最強?いいえ、バグです。
……お父さん。お母さん。今日、世界が滅びます。
突如日本上空に現れた超巨大未確認飛行物体が今から降ってくるそうです。それが落ちてこようものなら地球という惑星が真っ二つになるそうで、正直今すぐ逃げたいのですが逃げたところで地球そのものが崩壊するので無意味です。
「あん?どうした御剣?」
私の数少ない友達の中でも特に際立って特異的な存在である神形さんが呑気に問いかけてきますが、彼女には空に浮かぶ黒いものが見えないのでしょうか。
「お。今日はやけに暗いなと思ったらドラゴンがいるじゃねーか。誰が呼んだんだあんなもん」
ドラゴンてなんですかドラゴンて。呼べるもんなんですかあれって。確かに衛星写真では空飛ぶトカゲみたいな形してましたが本当にドラゴンなんですか。
「召還主は死んでるみたいだけどな。全く、最後まで面倒見れないんだったら呼ぶなよな。ホントいい迷惑だ」
もう何でもいいです。とにかくどうにか出来ませんか。一女子高生に聞くのもあれですが、今の気分は溺れる者藁をも掴む心境です。どうにでもなれ、です。
「どうにかしたいのか?」
はい。でなければ世界が滅びますので。どうにか出来るのであれば速やかにどうにかしてください。
「分かった。三分でどうにかする」
そういうや否や神形さんは地面を蹴って跳躍しました。跳躍。いえ、もはや弾丸のようなスピードで神形さんが空を突っ切ります。瞬く間に米粒ほどの大きさになり、空を満たす超巨大未確認物体に接近。おもむろに拳を作って殴りつけました。
空気が震えます。まるで爆音のようなとてつもない轟音を響かせた犯人である我が親友はなんとすぐさま二撃目をぶち当てて超巨大飛行物体。ドラゴンをくの字に折り曲げるではありませんか。地鳴りのような苦悶に満ちたドラゴンの咆哮が世界を揺らします。
ですが神形さんは手を緩めません。三撃目を叩き込み、ドラゴンを空へと打ち上げます。既に空にいましたから宇宙へ、の方が適切でしょうか。神形さんはそのまま宙を蹴り、ドラゴンを追いかけます。
笑っているのでしょうか。神形さんの笑い声が聞こえるようです。
宇宙に殴り飛ばされたドラゴンはようやく神形さんを視界にとらえたようですが既に何もかもが遅いです。彼女は既に四撃目の構えをしていて、今にも放たれんとしていたからです。
ドラゴンが口から何かを出すよりも早く神形さんの拳がその額に突き刺さりました。ドラゴンの体が弾け飛び、空はようやく満面の碧い色を映しました。
役目を終えた神形さんがゆっくりと私のいる場所に降りてきます。
「一分もかからなかったな」
お疲れ様です。神形さんて色々凄いですね。
「いやあ、それほどでも」
照れているところ悪いですけど早く服を着てください。
「流石に摩擦熱には勝てなかったよ」
でしょうね。物凄い勢いで燃えつきましたしね。
「御剣体操着貸してくれ」
分かりました。
「明日洗って帰すわ」
ええ。
あ。そうです。忘れてました。神形さんの紹介で一番大事なところが抜けていました。改めて説明しますね。
神形刹那。私の親友にして、「最強」を冠する女子高生です。
最強というよりバグですよねホント。
人物紹介。
御剣。
主人公兼語り部。何気に千里眼の異能持ち。
神形刹那。
最強。バグ。ドラゴンなんて拳で十分です。俺っ娘。