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第二次日本海海戦 下

 夜半、先行する駆逐艦「蒼星」から、レーダーにソ連艦隊を捉えたという報告が入ってきた。「蒼星」はレーダーピケット役として、艦隊から30km先を航行していた。


 「蒼星」以外にも、レーダーを搭載した夜間偵察機の「天山」も発進している。また、各艦搭載のレーダーも、操作員が目を皿にしてスコープを見つめている。


 ここまで厳重な哨戒を行なっているのは、もちろんソ連太平洋艦隊を逃がさないためだ。現在ソ連艦隊は空母を失い、その他の艦艇の数も減っているが、まだ2隻の戦艦を中心に南下を続けていた。


 義勇海軍はなんとしてもこの艦隊を殲滅しなければならなかった。それは今行なわれている満州への侵略のみならず、今後も行なわせないためにも。


「総員戦闘配置!!」


「蒼星」からの報告が旗艦「長門」にもたらされた直後、各艦ではブザーが鳴り、乗員がヘルメットと救命胴衣を付けて自分たちの持ち場へと就く。


 白根もヘルメットを付ける。既に、艦隊内各艦のレーダーもソ連艦隊の影を捉えていた。そして、ソ連艦隊のレーダー波を逆探が捉えていた。


「距離55000!」


「長門」の40cm主砲の射程は38000m程だが、レーダーと併用しても流石に命中させるのは至難の業だ。有効射程は30000程度と見積もられていた。


「距離35000で射撃開始しますがよろしいですか?」


 早川艦長が白根に尋ねてきた。


「そちらの判断に全てお任せします。」


 実戦経験が僅かしかない白根に対し、早川は重巡「鳥海」艦長、第2水雷戦隊司令官を歴任してきた歴戦の猛者である。白根は彼に判断を一任した。


「後続の「陸奥」にも信号。目標敵戦艦!距離35000で撃ち方はじめだ!」


 かつて戦艦同士の砲撃戦は、弾着観測機を用いて発射される砲弾の命中を確認する方法を取っていた。「長門」も「陸奥」もレーダーは最新式の物を積んできたが、今回の戦いでも一応それを行う。


 最新式の赤外線暗視鏡を装備した「瑞雲」水偵4機が射出され、敵艦隊へと向かって飛んでいく。


 灯火管制を敷いているため、艦隊各艦の様子は全く見えない。今飛んでいった「瑞雲」の翼端灯もすぐに闇の中へと消えていった。


 乗員は刻一刻と迫る戦いを前にして沈黙し、白根の立つ艦橋に聞こえてくるのはエンジンと、波の音だけである。


(本当にこの先にソ連太平洋艦隊がいるのだろうか?それよりも、本当に今我々は海戦に挑もうとしている所なのか?)


 白根は内心そう思った。闇と、静けさが幻想的な気持ちを白根に抱かせたのだ。


 だが、そんな彼を現実に引き戻すかのように、続々と艦橋へ報告がもたらされた。


「敵艦隊との距離、49000!」


「先行した「瑞雲」より入電。敵艦隊上空に到達。これよりも任務を開始す。」


 相変わらずの沈黙が場を包んでいるが、スタッフ全員に緊張が走る。


「いよいよですね。」


 白根の言葉に、早川は無言のまま答えた。


 義勇艦隊は、2隻の戦艦を先頭にして単縦陣で進んでいる。既に、空母は護衛の駆逐艦と共に後方に下がり、完全な砲撃と雷撃のみでの打撃艦隊となっている。


 白根が低速であり、旗艦である「長門」を先頭にしたのはその40cm砲の威力で敵戦艦を早期に撃破するためというのが理由であったが、実際には彼自身が指揮官先頭の法則を実践しようとしたいう理由が大きい。


 指揮官先頭は、士気向上という点ではまたとない物である。しかし、司令部が被弾しやすいというリスクも負っている。


 もちろん、白根はそれを承知の上でこの戦法を取っていた。


 対するソ連艦隊は偵察機とレーダーの情報を信じるなら、やはり同じ単縦陣を取っていた。


 ソ連艦隊が単縦陣を取ったのは、別に指揮官先頭とか敵戦艦の早期撃滅を目指したためではなく、単に練度不足で、夜間の複雑な陣形航行に自信がなかったからだ。


 もちろん、白根らはそんな事情は知らない。


「距離42000!」


 お互い20ノット(37km)で近づいている。つまり、相対速度は70km近いスピードとなり、このまま行けば、約5分で射撃開始距離となる。


「白根司令官、距離35500で例の運動を行ないますがよろしいですか?」


 早川が白根に確認する。


「ええ、頼みます。」


 傍から見れば見れば一体何を言っているのかわからないが、既に計画を知っている参謀達の中で、疑問を口にする者などいない。


「しかし、日本海海戦とは逆向きでの決戦となりましたな。かつてのバルチック艦隊は対馬沖で南下してきた連合艦隊に打ち破られましたが、今度は北上してくる我々が彼らと戦うのですね。」


 早川がそんなことをしみじみと言う。さらに、白根も言う。


「それだけではないよ。この海域は確か、かつて東郷提督が対馬沖砲戦を潜り抜けたロシア第三艦隊を捕獲し、日本海海戦の勝利を揺ぎ無い物にした地点でもある。我々も、今回の戦争の勝利を揺ぎ無い物にしたい物だね。」


「そうですな。」


 そんな会話をしている間にも、両艦隊の距離は近づいていく。


「距離40000!」


 ここで、早川は主砲に攻撃準備を発令する。


「主砲砲戦用意!目標敵先頭を走る戦艦!弾種徹甲弾!」


 命令を受け、主砲射撃指揮所、主砲塔内が慌しくなる。


 射撃指揮所では、操作員が偵察機やレーダーが伝えてくる敵艦との距離や速度、風向きなどを計算機に入力し、最適な主砲発射仰角などをはじき出す。


 また主砲塔内では、揚弾機が弾薬庫から砲弾と装薬を主砲塔内に上げる。さらに、砲塔要員が見守りながら、その両方を砲身内に装填装置を使って入れる。


「第一砲塔装填完了!」


「第二、第四砲塔装填完了!」


「第三砲塔装填完了!全砲塔装填完了!主砲射撃準備!」


 既に距離38000を割っている。4基の砲塔が旋回し、暗闇の彼方にいる敵戦艦に照準を合わせる。


「主砲、射撃準備完了!いつでもどうぞ!」


 射撃指揮所の砲術長が威勢の良い声で知らせてくる。


「距離36000!」


 両艦隊の距離はさらに縮まった。この時、ソ連艦隊は義勇艦隊の右手前方を反航する形で接近していた。


 そして、運命の距離へと近づいた。


「距離35500!」


 その報告が入ると、艦長の早川が高らかに宣言した。


「面舵一杯!!丁字戦法開始!!後続艦に信号!」


 これこそ白根の秘策であった。そしてこの戦法を行なった事により、鬼が出るか蛇がでるか、それを知る者は存在しなかった。


 そして、海戦が始まる。

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