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秋津島軍記 眠りから目覚めし者  作者: リコ・モヘウリ
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プロローグ 開戦準備

2200年10月20日、朝鮮帝国は秋津島皇国に宣戦を布告した。

対馬に中華革命連合と朝鮮帝国の連合軍が上陸、激しい戦闘が予想されていたものの、そこで戦闘は行われなかった。なぜなら、ただの1人も人間がいなかったのだ。

街は破壊されつくし、焼けただれ、人は1人もいなかった。それがなぜなのか誰にも分からない。中革軍、朝鮮軍の将兵達は一様に首を傾げたものの、だれもその理由には答えられなかった。

どうしてこうなったのか。

話は数か月前に遡る。


――――――5月初旬、秋津島皇国首都、東京――――――


この国が『日本』から『秋津島皇国』に名を変えて、既に100年以上が経過する。170年前に起きた第三次世界大戦は、それまで平和国家としての道を歩んでいた日本を、皮肉にも専制君主制の秋津島皇国に変貌させる理由には十分であった。

「乱丸様」

呼ばれた若者は、窓辺で本を読んでいる最中だった。その本は、辛くも大戦から燃え残った本で、彼が最も慣れ親しんでいたものである。

「・・・・・・何かあったか?」

「諜報機関より連絡が入りました。朝鮮帝国に不穏な動きありとのこと」

乱丸を呼びに来た男も、年のころは30歳ほど。白く長い髪に、同じ色をした軍服を着ていた。

「そろそろ、奴らの送ってきた書面に目を通してやるべきかな?」

『宛・日王 秋津島秀豊』

ひらひらと乱丸が宙で舞わせているのは、隣国朝鮮帝国が送ってきた書面だった。まだ彼自身、この書類に目すら通していない。

「それがいいでしょうな。まぁ、大方何が書いてあるのかは想像がつきますが」

「うん。この日王って書いてある時点で敵意剥き出しなのは、よく分かるよ」

朝鮮帝国との敵対関係は、ここ200年近く変わっていない。この国が日本という国名だった時からだ。そして、日本の統治者のことを『日王』と呼ぶ面でも。

「俺が発見されて、何年たったかな?」

「今年で5年になります。その間に、閣下はこの国の軍事に大きく貢献されました。先代は経済と国家の立て直しに、そして過去の遺物を発掘されることを主に成されました」

「たった五年か。ここ、五年しかたってないんだな・・・・・・」


―――――秋津島乱丸視点―――――

俺が乱丸の名をもらい、秋津島の姓を引き継いでから5年になる。

話せば長いんだが、少しだけ前ふりをしておかなければ、今後俺のことでこれを読んでいる皆は混乱するだろう。

それにここにいたるまでの歴史を知っておかなければ、誰もがこの世界を理解できないはずだ。


まぁ、少し小難しい話に付き合ってほしい。

これから役に立つこともあるかもしれないしな。


2030年、俺は元々、その時代に生きていた人間だ。本来なら、この時代には生きておらず、どちらかといえば化石になって発見される類だったはずだ。

でも、そうはならなかった。

2010年以降、世界は混沌としていた。宗教の対立、大不況、そして世界各地で続く紛争。俺が住む日本はそれとはまだ無関係に過ごせていた。誰もが永遠に平和が続くと信じていた。

だが、状況が大きく変わったのは、2020年に入ってからだ。俺がまだ10歳のとき。


中華人民共和国、今は中華革命連合だったな・・・・・・。


あの国が沖縄県に侵攻してきた。

このとき、日本の艦隊は辛くも勝利。アメリカとの仲介で中国との和解が成立したが、全ての火種が消えたわけではなかった。

これ以降、日本では自衛隊を国軍とする機運が一気に高まり、自衛軍が設立された。さらに15個艦隊を揃え、陸上戦力を強化。また、核を持たない方針だけは貫き、戦略攻撃衛星を配備した。


通称『建御雷たけみかづち』。


高出力のプラズマレーザーを装備し、都市一つを一撃で消し去る威力を持った攻撃衛星だ。相手がもしも核を使用した場合、ピンポイントで相手の首都を攻撃し無力化する。これが目的である。

そして中国との戦争が終わった10年後、世界は最大の危機を迎えた。

一つは日本との戦争で海上戦力の半分を失った中国軍がインドへ陸上から侵攻したこと。その上、彼らはタイやベトナム、カンボジアなどにも侵攻し、他方面作戦で多くの国家を占領した。

また、韓国が中国軍の支援を受けて北朝鮮を占領。その上で中国と同盟を結び日本に対して宣戦を布告した。

これに対して、日本と米国が応戦、ロシアは欧州へ侵攻を開始し、EU諸国を攻略し始める。


第三次世界大戦の始まりだ。

この時代では『大破壊』と呼んでいるようだが。


戦争序盤は通常兵器による破壊行為が行われた。日本への都市部の攻撃は行われず、建御雷が火を噴くこともなかった。

状況が変わったのは2032年を迎えたころである。

このとき、初めて中国から戦略核ミサイルが発射された。日本やアメリカ、そしてEUに向けてである。

これに対し、アメリカ、イギリスなどは中国に対して核ミサイルで応戦。タガが外れたように中東でも核の嵐が吹き荒れた。

唯一核を使用しなかったのは日本のみである。

しかし、彼らは建御雷を使用し、北京を跡形もなく吹き飛ばした。巨大なクレーターのみが残り、そこには人間が生活していた根拠すら残らない。

核兵器よりも悲惨な光景だった。


このときから、人類は核攻撃にさらされにくい場所や建御雷に感知されない場所にシェルターを作り、そこに人間たちを冷凍保存し始める。まだ確立されていない技術で、生存確率が低い方法だったが、核の炎に焼かれるよりはましだと考えたのだろう。


俺にはよく分からない。

でも、父親や母親が俺を苦しめないように考えて冷凍保存したのだろうさ。


そして俺が目覚めたのは、戦争から170年も経った後だった。秋津島皇国の旧遺跡探索隊に発見されたのさ。俺のように生きた人間が見つかったのは初めてらしい。

だけど、俺の周りの人間たち。つまり俺の父や母もカプセルの中で白骨化していた。冷凍保存されたときはクスリで眠らされた上で冷凍ガスを噴射されたから、寒さも感じなかった。

たぶん、父や母や眠りながら死んだのだろう。


そうだと思いたい。


だが、俺は22歳という年齢のまま目を覚ました。

そして、俺が持ち込んだ大量の書物と一緒に。これが前秋津島皇帝の目に留まった。

俺は当時から軍事面に興味があって、大学を卒業したら自衛軍の士官候補生に進むつもりだった。その知識がこの世界では役に立ったのだ。それに歴史にも興味があったから、その関連書籍も相当数持っていた。

この世界では既に、あの戦争で多くの人口と多くの書物が失われており、この世界がどうやって構築されているか、そしてこれまでの歴史の流れを理解しているもの皆無だった。

それを知ることができるのだ。俺という存在がいることで。


そして、俺は前皇帝から秋津島の姓をもらうことになる。乱丸という名も。

というのも、俺自身が名前のみを完全に記憶から喪失していたからだ。皇帝も俺自身を使えると判断したのだろう。しかし突然皇帝家の名をもらうとは、最初は混乱したものだ。


そして、俺自身は軍政補佐につき、この時代の軍隊を作り上げる仕事に邁進した。現王秋津島秀豊は1年前に皇帝の権利を引き継ぎ、秋津島皇帝に収まっている。彼は民衆に慕われる、主君としての器を持った男だ。前皇帝と同じく、経済を豊かにすることと、国民の生活を魔持つことのみに心血を注ぐ善良な皇帝である。


しかし、如何せん軍事には疎い。それを補佐するのが、俺の仕事だ。


「それでは、この書面を皇帝陛下に届けてもよろしゅうございますか?」

「あぁ。あの人も反発は覚えるだろう。しかし具体的にどうすればいいかは俺から提案したいと思う」

「それがよろしいでしょうな。陛下は優しすぎる面がございますから」

目の前の青年、俺の部下でありかけがえのない友人でもある東郷兵造は、第三次世界大戦を運よく生き残った血筋である。この世界に生きている過去の人間は、俺一人だ。今、俺が指令を務めている軍部には、第三次世界大戦を生き残った血筋の者しかいない。


「さて、こちらも準備を進めておくとしよう。奴ら、近々俺たちに宣戦を布告してくるぜ?」

「そうなるでしょうか?」

「そうなるとも。必ず、そうなる」


御前会議への召集。


それはほどなくしてかかった。皇帝陛下の呼びかけのもとに、文官から軍人までが全て集まる。

そこに集められた全ての人々が静かに頭を垂れており、玉座に皇帝陛下が収まる。しかし玉座には威厳というものがほとんど存在せず、先代の皇帝に比べるとあまりに存在感が薄すぎた。


秋津島秀豊―――。


第三次世界大戦で崩壊した日本国の名を秋津島皇国に改めた一族の末裔。

彼は初代から数えて20代目の皇帝にあたる。年のころにして、まだ20歳。俺よりも若くして国家の最高権力者として収まり、その重圧に耐える日々が続いている。

その顔にもまだ幼さが残り、自信や威厳というものとはかけ離れた、迷いや臆病といった負の感情のほうが大きい。

その横にたたずむのは、前皇帝が崩御した際に秀豊を補佐するように後見人に指名した叔父の織田設永おだのぶながである。御年60歳にもなる国家の重鎮で、並み居る臣下たちの中でも発言力が強い。それはまだ頼りない秀豊の力となるには十分な力を保持していたが、彼がひとたび裏切りにでも走れば国家全体が転覆するという危険性も兼ね揃えていた。


「では、御前会議を始める。秋津島元帥、状況の報告を」

元帥号を頂くとは・・・、俺はそこまで重要な働きをした覚えはない。ここにきて初めてやった仕事が、そんなに気に入ったのだろうか。設永のおっさんは。

俺は一礼して立ち上がり、朝鮮帝国から送られてきた文面を広げる。

「これが、朝鮮帝国から送られてまいりました」

内容は誰もが予測していたはずだ。この国と朝鮮帝国は、今まで何度も矛を交え、そのたびに講和を結んでいる。しかし、彼らは戦略拠点として対馬を手に入れることを諦めていないのだ。そして、海洋進出のために、日本を手に入れることも。

「内容は皆さんも予測済みでしょう。毎度変わらず、対馬をよこせとのことです。しかし、対馬は私が眠りにつく前からこの秋津島固有の領土。今も多くの島民が住んでおります」

「あそこでは、毎回激戦が繰り広げられる。20年前も奴らは島に奇襲攻撃をかけ、多くの島民を虐殺した」

呟いたのは稲葉富彦外務卿である。彼の仕事は俺の時代で言うところの外務大臣みたいなものだ。他国との取引、戦争の回避、同盟関係の継続など多岐にわたる外交面の仕事をこなす。鼻の下にちょび髭を蓄え、髪を七三に分けているところなんかを見るとあの独裁者みたいだが、彼は野心的な人物ではない。

「戦争回避の方法はないのか?」

秀豊が問うた。その声には不安が入り混じっている。

「諜報機関からの情報によりますと、既に相手は臨戦態勢に入っている模様です。兵を徴収し、訓練を開始しております。新しく徴収された兵士も数に入れますと、侵攻してくる戦力は陸上戦力5万、海上戦力2個艦隊といったところでしょうか」

「それは少し、少なくないか?」

文官の1人が俺の見立てに疑問を口にした。

もともと朝鮮帝国は人が少ない国だ。しかも第三次世界大戦で国土は荒廃しきっている。それでも戦争を挑んでくるのは、新しく肥沃な大地がほしいからだ。そして、国土を豊かにするだけの人間がほしい。


戦争を起こせば、奴隷として他国の民間人を労働力にすることができる。

それに土地が手に入り、国土を拡大することができれば万々歳だ。


まぁ、そうはさせないんだけどな。

それよりも見立てのことだ。

「秋津島全土を支配するならいざ知らず、対馬のみを占領するってんです。それくらいじゃないと割にあわない。ただし、それだけだと占領できないことくらい、奴らも知っています」

「では、もっと多く見積もったほうがいいのではないかね?」

「奴らには同盟国があります。中華革命連合がね」


にわかに室内がざわめいた。


「彼らが出てくるというのか?」

「諜報機関の情報になりますが、朝鮮帝国軍の兵士の中に中国語を話すものたちがいるそうです。恐らく、中華革命連合が兵士を貸し出しているものと」

中華革命連合は第三次世界大戦で生き残った中華人民共和国で革命が起き、その後にできた形だ。革命後は幾つもの軍閥に分かれて争っていたが、それを一人の革命家が統一。まだ国内は混乱しており、金もない貧乏国家だが、人と兵士の数だけは有り余っている。

恐らく、外貨を稼ぐために近々俺たちと戦争を行う予定の朝鮮帝国に兵士の貸与を行ったのだろう。

「もしこの話が本当だとしたら、朝鮮帝国は本腰を入れて攻めてきます。兵士まで借りてるんですよ?恐らく、陸上を攻める総兵力は10万以上になるでしょう」

「対馬だけの防衛力では守りきれんな・・・・・・」


設永がつぶやいた。

それを聞いて、秀豊は不安そうな目で周囲を見回しているだけだ。


「対馬を明け渡すしかないのか・・・・・・」

秀豊の言葉に、多くの臣下が動揺した。会議の場が騒然となる。

全く、これだからなうちの大将は。まだケンカしていないうちから諦めるなんて、男のすることじゃねぇ。

「陛下、私に策がございます。しかしこの策を実行するためには、ある程度の時間が必要。外務卿とともに、少しばかりの時間稼ぎをお願いしたく存じます」

「策、とは?」

「それはですね――――」

俺の発言も会場を騒然とさせるには十分だった。しかし奴らを一時的に機能マヒさせ、国土の安全を手に入れるためには、この方法が一番だ。


俺は理由を粛々と語り始めた。


数十分後には周りで反対する人物は、誰一人としていなくなる。

さて、ゲームスタートだ。

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