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鋼鉄の宴 上

 義勇艦隊は一斉に右へと舵を切った。40年前東郷提督が行なった丁字戦法を、再びロシアの艦隊に向けて行なったのである。


 そして、先頭の「長門」と「陸奥」回答が始まり、全砲門が敵に指向した所で砲撃を開始する。日本海海戦の時は全艦の回答が終わった頃に打ち出したが、白根は各艦の砲撃能力の性能が違うために、今回は撃てる艦から射撃を開始するよう通達していた。


「撃ち方始め!!」


 早川艦長の命令の元、8門の40cm砲から轟音を上げて砲弾が打ち出された。発射の際に起きるマズルフラッシュが一瞬「長門」と「陸奥」を明るく映し出す。


 一方、ソ連艦隊のマリコフ中将はレーダーで義勇艦隊が、自分たちの艦隊の進路を

塞ぐように回頭するのを知った。


「東郷ターンの真似か?連中は猿真似しか出来ないのか?バカめ、私はロジェストベンスキー(バルチック艦隊の司令官)とは違うぞ!!」


 丁字戦法には大きな欠点がある。それは敵が逆に回頭すると距離が離れてしまい、逃がす恐れがあるのだ。実際、東郷提督も黄海海戦で辛酸を舐めている。


 マリコフは直ちに逆向きへの回頭を支持し、さらに砲撃開始を命令した。


 しかし、その瞬間水平線の彼方に発砲炎が見えた。


「先手を取られたか。だが、初弾など当たりはしない!」


 マリコフはそう吐き捨てたが、間もなくそれが大きな間違いであるのに気付いた。何故なら数十秒後に着弾したその砲弾は、旗艦「ウラジオストク」を狭叉した。


 すさまじい衝撃が艦を襲い、さらに水柱が崩れ、その水が甲板に降り注ぐ。これによって剥き出しの機銃座や、甲板の各所に備えられた備品が損傷する。


「バカな!!この闇の中でこの砲撃精度だと!?」


 マリコフにとっての不幸は、義勇艦隊が既にレーダー射撃を装置を開発していたという事実を知らなかったことだ。


 既にこの時点でアメリカやイギリス、そしてドイツも優秀なレーダー射撃装置を開発していた。一方、日本も初歩的な物を開発していたがこれはまだ数が少なく、しかも性能が一定しないと彼は聞いていた。


 しかし、ソ連軍は義勇海軍を保有する大亜細亜造船が独自にこうした装置を開発している事を軽視していた。


 この時「長門」と「陸奥」は、突貫の改造工事でこの最新兵器を積んでいた。その性能はアメリカやドイツのものと比べても遜色ない物だった。


 さらに、ソ連艦隊上空を飛ぶ「瑞雲」の群は、やはり最新装備の暗視スコープを積んでいた。初歩的で、故障が頻発し寿命も短かったが、先頭の戦艦に振り注いだ砲弾の確認は何とかできた。


 その情報を元に、「長門」と「陸奥」は砲塔の旋回各と砲身仰角を修正する。


 約30秒後、第2弾が発射された。


 一方、ソ連艦隊も砲撃開始したが、航空攻撃で「ウラジオストク」は砲塔が1基破壊されており、さらに砲撃訓練の不足もあって兵士の練度は低く、またレーダー射撃も義勇艦隊が行なっている物より遥かに低い精度の物しか出来なかった。


 加えて、弾着観測機も出していなかったために、弾着確認を行なう事が出来なかった。これでは修正射撃を出来る筈がなかった。


 そこへ、第2弾が着弾する。「ウラジオストク」は至近弾だけであったが、2番艦の「ハバロフスク」に、「陸奥」より発射された2発が命中した。


 砲弾は1発が艦尾のカタパルトを全壊させ、もう1発は左舷側の対空火器を全滅させた。さらにそれによって火災も発生した。


 この火災によって、「ハバロフスク」は闇の中に煌々と自分の姿を照らし出した。幸運といえたのは、この時両艦隊がそれぞれ回頭を終えて砲撃の死角に入ってしまったことであった。


 そのため、義勇艦隊は2回、ソ連艦隊は1回砲撃をしただけで、一端砲撃戦は中断した。その間にマリコフは一端距離を取って、形勢の建て直しを図った。


「敵艦隊離脱を図ります!!」


 レーダー室からの報告が入る。それに答えるように、白根は命令を出す。


「全艦再回頭、その後「長門」、「陸奥」の最大船速25ノットまで増速し敵の追尾に入る。」


 白根の命令により、義勇艦隊は再回頭し敵艦隊の追尾に入る。40年前の黄海海戦では、この時連合艦隊はロシア旅順艦隊を逃がしかけた。幸い、戦艦の1隻を落伍させて敵の陣形を崩せたが、危うい勝利であった。


 白根は今回そのような失敗はしないと確信していた。敵より優秀なレーダーに加えて、5ノット近く早い艦速を持っていたからだ。


 アメリカ製戦艦である「ウラジオストク」、「ハバロフスク」はいずれも同時期の戦艦と同じく最高速度が20ノットしか出せなかった。


 既に距離は39000程度まで離れていたが、全速で追いかければ1時間で再び砲撃を開始できた。


「絶対に逃がしはせんぞ!!」


 白根は闇の向こうにいるであろう敵艦隊に向けてそう呟いた。


 一方、この時ソ連艦隊にはあるアクシデントが起きていた。潜水艦による襲撃である。この時、日本海には義勇海軍、朝鮮海軍、そして日本海軍の潜水艦が潜んでいた。日本はソ連とは正式に宣戦布告はしていなかったが、樺太が侵攻を受けてていたため、事実上敵同士だった。


 この時ソ連海軍を襲撃したのは、舞鶴を出撃した日本海軍の潜水艦「イ52」だった。


 同艦が発射した魚雷は、1本が燃える「ハバロフスク」に、2本が駆逐艦に命中し、駆逐艦は轟沈、さらに「ハバロフスク」は機関室に浸水し15ノットまで速力を落とした。


 これによってただでさえ襲い艦隊速力はさらに落ちた。慌てて駆逐艦が爆雷を落とすが、既に「イ52」は逃亡した後だった。


「なんたることだ!」


 マリコフは眼前で繰り広げられる光景を信じられない思いで見ていた。格下と見ていた義勇海軍にここまで追い詰められているからだった。


 そして追い討ちを掛けるように、レーダー室から報告が入る。


「敵艦隊、急速に再接近しています。既に距離37000を切っています!!」


 そして間もなく、彼らの頭上に40cm砲弾が再び降り注いだ。数回狭叉や至近弾を出したが、5回目の砲撃で、ついに「ウラジオストク」に3発の命中弾が出た。


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