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ソ連侵攻

 前話で、沈没した「飛龍」が義勇艦隊に引き渡されていたと書いてしまいました。ただちに訂正しました。読者の方にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

 旅順の港に日本海軍から義勇海軍へと貸与された戦艦や空母が勢揃いしている。乗員もほとんどが帝国海軍からの出向者であるから練度も高いままである。後は義勇艦隊各艦艇との艦隊運動訓練などを行うのみである。


 それら鋼鉄の獰猛たちを義勇艦隊総司令官の白根大将は司令部庁舎から見ていた。


「これでソ連太平洋艦隊に対抗できるだけの戦力が集まったわけだな。」


「ええ、練度も万全であとは艦隊運動訓練を行うだけです。」


 白根の言葉に引き継ぐように、現場艦隊司令官の木村大将が言う。


「これでソ連艦隊がたとえ南下してきても恐れるに足りずと言った所か・・・しかし米国との戦争が終わって一段落したと思ったら今度はソ連か・・・戦争はまだまだ続きそうだな。」


 白根はしみじみと言った。艦隊を作りたいとこの地に来てもう30年近く経った。その願いを形にし、亜細亜有数の海軍力を整備した白根であったが、年を追うごとにそれらの艦艇が人が動かしているということを実感させられた。


 太平洋戦争中、義勇艦隊は南鳥島海戦以後米海軍と正面から戦うことはなかった。主に船団護衛に徹して行動した。


 大戦中義勇艦隊は実に50隻近い米潜水艦を撃沈し、さらに撃墜した航空機もかなりの数に昇る。


 しかし、一方的に進められる戦争などはこの世にない。義勇艦隊も帝国海軍ほどではないが犠牲を払っている。大戦中全期間を通して駆逐艦以上で撃沈された艦艇はなかったが、フリゲート2隻と、コルベット3隻と魚雷艇4隻、潜水艦1隻が失われている。また、損傷艦も多数に及んでいる。航空機の犠牲も60機以上に昇っている。


 それら損害によって発生した犠牲者は500人以上に昇る。戦争全体から考えれば少ない犠牲者と言えるかもしれないが、しかしやはり犠牲者が多数出た事に変わりはない。


 白根は犠牲者が出るたびに艦隊司令部を使って合同葬儀を開き、遺族を呼んで訓示を読み、2階級特進の通達を行った。補償も行っている。


 戦争中であるから、遺族から批判が出ることはない。しかし、白根にしてみれば遺族の哀しそうな顔や、無理に虚勢を張っている姿が痛ましくしてしかたがなかった。


 ここに来て、ようやく白根は戦争のつらさをわかった。しかし、いまさら戦うのを止めるわけにもいかない。


(国を守るためには、例え犠牲者が出るとわかっていても戦いをやめるわけにはいかないんだな。)


 白根は戦争は望まないが、国を守るためには犠牲を払う事は仕方がないと考えていた。さすがに一切の武器をなくして平和を作ると言う理想主義的な考えは思いつかなかった。


 そんなことを考えている白根を、木村はただ黙って見守っていた。


 さて、彼らの話題に登っているソ連太平洋艦隊は1945年5月現在、ペトロ・ハバロフスク・カムチャッキーにいた。旗艦はアメリカから買い込んだ「アリゾナ」を改名した「ウラジオストク」である。


 ウラジオストクとはロシア語で極東を制覇せよといかなり野心的な意味合いを含んでいる。帝政時代にも、「コレーツ」をいう砲艦が存在したが、コレーツとは朝鮮と言う意味である。そういう野心的な名前をつけるのは何時の時代も変わっていないようである。


 その「ウラジオストク」を含めて戦艦2、軽空母2、重巡洋艦5、軽巡洋艦3、駆逐艦18からソ連太平洋艦隊はなっている。


 軽空母はやはりアメリカから買い込んだ「ボーク」級の護衛空母で、F6F戦闘機とセットで購入した物だ。現在は「レーニン」と「スターリン」に改名されている。


 巡洋艦はロシア製の「マキシム・ゴーリキー」級とアメリカから購入した「ポート・ランド」級を改名した「ポルタワ」級。さらに「カリーニン」級にやはりアメリカから購入した「オマハ」級を改名した「キエフ」級巡洋艦である。


 ソ連海軍は条約にとらわれていないので、かなりユニークな艦艇を建造している。特に巡洋艦は軽巡とも重巡ともいえる艦艇を造っている。主砲口径18cm、排水量8000tクラスの艦艇がそれだ。


 太平洋艦隊はそのソ連独特の艦艇と、条約を遵守したアメリカ製の艦艇が混じったかなり変則的な編成となっている。


 また駆逐艦も同様で、ソ連製の艦艇とアメリカから購入した「シムス」級駆逐艦を混合使用している。


 ソ連はスターリンからの指示で海軍の増強に移っていた。その筆頭であるのが40cm砲9門を持ち、「アイオワ」級を凌駕しさえする「ソビエッキ・ソユーズ」級と30cm砲9門を持つ巡洋戦艦「タシュケント」級であるが。このクラスの戦艦はヨーロッパで対独戦に使用されているために太平洋には存在しない。


 しかし、それでもソ連は充分と考えていた。ソ連の戦争計画は満州と南樺太を短期間で占領する計画だった。しかもこの内対日参戦はせず、樺太の方は3日で占領して武力紛争で片付ける魂胆だった。そうすることで強大な海軍力をもつ日本との直接対決を避けるつもりであった。


 満州へはやはり中国共産党への革命支援と人民解放を名目に侵攻する計画であった。もちろん、その狙いは同国の石油、石炭資源に優秀な工業技術であった。


 ソ連太平洋艦隊は満州への参戦以後は一気にウラジオストクに南下して、その航空打撃力と艦砲能力で沿岸部の満州国軍を攻撃し、さらには北上してくる義勇艦隊を迎え撃つ予定であった。


 この時点でソ連は満州国の戦力をかなり過小評価していた。特に、義勇艦隊へ日本海軍が艦艇を貸与しているという事実を全く掴んでいなかった。また満州国の陸空軍が独逸やアメリカ、イギリス製の兵器を購入して大増強を行っているのも断片的な情報でしか掴んでいなかった。


 そのため、ソ連軍の満州侵攻軍はカチューシャロケット等の歩兵支援兵器や砲兵の装備こそ最新だったが、戦車や空軍力では旧式装備をかなりの割合で含んだままであった。


 そして1945年8月6日。ソ連軍は突如として満州帝国に宣戦布告。それと同時に黒龍江を渡って雪崩れ込んできた。


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