試験前日
どうも!吹雪凛華です!一話だけで短いですが、どうぞお楽しみください!
「クレイ!右斜め上からガゴ!ドカンとデカいの一発頼む!」
「任された!」
右斜め上にガーゴイルの群れ、奴らには普通の魔法は効きにくい。選ぶなら聖か爆……軽く見た感じ少なくとも8体はいるな。ここは一気に蹴散らせる爆発系で行くか!
クレイはそう思考で考えた訳ではなく、経験と直感から一瞬で自分の取る行動を選択し、相手していたオークからバックステップで距離を開けてすぐさま大地を踏み抜き、今にも飛来してライに襲撃しようとしているガーゴイルの群れに己の腕を向けて魔力を開放する。
「エクスフレア!!」
クレイがそう叫ぶと同時にライに迫っていたガーゴイル達の群れの中心に巨大な炎が現れ収縮し、すぐさま反発して周囲へと爆音と爆風を轟かせる。
硬い石像の皮を持つガーゴイルとはいえ至近距離での爆発の衝撃には耐えられなかったようで、8体がまとめて粉々に吹き飛んでしまっていた。
「オガアァァァ!!」
すると同時に自分が無視されたことへの怒りか、怒り狂ったオークが眼前まで迫りすでに錆びてまともに切れてくれるかどうかもわからない長剣を振り下ろす体制に入っている。
「ハードストライク!!」
クレイが先ほどと同じように直感で体を半歩ずらし、突っ込んでくるオークにカウンターで心臓を一突きしようと身構えたところで、先手を取ったライの拳がオークの肉体を背後から突き破りクレイの剣に刺さる寸前で拳を止めた。
「おー、あぶねあぶね、危うく大事な拳を剣で真っ二つに割っちまう所だった。こりゃ別にわざわざ助けに入る必要も無かったかな」
ライが急いで引き戻した拳を平手にほどいてヒラヒラと危機感をアピールしている。
「いや、実際もう少し気付くのが遅かったら俺の頭が割られてたかもしれないしな、助かったよ。ライ」
クレイの真面目な受け答えに対してライは「そりゃどーも助けに入った価値があったもんですね」と適当な答えを返しながらすでに倒した野良の魔物の魔晶石を回収して回っている。
魔晶石__それは北の大陸にデモンズゲートが開門して魔族たちが現れて以来世界に充満した魔素の高濃度な結晶体で魔族や魔物たちのエネルギー源にもなっている。南の大陸をうろつく野良の魔物程度じゃ大きくても拳大が限界だが、北の大陸に住み着いている本場の魔物なら小さいものでも拳大程度はあるといわれている。魔晶石は魔素が世界に表れて魔法という技術ができた今、人々の生活にも戦闘にも欠かせないものだ。だからこうして俺たち傭兵なんかがこまめに野良を狩って魔晶石を集めている、もちろん売れば金にもなるし、生活を脅かす魔物の退治もできるから一石二鳥だ。それに大きな魔晶石を持っていれば魔法を連発しても魔力が枯渇するリスクが小さくなる。
魔族たちが現れて世界は色々変わってしまったが魔晶石はもはや今の世界に必要不可欠なものになってしまっているのも事実だろう。
ライに負けずと魔晶石の回収を行いながらクレイはそんなことを考えていたりしていた。
「よし、あらかた使えるものは取りつくしたし、そろそろグラネルに帰るか!」
周囲に散らばるオークやガーゴイル達の肉体だったものを見渡してライはしゃがんでいて固まった背を伸ばしながら提案した。
「そうだな、いくらグラネルから馬で一時間のそう遠くない場所とはいえ、無駄に長居する意味も特にないしな……それに早く帰らないとまたグリムから叱られるだろうしな」
クレイはライの意見に同意しながら周囲をもう一度渡してみる。
今回は魔物の等級としてはそう高くないCランクのオークが12体とそれに随伴するガーゴイルを全て始末するというまぁ対して難しくもない依頼だが、それでもこのむせ返るような血の匂いが濃い戦闘後はあまり好きじゃない。いくら時間がたてば元は魔素の塊で空気に溶けていく死骸だとしても少し前までは実際に生きていたものなのだ。たとえいくら経験を積もうが鍛錬しようが、これに慣れることは無いんだろう。
そんなことを考えてクレイは重い思考を振るい落とすように首を左右に振る。
「ま、とにかくさっさと馬をつないである街道沿いまで歩いていくとするか!」
ライはクレイの感情を読み取ってか元気よくそう叫んだあとさっさと足早に草原を歩き始める。
「そうだな、楽な仕事とはいえさっさと帰ってミリッシュさんの手料理が食べたいな」
クレイもすぐに気分を切り替え、ライの後を追って草原を歩き始めた。
「よし、じゃあ俺は厩舎に行ってこいつらに水と餌やった後すぐに行くから先に宿の部屋で待ってろよ!」
今の今まで街道を休まず走ってくれていた馬の手綱をもって厩舎に向かいながら叫ぶライをよそにこっちはこっちでさっさと入口の木戸を開けて中へ入っていく。
「遅いぞ!あの程度の依頼に一体いくら時間を使っているんだ君は!」
案の定木戸を開けて入ったすぐそこには自分が宿っている剣を背中に引っ提げて怒り心頭と言ったグリム__クレイの魔剣グリムリーパーに宿る剣霊__が柱にもたれて待ち構えていた。
「そうはいっても、今日はちょっと派手にやっちゃって魔晶石の回収に時間がかかっちゃったんだからしょうがないじゃないか」
ライの叫びにしたがって群がっていたガーゴイルを一気に叩くため少し大きめの爆発系魔法をつかったおかげで、思った以上にガーゴイルがコナゴナに吹き飛び、大量の石像の破片の中から小さな魔晶石を回収するという非常に無駄な作業が必要になったりしていた。
「これだからクレイという奴は……せめて私を連れていけばその程度の雑魚ぐらい手早く片付けていたんだけどね」
「そうはいっても別に君が必要になるような依頼でもなかったし、なによりそれじゃ鍛錬にならないじゃないか!」
確かに魔剣であるグリムを連れていけばこの程度の依頼なら苦労することもなくすぐに終わっただろう。でもだからと言ってそんな楽をしていれば鍛錬として依頼を受ける意味が無きに等しくなってしまう。
「まぁまぁお二人さんっ。俺腹減ってるしさ、飯でも食った後にしようぜ!」
厩舎から戻ってきたライが言い合いになっている二人を見てすかさずフォローという名の夕食の催促に入る。
「そうだな。ここで四の五の言ってもしょうがないし、君達だってお腹は空いているだろうしね。」
ライの言葉で平静を取り戻したグリムがミリッシュの居る食堂のほうへ向かって歩き始める、夕食を取りに行ってくれるようだ。
「とりあえず肩の力抜けって、な? 二人とも明日があの作戦の戦闘試験の日だからってあんまり緊張してピリピリすんなよ。俺たちなら大丈夫さ!」
そうだ、明日は遂に俺たちが長い間待ち続けた作戦の隊長クラスの選抜試験の日。無駄に緊張して体を固くして身構える必要はない。いつもの俺たちで挑めば大丈夫のはずだ。
そう自分に言い聞かせて、今日は明日に向けてグリムの持ってくる食事を食べて、すぐに部屋で休むことにした……