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闘技試験 前編

今回はクレイとライが北の大陸奪還作戦の隊長になるため闘技試験に参加する話の前編となります。


短いですがお楽しみください

まだ完全に日も登り切らない早朝、薄明るい朝の冷たい空気を切り裂くようにヒュンッっと言う音がマードレ亭の裏手に響く。


 今日は世界の半分が魔の手に落ちてからちょうど20年目の早朝。今日開催される武闘大会形式の試験により20年越しの奪還作戦の隊長クラスが任命される。


 もちろんその試験にはクレイとライも参加する。その為にまだ日も登りきってもない早朝からクレイは修練を行っている。所詮今この場でできることなど付け焼刃にすぎなくとも、だ。


 この大会はトーナメント形式になっていて、割り振られたブロックごとに優勝者を決める。一ブロック8人形式の4ブロックで予選を勝ちぬいた総計32人が参加し、トーナントを行う。そして優勝4人準優勝の4人はそれぞれ部隊の隊長と副隊長に任命され、それ以下24名は補佐として各ブロック隊長の部隊に割り振られる。


 クレイとライは同時に参加希望を出したせいか、予選、本戦ともに同一ブロック内に収まりどちらも負けずに勝ちぬいたときは決勝で当たることになる。もちろんその時はクレイもライも全力で勝利を狙いに行くが、勝ちぬきさえすれば必ずどちらかが同じ部隊の隊長もしくは副隊長になるだろう。


「朝早くから、ご苦労なこった」


 クレイが緊張を振り払うように鍛錬をしている最中に横合いから声を掛ける者が居た、もちろんライである。


「いくら緊張してるからってこんな朝っぱらから鍛錬しなくてもいいだろうに……大会は昼過ぎから始まるんだぞ?」


 ライは元々がさつで悩みや緊張などというものとは無縁なのか今の今まで寝ていましたというように寝ぐせのついた頭をボリボリと書きながら宿の裏手の壁に背を預ける。


「そうだな……自信がないわけじゃないけどやっぱり重要な大会、腕の立つ相手だって何人もいるだろうからね。緊張をするなと言われても無理だと思う」


 最近は傭兵会でも【聖剣】という二つ名で呼ばれるほどに実力をつけてきているクレイではあるが、二つ名の所以は自らの持つ魔剣によるところも大きく当人にしてみれば二つ名などはた迷惑な誇張のようなものである。


 実際はクレイ自身の実力も扱いの難しい魔剣をたやすく使いこなすほどに技術が上昇してきてはいるが、まだまだ聖剣の二つ名にふさわしい実力は身に着けていないと当の本人は思っている。

 

「ま、人間そんな簡単に自信家になれと言ってなれるものではないしな、結果さえ残せれば十分だ」


 そんな心中を察してかライも僅かに肩を竦めたのちクレイ同様に修練に参加する。


「どのみち俺たち二人で決勝は闘うことになるだろう、その時は遠慮せずに叩き潰しに行くからな?クレイ」


 お互い実力を認め合っている親友、たとえ実戦の闘いではなくトーナメント形式の試合だとしてもお互いが本気で勝利を狙って戦うのは初めてだろう。


 自分と同等であろう相手、それも親友との闘いを前にライは僅かに気分が高揚しているのを隠すことはできなかった。


 だがしかしそれはクレイとしても同じ意見のようで隣に並んで互いに自分の鍛錬に励みながらも剣を握る手は力強くなり口角が上がるのがしっかりライには見えていた。








「よし、じゃあ鍛錬はこのぐらいにして朝食でも取りに行こうか、そろそろミリッシュさんの料理も出来上がってる頃だろうし」


「そうだな、しっかり運動した後はしっかり食って昼までに使った分の体力を補給しとかないとな!」


 大分日も登り、そろそろ宿屋のある中央通りもにわかに活気づいてきたころにようやくクレイは鍛錬の切り上げを提案しライもそれに賛成する。


 このぐらいの時間になると宿屋で寝泊まりしている他の傭兵や客たちも空腹からか目を覚まし、宿屋の食堂が飢えた獣達の集まる戦場となる。


 長年宿屋で働いてる経験かもしくは個人のセンスなのかもしれないがマードレ亭のミリッシュの料理と言えば中央通りではちょっとした評判で、いわく普通の料理のはずなのにミリッシュの飯は不思議と力が湧いてくるだの、実は先代から受け継がれている秘伝のレシピがあるんじゃないかだのいろいろと噂の絶えない中央通りの名物なのである。


 そのためか宿屋に宿泊してない客も料理のためだけに朝から解放されている酒場へ入り、料理を堪能してから仕事へ向かう、などといったことも珍しくはない。だから特に朝のマードレ亭の厨房ではミリッシュは大忙しで大鍋や包丁を振るい続ける。そのさまはまるで戦士のようだと讃える客も居るほどだ。


 ちなみに以前ライが料理の秘密をミリッシュに直接聞いた時は「愛だよ愛!愛が最高の味なのさ」と、なるほどというか、それでいいのかという答えしか返ってこなかった。


 そんな大忙しのミリッシュから今日の朝食を受け取った二人は適当に空いてる席に座り名物料理に舌鼓をうつ。


「それで、今日の試合には私は使う予定なんだよな?」


 空っぽの胃を栄養で満たすために黙々と食事をしていた二人の隣に座ったグリムがクレイに向かって不満たらたらといった声音で声を掛ける。


「そう……だねっ、他の、試合はどうか……わからないけどっ!ライとの闘いでは、君が居ないとだいぶ勝ち目が薄くなるからね」


 口に詰め込んでいたパンを咀嚼しながらクレイはグリムへ返事をする。


 昨日もそうだったがグリムが不満を募らせてイライラしているのも当然と言えば当然と言える。


 グリムはクレイの魔剣に宿った剣霊であり、戦闘時以外は基本人の形を取っているとはいえ本来は剣なのである。クレイは最近自身の技術の向上のためほとんどの依頼に対して魔剣であるグリムの代わりに普通のそこらへんにある直剣を使っていた。それは自身の実力を高めるため剣士としては別に可笑しくない行為かもしれないがグリムにしてみればたまったものではない。


 自分の存在意義を店売りの直剣に奪われうっぷんを晴らそうにも自分で自分自身を使うことはできない、そのためストレス解消のためにできることといえばクレイに八つ当たりをするか暇つぶしに散歩をする程度なのである。


「そうか、ライ相手なら久々に私も力を発揮して闘えそうだな。今から楽しみだ」


 ライは剣士ではないが自らの体を武器に戦う拳闘士モンクであり、自身の気を使い肉体を強化するだけじゃなく魔法をも使いさらに肉体を強化する魔拳士スペルモンクである。魔剣を持つクレイとも互角で戦う実力はある。


「おう!楽しみにしとけよグリム!お前ら【聖剣】ほど有名じゃねえが【剛拳】と言われる俺が相手になってやるよ」


 ライもまたクレイ同様朝食を口に詰め込みながらも不敵な笑みをグリムヘと向ける。


「まぁとにかくこれを食べ終わったら3人で大会がある闘技場へ向かおうか」 


 食事の最中に睨み合って火花を散らせようとしている二人に提案しながらクレイは思う。


(たしかに一番いいのは僕らで決勝を闘うことだけど、予選で観戦できなかった本戦出場者の中にグラネルの外から来た謎の剣士も居たって話だし用心はしておかないとなぁ……)


 頭に浮かんだ考えが杞憂であればいいなと思いながら、クレイは残っていたスープを一気に飲み干そうと皿を持ち上げた。















「ヨーランド王国及び北方大陸奪還作戦、選抜闘技をこれより開始する!両者中央へ!」


 グラネル傭兵会の職員制服を着た審判の男性がグラネルの中央通りを進んだ先、主に傭兵同士の私闘や、傭兵会にて行われるランク昇進試験等で使われる広大な円形闘技場の中心に立ちこれから始まるAブロック第一戦の両者、クレイと相手方のルーフェンという男を出場者が並んでいる闘技場の両端から呼び寄せる。


「此度の闘技はグラネル傭兵会主導の元、公平無私に行うものとする!闘技場全体に魔法によるダメージ軽減措置を行っているため致命的な事態に陥ることは無い。お互いの全力をもって相手をねじ伏せると良い!」


 クレイは傭兵会お決まりの闘技口上を聞き流し、いきなりの初戦を闘う羽目になったことを呪いながら相手のルーフェンという男に声を掛ける。


「いきなりの初戦だけど、お手柔らかにお願いしますよ」


 クレイとしては緊張をほぐすために相手方に挨拶を交わしただけに過ぎないのだがルーフェンは礼儀正しい男だったようで「聖剣にかなうとは思っておりませんが全力で行かせていただきます」と律儀に返事をし、大いに初戦というプレッシャーから解放された気がした。


「それでは、互いに構え! ……開始ィ!!!」


 男の掛け声とともにクレイは静かに立って剣を構えていた状態を解き、驚異的なスピードで相手の間合いへと走りこむ。


「なっ!」


 聖剣は肉体を強化する魔法で能力を向上している、そういう話はルーフェンも聞いていたもののまさかここまでの速度で間合いに入り込まれると思っておらず急いで防御の姿勢を取ろうとするも、すでに上段から振り下ろされつつあるクレイの剣を無様に横っ飛びに避けるので精いっぱいで追撃に気を配る余裕などなかった。


 ルーフェイが急いで立ち上がろうとしたときにはすでに首元に鈍く光る剣が突きつけられており勝負はついたということを容易に認めさせる。


「勝負が付きましたね。降参をお願いします」


 クレイの言葉に対しルーフェンは蚊が泣くような声で「降参します……」と宣言し闘技場の端へと戻っていく。


「Aブロック第一戦!クレイン対ルーフェンによる闘いはルーフェンの降参によりクレイン・ケーニッヒの勝利とする!!」


 審判役の男の声によりしんと静まり返っていた闘技場は歓声に包まれ聖剣の圧倒的な勝利に興奮している。時折「ルーフェンに勝った程度で調子にのんじゃねえぞー!!」等のヤジも飛び交っているがさらに大きな歓声に包まれクレイ本人の耳には届いていなかった。


 そしてその歓声を浴びる当の本人はといえば


(な、なんとか初戦を乗り切ったなぁ……)


 と涼しげに立っている外見とは裏腹に内心全力で安堵して居たりもした。






 その後他のAブロック以外の試合も順調に消化されクレイも相手がよかったためか順調に2回戦を突破し決勝への進出を確実にして、次はライの試合という所でクレイはライの対戦相手に注意をはらっていた。


 一回戦の時は自分の試合が終わった安堵で休憩室でライと一緒に休んでいたため闘う所は見ていないが、おそらくあの相手が噂のグラネルの外から来た謎の剣士だろう。


 全身を黒いローブで包み顔も半分はフードを被っているため分かりにくいが多分女だろう。身長も女性の平均より少し高いという程度で、何よりローブ越しの見た目とはいえだいぶ華奢な体つきのように見えた。次の決勝ではもしライが負けた場合はあの剣士と決勝で戦うことになる。


(話を聞いた感じでは一回戦の試合も圧勝していたようだしかなりの実力者、武器は剣というより東や南東の方で使うものが多いという刀剣……シミターの類か?)


 などと遠目でも分かる程度のことを確認しながら強敵との戦いに向けて体内の気を高めているライに声を掛ける。


「ライ、勝てるか?」


「たぶんな」

 

 体内の気を高めることに集中しているためかライの返事は普段からしてみれば短くそっけない。


 ライもまたクレイと同じく謎の剣士を実力者と見て取り、警戒の意も込めて全力を出せるよう自身の限界まで気を高め続けていた。

 













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