第二次日本海海戦 上
「総員整列!!」
義勇艦隊空母「白虎」の艦橋前の飛行甲板に搭乗員が整列する。その前に設けられた特設の壇上には新任の航空戦隊指揮官である大竹少将が立っている。
「諸君、いよいよソ連海軍との決戦の時が来た。相手は空母や戦艦を含む大艦隊である。これまで君たちが相手にしてきた潜水艦や航空機とは桁外れの力を持っている部隊である。しかし、諸君らが日ごろの訓練から培った技量を持ってすれば、必ずや敵艦に打撃を与え、大いなる戦果を上げられるものと信じている。普段から我々を2流海軍とバカにしている日本海軍の連中を見返してやれ!!」
「おお!!!」
搭乗員が一斉に叫んだ。
「しかしだ。命は大切にしろ。諸君らは満州国の未来を担う重要な人材である。安易な自爆は決して許さぬ。戦果を上げ、必ず帰って来い!以上だ。」
「総員敬礼!!」
パイロット達が一斉に敬礼する。
「解散!!機に搭乗せよ!!」
命令と共にパイロットたちは自分の愛機に散っていく。
「司令、行ってまいります!」
飛行隊長で、今回攻撃隊の総指揮を執る光大尉(満州国軍では日本軍との共同作戦が多いことから、階級を日本式に改めた。)が大竹に敬礼する。
「おう!しっかりやって来い!!」
光大尉は今一度敬礼を返すと、自分の愛機である「炎龍」2型戦闘機に乗り込んだ。
「炎龍」2型は、前作の1型に比べて武装、機銃、エンジン出力を強化した機体である。そのため機体が一回り大きくなり、外観もどことなくP51を思わせるスタイルとなっている。
実戦は今回が初めての機体であるが、速力、武装面ではソ連艦隊のF6F戦闘機を上回っている。パイロットが下手な事をしないかぎり、負けることはありえなかった。
そして艦爆は日本海軍から購入した「彗星」44型、艦攻は「天山」33型である。どちらとも新型の「流星」攻撃機の投入でお役御免となっていたのを安く引き取った物だ。
「彗星」44型はエンジンを排気タービン付き新型「金星」エンジンに積み替えた物で、日本海軍では終戦の為に1機も実戦参加せずに終わっている。
その新型「彗星」が800kg爆弾を抱えて出撃していく。もちろん、国籍マークは円に5色の配色がなされた満州国のマークだ。
余談であるが、戦後この「彗星」44型のプラモデルが発売されると、多くのモデラー達は満州国時代のカラーで製作したという。
「天山」33型も、やはりエンジンに排気タービンをつけた強化型で、1t爆弾が積載可能となり、さらに機上電探も積んでいた高性能雷撃機だった。
それら3機種が飛行甲板上に整然と並べられ、発進の時を待っている。既に搭乗員が乗り込み、整備兵が車輪止めを外せるように身構えている。
「艦首風上へ!!」
合成風力を起こすために、艦は風上へ向けて走る必要がある。「白虎」と他の7隻の空母もそのように運動する。
無線用マストが倒され、車輪止めが外される。全機いつでも発進可能な体制に入る。
「発艦始め!!」
命令と共に、1番機の前にいた士官が合図の旗を振る。そして、一番前に止まっていた「炎龍」戦闘機がエンジン出力を上げて動き始めた。
「白虎」型を始めとして、義勇艦隊の空母にはカタパルトが備えられているが、「炎龍」戦闘機はギリギリその使用が必要のない重量だった。
帽子を振る手空き乗員の姿に見送られながら、光大尉搭乗の「炎龍」は滑走していく。
彼の乗る1番機は飛行甲板の先端から離れると、一瞬沈み込んだが、すぐに上昇していった。1番機に続き、2番機、3番機が次々と発艦し、大空へ向かって上昇していった。
そして、重い爆弾と魚雷を抱えた爆撃機と雷撃機の番になると、カタパルト担当の兵士が動き、機の発進の補助を行う。
こうして、全機事故も無く発進出来た。今回8隻の空母から発進した機数は183機。日本海軍から借りた「笠置」を除く全ての空母が商船改造の小型空母であったので、隻数に対して機数は少なかった。それでも、充分な打撃力を持っている攻撃隊であった。
その姿を、今回特別に戦艦「長門」に乗り込んだ義勇海軍総司令官白根大将は、艦橋の窓から空を仰ぎ、敬礼しながら彼らを見送っていた。
「がんばれ、そして1機でも多く帰って来い!」
見送る彼に声を掛ける人物がいた。
「大丈夫ですよ。彼らの腕は我が帝国海軍と充分拮抗しています。きっと戦果を上げて帰ってきますよ。」
今回戦艦「長門」艦長として派遣されてきた早川幹夫大佐だ。
「そう言って頂けると少しは楽になるというものです。」
(本当にがんばれよ。)
そう祈りながら、彼は蒼穹の彼方へと消えていく攻撃隊を見送った。
そして約2時間後、攻撃隊はソ連艦隊のレーダーレンジ内に入った。
「全機間もなく敵艦隊に到達する。警戒を厳にせよ!!」
光大尉が無線で全機に注意を促す。すると、間もなく部下の機から連絡が入った。
「左20度上空に敵戦闘機!」
光大尉が目をやると、約40機ほどの機影がこちらに向かってくるのが見えた。今回護衛戦闘機の数は約60機である。
「「白虎」、「蒼虎」、「笠置」戦闘機隊は編隊から分離して敵戦闘機の迎撃を行う。その他の部隊は攻撃隊から離れず直接掩護を続行せよ!!」
彼は命令を伝えると、敵戦闘機との戦いを行うために高度を上げた。それとともに、敵の機種を確認する。
(あの大型の機体に直線的な翼・・・情報どおりF6Fのようだ。)
彼にとっては初めて会う機種である。太平洋戦争中に彼は7機の撃墜を記録しているが、その多くが爆撃機で、戦闘機も陸軍機しか会っていなかった。
「各隊は、各隊長の指揮の元個々に戦闘を行なえ!!」
彼はそう命令し、敵戦闘機隊との戦闘に入った。ほぼ反航戦である。F6Fが自慢の6挺の12,7mm機銃を発砲してくる。それを機体を反らして除けながら、空戦フラップを使って得た高い旋回性能を生かして敵機の後ろに回りこむ。
青い機体に、赤い星をマーキングしたF6Fが照準機の真ん中に収まった。
彼は躊躇せず、合わせて6挺詰まれた12,7mm機銃と20mm機銃を発射した。そして、主翼に集中的に被弾したそのF6Fは、紅蓮の炎を引いて落ちていった。
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