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秋津島軍記 眠りから目覚めし者  作者: リコ・モヘウリ
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第3話 ベルゼン伯軍、到着

兵器工廠の地下倉庫には、これまで生産されていた武器が多数保管されていた。ちなみにこの兵器工廠の最後の記録を確認したところ、俺が眠りについて2年後に電力がダウンしている。

 つまりその頃に何かがあって、休止状態にならざるを得なかったということだ。まぁ、その理由はともかく、倉庫に置いてあった兵器を見てみる。使い物になるかどうかという問題もあるが、一応周囲を見ても綺麗なままだから保管されていた銃などが壊れているとは考えにくい。

 

「こりゃあ、軽い銃だな。形状的には軽機関銃か。これなら子供でも使えそうだ」

 コンピューターに問い合わせたところ、実際にこの兵器工廠が最後に稼働していた頃は子供が戦場に出されるような状態になっていたようで、そのために開発された武器だと言っていた。そうなってしまっては戦争の状況としては最悪だ。それでも戦わなければならないほど、俺達は追い詰められていたんだろう。

「お前達の生きていた時代というのは、そんなに熾烈な戦争が続いていたのか?」

「この時代の戦争がどうなのかは知らないが、子供まで戦争に駆り立てられるような戦争はしていないことを祈るよ」

 マリーナの問いに答えて、俺は手にしていた銃を彼女に渡す。

「部隊は300名だったな?」

「そうだ」

「それなら数としては十分だ。全員に好きな銃を持たせろ。時間がない。使い方を教えるからすぐに集まってくれ」

 一応、この世界にも銃はあるらしい。しかし最大でも5発までしか装填できず、さらに射程距離もそれほど長くない。加えて、マリーナ達を見て分かるように、どうも時代錯誤なところがあって密集携帯での戦闘を好んで行うらしい。


「5発も撃てれば散兵式のほうが効率的に相手を殺せるだろうがよ?」

「散兵式? そんなことをすれば、各個撃破されるだけだと思うが?」

 なるほど。

「じゃあ、いつもはどうやって戦うのか教えてくれ」

 マリーナが戦争で用いられる戦闘方法を俺に教えてくれる。といっても、彼女もまだこの国で起きた小規模な反乱鎮圧にしか参加したことがないらしく、そのときは一兵卒だったという。つまり、戦闘で指揮を執るのは今回が初めてということだ。

 

 秋津島の兵士が用いる戦闘方法。まず集団で2列横隊を形成し、進撃してくる敵兵、および騎兵を射撃する。全弾撃ち尽くした後、銃剣を着剣し、突撃。この場合相手が騎兵隊でも戦法は歩兵を相手にする場合と大きく異なることは無く、なるべく距離を保ちながら射撃を繰り返すだけなのだという。

「本当にそれで敵騎兵隊を防げるとでも思ってるのか?」

「防げる。馬防柵や塹壕を掘る手もある」

「まぁ、確かに間違っちゃいないよな・・・・・・」

 馬防柵を用いれば、ある程度騎兵隊の攻撃を防ぐことは可能だろう。それに塹壕も効果があることは否めない。しかしこれは少数の騎兵隊にとって有効なだけであって、集中して歩兵を運用すればするほど、敵に突破された時のダメージは大きい。騎兵といえば俺達の時代からすれば前時代的な兵種だが、第一次世界大戦では花形。そして戦車が陸戦の主役になりつつあった第二次世界大戦でも、ドイツ機甲部隊にポーランド騎兵隊が大混乱を与えた歴史がある。

 つまり、使いようによってはまだ使える兵種なのである。特にこの世界の事情を見るに、騎兵はまだ花形として機能している可能性がある。


「ただし、お前達の持っている銃は最大5発しか連射できない。しかも弾は1発ずつ込めなくちゃいけないから、装填までに時間がかかるのは分かるな?」

「そうだ。だから私達はいつも相手を攻撃するまでの時間を短縮するための訓練に力を入れている」

 そうだろうよ。そうじゃないと勝てる戦でも勝てないってもんだ。

「でも、この銃はそんな手間もいらない。弾倉を中に装着するだけ。後は引き金を引けばいい」

 俺は弾倉を短機関銃に装着し、引き金を引いて見せる。外で実践して見せたのだが、標的となっていた木には無数の穴があけられ、銃の殺傷力を物語っている。

「これを使ってこちらに向かってくる敵を殲滅する。恐らくはここの領主が兵士を差し向けてくることだろうよ。だから、俺達はまずそいつらを迎え撃つことにする。幸い武器はたんまりあるから、迎え撃つ分には問題ない。問題は兵力だ」

 作戦は立ててある。

 この武器を使用するなら、横隊など作る必要もない。10人1組、30個の部隊に分ける。これらを更に3個に分ける。複雑な地形を利用して、敵部隊をおびき出して集中砲火を浴びせるのが最も効率的だ。しかし、部隊長はマリーナ。彼女が俺の作戦を受け入れてくれるかどうかは全く不明だ。


 案の定、彼女は俺が立案した作戦に関して渋り顔だった。見た目は聡明そうだが、かなり堅物なのかもしれない。こう見えても、3D戦略シミュレーションではかなりの好成績を収めていた。俺は学校の勉強こそからっきしだったが、そこら辺の能力は特化していたと思う。それなりに自信はあるんだがな―――。

「どこが問題だ?」

「本当にそんな少人数で敵を撃破できるのか? 兵力は集中運用が基本だぞ?」

 基本はそれで問題ない。ただし、射程が長く、また1人で多数を殺傷できる能力を持った武器を持っている以上は密集形態で戦う必要は殆どない。確かに互いをカバーしあうだけの距離を保つことは重要だが―――。

「ある程度距離を保ちつつ、集団で移動する。それに今回は待ち伏せによる殲滅戦を提案したいんだ。こちらは聞いた話から想像するに、圧倒的に兵力が少ないんだろう?」

「察しの通りだ。ベルゼン伯爵ともなれば、手持ちの兵力は少なくても1000騎は超えるだろう。それに加えて懇意にしている傭兵隊が加われば3000ほどの兵力になる可能性は大きい。じっくり準備をして攻撃された場合、私達には手の打ちようがない」

「成程な。その伯爵様、どんな性格だ?」

 どうしてそんなことを聞くのかと訝しげな顔をしたマリーナだったが、彼女は問いに答える。


「武人としてかなり優秀だ。先の反乱では先陣を切って敵陣に斬りこんで、陛下からの信任も厚かった」

「なるほど。怒りっぽいか?」

「そういったトラブルの類は、確かに多かった。しかしそういったトラブルを起こすたびに高彦殿が庇っていたな」

「意外に挑発には乗りやすいかもしれないな。ちなみに領地運営に関してはどうなんだ? 領民の生活や不満なんかは? 武人で短気とくれば、領地運営は他の臣下がやっていたんじゃないか? もしかしたら、領民はベルゼン伯爵を嫌っていたりしてな」

 俺の予測に少し驚いた顔をしたのが里見だ。マリーナも驚いていたが、俺の言わんとしていることを測りかねているらしく、不審げな顔をしていた。

「確かに、ベルゼン伯は全ての領地運営、特に内政に関しては文官達にまかせっきりだ。陛下も本来なら領地運営の資格なしとしてベルゼン伯を追放したいところなのだが、武功をたて続けている彼を、そう簡単に追い落とすことはできない。下手したら反乱だからね」

「そうでなくても反乱起こされちまったけどな。ま、となりゃあ領民も不満を持った奴が多いだろう」

「そうだね。ベルゼン伯が子飼いにしている警備隊の中には優秀だけど血の気が多い奴も多い。だから何かの罰則を科したときに、それが厳罰になる傾向にあってね。それにベルゼン伯の女好きも有名さ。御手付きになった女中たちは数知れずってね。しかも御手付きになった後に屋敷から追い出されてしまうもんだから、多くの領民が彼に恨みを持っているよ」

 

こりゃあ、少々使えそうな手が増えて来たな―――。

 300名だけで足りないなら、領民をこっちの味方につけることも考えなくちゃな。別に戦闘に参加してくれとは言わないけど、こっちの姿を隠してくれたり相手に対して欺瞞工作をしてくれるだけでも、戦術的にかなり楽な戦いになる。

「何かおかしいか?」

 いかんいかん、知らないうちに顔がほくそ笑んでいたらしい。マリーナはますます俺の意図が分からなくなったらしく、かなり不機嫌な御様子だ。

「いやいや、いいことを聞いた。しかしそのベルゼン伯って奴、恐らく今ある手勢を率いてこちらに向かってくるだろうよ。いや、もう向かってるだろうな。数は恐らく最低見積もりの1000騎と見ていいだろう。その言い方だと騎兵が中心だな?」

「そうだ、だが、なぜそんなことがわかる?」

「短気で武勇に優れた奴ほど、己の力に溺れるものだ。それにこちらに向かっている陛下を護衛するのは、まだ経験の若い指揮官が率いる300名足らずの兵士達。現皇帝は反乱の知らせを聞いて、今頃身を隠すのに必死だろう。その捜索に少しの手勢を裂いたとしても、必ず俺達を真っ先に狙ってくる。俺達の居場所は、既に分かっているからな。そして、任務の重要性から見て、お前達はここを放棄できない」

「それにここには、多くの古代遺物があるのが分かっちゃったからねぇ」

 里見は軽い口調で言うが、マリーナはここで至って初めて事の重大性と、俺の意見の正当性に気が付いたらしい。まぁ、経験の浅さでいったら俺も人のことは言えないんだが、事に当たるなら最悪の事態も想定してプランを立てておかなくちゃならん。


 それに敵が真っ先にこちらを狙ってくる。これは事実だ。

 敵は武勇に優れている。そして短気だ。これは裏を返せば、武勇を語られる人間は他人から見てもその実力を認められているものに限られる。時折嘘が交じっている者もいるが、マリーナの話を聞く限りではベルゼン伯の力は本物だ。

 加えて短期もポジティブに考えれば判断が早いということである。チャンスに恵まれている限りは、決断が早いものこそ、それを手に入れることが容易くなる。ただし、恵まれていればの話である。

「陛下をお助けに向かわねばならないが、ここも死守せねばならない」

「敵の手に渡れば大事になるだろうからな」

 ま、奴らが黒獅子を発見したところで、あれを使いこなせるとは到底思えないがね―――。

「何てじれったい状況だろう・・・・・・。どうすればいいんだ」

 これはマリーナが自問しているだけで、誰かに助言を求めているわけではない。しかしこの迷っている時間こそが、戦場では命取りになる。優柔不断は最大の敵なのだ。

「まずは防御を固めることだ。この周辺の地形を確認する。そしてちょっと反則になっちまうかもしれないが、兵器工廠の防御兵器も最大限にしようすることにしようぜ。見たところ、相当大規模な発掘を行ってきたみたいじゃないか。周りが禿山同然だ」

 開いた口が塞がらないほど、周辺は大規模に発掘されていた。里見の話だと、昨年から巨大な兵器工廠が幾つも見つかっており、今回発見されたのはその中でも最大規模。前回行った調査から判断するに、まだ大きな施設が周辺にも眠っているのではないかと思って、かなり広い範囲を掘削したらしい。

「これだけ掘削できるってことは、ダイナマイトでもあるのか?」

「あるね。君の時代には及ばないかもしれないが、爆発物くらいはあるよ」

「じゃあそれも用意しておくといいぜ? 一応敵の1人や2人くらいは殺すこともできるだろう。それでいいな、隊長殿? 陛下の救出作戦はこっちが一段落ついてから。それから考えな」

 

実際のところ、俺にはこの国の皇帝がどうなろうが知ったこっちゃなかった。それにマリーナとかいう奴も、そいつの指揮下に入っている兵隊の運命も知ったことではない。里見には悪いが、こいつも同様だ。

 だが、すこしばかり時間稼ぎはしてもらわなくちゃならない。俺はまだ生きているし、そうなるとここにずっと居るわけにはいかない。この時代を生き抜く必要がある。しかし何だか物騒そうだし、黒獅子を誰かの手に渡すわけにもいかない。

 黒獅子。こいつはこの世界の人間達にとっては悪夢以外の何物でもない。俺が生きていた時代でも、開発当初は存在を危険視する連中がいたくらいだ。どうすればいいかはこれから考えていくことになるが、黒獅子は俺と一緒に連れて行く。兵器工廠自体は俺がパスワードを知っているし、他の連中には従わないから、その機能をすぐに失うだろう。

 さて、ここが本題。時間稼ぎと今言ったが、黒獅子を起動させるまでの時間稼ぎをしてもらわなくてはならない。しばらく動かしていないからな、不調箇所もあるかもしれない。順調にいけばほんの数分で起動させることができる。それくらいの時間はマリーナ達も時間を稼いでくれるだろう。

 ただし、戦場は生き物だ。何が起きるか分からない。急ぐ必要がある。


 結局のところ、兵隊の布陣はマリーナに任せることになった。彼女は俺の進言には従わない。やはり訓練で培った通りに兵隊を動かしたいのだろう。相手が騎兵ともなればある程度は対抗可能だろうが、いずれは蹂躙されるだろう。しかも俺がすすめた短機関銃は銃剣を取り付けられない。それを聞いた彼女は、軽機関銃による斉射を行い、敵が接近してきた後に銃剣による突撃を行うという、突拍子もない作戦をとった。しかもそれに反対する人間が、まぁ少ないこと。彼女に反対したのは東郷兵蔵という若者だったが、それも全て効かないうちから却下されていた。


 う~ん、やばいなぁ・・・・・・。あっと言う間に敗北する空気が漂っている。マリーナに従わなければならない兵士達が、少し哀れに見えて来たぞ・・・・・・。


 そしてさらに悪いことに、マリーナの放った偵察隊の1人が重傷の状態で戻り、報告を行う。

 俺達が方針を決めてから1時間程度後のことだったが、偵察隊が戻った直後にベルゼン伯軍は姿を現した。森の木々を切り倒し、見晴らしが良いため敵騎兵隊の姿は丸見えだ。

「だが、ちょいとばかし早すぎるぜ・・・・・・。もう少し遅れてきてほしかったな」

 そうは言っても到着してしまったものは仕方ない。土煙をあげながら突撃するベルゼン伯軍は勇猛果敢な雄叫びを上げながら迫って来た。

 ちなみに俺はというと、まだ黒獅子起動の作業に取り掛かったばかりであった。

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