終わりと始まり
1945年11月、世界は大きく動いた。ドイツならびにイギリスの奇襲爆撃隊がモスクワのクレムリンに夜間爆撃を加えた。この結果、ヒトラーと並ぶ稀代の独裁者は突然の死を迎えることとなった。
スターリンの死は、ソ連を含む全ての国に大きすぎる衝撃を与えた。特にソ連と戦っていた満州やドイツ・イギリスと言った国々は講和する相手が消えてしまった。爆撃によってスターリンのみならず、政府の幹部が全て消えてしまったからだ。
その後数週間に渡って混乱が続いた。ただソ連軍は当初の命令を律儀に守って各地で戦闘を継続した。もっとも、これは逆にさらなるソ連本土への爆撃や、南樺太侵攻後反撃に転じた日本の北樺太侵入を許す事となった。
結局、ソ連が次の動きに出られたのは1ヵ月後の事だった。地方の行政委員長から急遽首相に抜擢されたフルシチョフ率いる新政府がソ連全軍に対しての停戦命令と、ドイツ・イギリス・満州などへの交戦国に対して講和を打診した。
既に戦争に疲れていた各国は早速この提案に飛びつき、講和会議に入った。満州とソ連との講和会議は、日本も含むために東京のソ連大使館で行なわれた。
約1週間に渡る会議は、互いが強気で挑んだために調整に難航したが、最後はソ連側が妥協する形で結ばれた。その条件は日本に対しては北樺太の譲渡、満州に対してはこれまで一部不確定だった国境線の満州側の提案する線での確定であった。ちなみに、当初日本と満州は賠償金も要求したが、結局これは国際法違反による重犯罪のみに対する物意外は全て棄却された。
満州にしてみれば、国境線沿いの多くの村や町が焼かれたからこの程度ではとても納得出来る額ではなかった。しかし、条約の瓦解を恐れて飲まざるえなかった。
こうして昭和20年11月20日に日満ソ講和条約が締結され、太平洋戦争から足掛け3年11ヶ月続いた戦争は終わりを告げた。
日本や満州では市民1人1人がようやく訪れた平和に狂喜した。しかし、それはある意味、つい昨日まで戦場に身を置いてきた戦士たちの役目が終わった事を意味していた。そしてそれは我が義勇海軍でも同じことだった。
建国以来、満州国の海の守り神として働いてきた彼らであったが、戦後急速に進む軍縮の流れには勝てなかった。義勇海軍は一応大亜細亜造船の持ち物であったが、その維持費の多くは国から出ていた。その補助が極限まで削減されては、もはや維持する事は出来なかった。
昨日までの戦いが夢幻のごとく、義勇海軍艦艇はその多くが居場所を失った。最終的には、軽巡2、駆逐艦4、フリゲート4、コルベット4、潜水艦2、練習艦1、補給艦1を除いて全ての艦の退役が決定した。空母は全て貨物船へと復旧し、その他の軍艦は解体処分される。また、航空隊も大幅に縮小された。
その決断を、白根は素直に下した。
「彼らは充分に戦い、その使命を全うしたと考えている。義勇海軍艦艇としての奉公はもう充分だろう。」
これが彼のコメントであった。ただし、そうした艦艇の多くは義勇海軍を退役したものの、その後売却されフィリピンやインドネシアといった新興国海軍の艦艇として余生を送る事となった。また、旅順で記念艦となって永久保存される船もあった。
白根は、それら艦艇が新たなる使命を帯びて、海の向こうへ旅立っていくたびに港へ赴き、敬礼をして見送った。
そして昭和21年4月、最後のフリゲート艦がインドネシアのスラバヤに向けて旅立つ時も、白根は港の桟橋から敬礼をして見送った。
こうして、事実上栄光に包まれた義勇海軍の歴史は終わりを告げたのであった。しかし、それは新たなる始まりである。小規模になっしまったが、義勇海軍は今後も満州国を守る防人としての使命があった。
戦争はいつまた起こるかわからない。現在も中国大陸の政治状況は流動的で、一時的に勢力を伸ばした中国共産党も、その後多量の援助を受けた国民党軍の反撃で、その勢力拡大は足踏み状態となっている。
現在中国大陸は海南島、華南地域を中心に支配権を持つ中華人民共和国と、香港までの沿岸部と華北地域を抑える中華民国に色分けされている。満州国にとっては、未だ余談を許さぬ状況と言えた。
しかし、それでも束の間になるかもしれないが平和が訪れたのも事実であった。
消え行く物があれば、新たに生まれる物がある。それが世の道理であった。
「白根大将。」
桟橋で1人感傷にふけっていた白根に、声をかける人間がいた。
「やあ、八島中将。」
太平洋戦争中は航空戦隊司令官として活躍し、今回航空隊総司令官に就任した八島文幸中将だった。
「やはりここにおられたのですね。」
「ああ、旅立つ船を見送っていた。」
「そうですか。」
「なあ、八島君。私のやったこと・・・義勇海軍を作り戦ったことは意味があったのかな?戦争には勝ったかもしれないが、結果的に多くの若者を死地へと送ってしまった。」
「それについては・・・私にはなんとも申し上げられません。意味があったのかもしれませんし、なかったのかもしれません。それは、今後の歴史が証明してくれるでしょう。」
戦争は人が起こす最悪の犯罪かもしれない。だが、そこに意味があるかないかはそれを決める人次第なのだ。
(いや、むしろそういうことだからこそ、歴史上の出来事として意味を持たせる必要があるのだろう。)
八島はそんなことを一瞬考えたが、すぐに頭を切り換えた。
「さ、司令官。まもなく白根少佐と加古少尉の結婚式ですよ。」
戦争中は航海士官と戦闘機パイロットして戦った2人は、ようやくこの日挙式を迎える。
「ああ、そうだったな。じゃあ、行こうか。」
「はい。車を待たせてありますから。」
「うむ。それにしても・・・まったく護の奴もう子供を作るなんて。」
先日、結婚式の招待状を届けに来た彼は、加古少尉が既に妊娠しているのを告げた。
「ははは・・・まあ、子供が既に出来てしまったのはともかく、その子は満州のあたらしい未来を担う子供になるんですね。我々は、武器を使う因果な仕事をしていますが、彼らが平和に生きていける国を、しっかり守ってあげたい物ですね。」
「そうだな。平和は非武装によって成り立つという者もいるが、私としてはまだそれは早すぎると思っている。我々は我々の信念を持って、国を、そこに住む人々を守っていきたいね。」
そして彼らは車に乗り込んだ。まだ見ぬ、新しい未来を作るために。
御意見・御感想お待ちしています。なお、本編は完結です。後1話、総解説をもってシリーズ完結となります。