、切り札の一つである魔法を発動する。


「アシストエクステンス!!」


 ライが数年に渡って実験を繰り返して編み出したオリジナルの補助魔法「アシストエクステンス」はクレイの使う補助魔法に比べて効果は劣るが精神力の消費が少なくチャージ時間を必要としないメリットがあり、効果が低いためクレイが同じ魔法を使おうとすると大した能力の向上もなく意味のない魔法になるが、気によって肉体の能力自体を向上しているライが使うと単体の効果は低くとも相乗効果でかなりの能力アップが見込める。これがライが剛拳と呼ばれる理由になるいくつかの切り札のうちの一つである。


 魔法によってさらにスピードを上げたライは一足飛びに数メートルの距離を詰め、再び肉薄したクロエのシミターを持っていない左脇腹に狙いを定め拳をねじるように振るう。


 しかしまたしても先ほど以上の反応速度で身をさばきライの拳に虚空を切らせると、流れるようにシミターを滑らせ胴体を切断するべくクロエの斬撃が迫る。シミターは吸い込まれるようにライの体を切り裂いた――かのように思われたが、素早く拳を引き戻したライのガントレットでしっかりと受け止められている。


 その後も両者互いに技量は互角のようで一進一退の攻防が続き、ライの拳がクロエを掠めるかと思えば、その一瞬後にはクロエのシミターがライを捉えるべくあらゆる角度から襲い掛かる。しかしそのどれもが有効打には至らずガントレットやライの拳によってはじき返されて終わる。


 だがここにきてクロエは一気に後方へ飛び、ライとの距離を取るとシミターを雑に地面へと投げ捨てる。


 その行動の意味が分からずライも一時攻撃を中断しクロエと距離を置いて対峙する。


「私、疲れてしまいました。先ほどの言葉は撤回します、確かにあなたも二つ名で呼ばれるに相応たる実力を兼ね備えているようですね」


 クロエは立ち姿こそ相変わらず流麗なままだが、実に気だるげな声でライの評価を改める意を示す。


「そりゃあ良かった、そっちもまさかここまで粘ってくるとは思わなかったな。いい勝負だったよ」


 ライはクロエの言葉を降参の前振りだと判断し、自分と互角の闘いを繰り広げた相手を称賛する。


 だが、その言葉を皮切りにクロエの纏う雰囲気が一変する。


「えぇいい勝負でしたね、ですからもう手加減は辞めにします。本当は聖剣まで取って置こうと思っていたんですが貴方は私が本気を出すのに値する強者のようなので失礼にならないよう全力で闘わせてもらいます」


 突如クロエは今まで闘う間も頑として脱がなかったローブに手をかけシミターと同じように脱ぎ捨てる。


「なるほど、それが最初の一撃を避けられた理由ってことか……そもそも生まれついての能力に差があったわけかこりゃ」


 ライは得心が言ったように頷き呟く。


 そこにあったのは狼の耳に狼の尻尾を持つ銀髪で真っ白な肌の少女だった。


 ワーウルフ。かつて魔族が世界に現れる前北の大陸にて人間と共存していた亜人種のうちの一種族、肉体的に人間に勝る亜人種の中でも総合的な能力に長け、こと戦闘においてはとりわけ高い能力を有していた種族。


 目の前に居るのはそんなワーウルフの特徴的な耳と尻尾をもった少女、亜人であるクロエであれば確かに気も魔素も使わなくても生まれついての能力だけで互角に戦うことができたというのも納得できるという物だ。


「本当はあまりこの姿は人には見せたくは無いのですが……本気を出すと言った以上仕方ありませんね……ッ!!」


 言葉の最後で短く呻いたかと思うと、身じろぎと共にクロエのしなやかな少女の体に異変が起こり四肢の膝や肘の関節から先が全て狼のそれに代わり、再び顔を合わせたときには可愛らしかった顔も眼光が鋭くなりどことなく野生の狼を彷彿とさせた。


「獣化かっ!」


 ライがそう叫ぶと同時に、身を低く伏せて四足の獣の構えを取っていたクロエが驚異的な速度で襲い来る。


 急いで後方へステップしながら迎撃を試みるも、先ほどまでの倍はあるかという速度で襲い来るクロエに首を鷲掴みにされ、そのまま地面に叩きつけられ意識が朦朧とする。


 クロエの手に首を絞められ少しずつ意識が薄れていく中必死で抵抗を試みるも全力で首をつかんでいるクロエの手は渾身の力で振りほどこうとしてもビクともする気配がない。


 結局、完全に優位な状況を取られた以上抵抗もむなしくライは意識を手放した。




本来ならこの話にクレイの戦闘パートも収める予定だったのですが、文字数が多くなってしまったのと、日常の忙しさと戦闘シーンの見直しでどんどん更新頻度が遅くなりそうなため次話持ち越しとなったかわいそうなクレイ君をお楽しみに。

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