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ウェーク島沖海戦 下

 船団の対空砲撃を見て、米軍機のパイロットは少しばかり驚いた。船団が予想以上の弾幕を張っているのである。


 旗艦である「有珠」をはじめ各艦はそれぞれ3門ずつの12,7cm両用砲を積んでいる。4艦合計12門。さらに中距離対空用火器の40mm連装機関砲が各艦3基6門で、4艦合計24門。そして短距離用として96式25mm機銃を改良した1式25mm単装機銃が各艦12挺ずつ、合計48挺であった。


 また、貨物船にも各船1門の12,7cm両用砲と、2基の40mm連装機銃、4基の25mm単装機銃が載せられていた。


 これら機銃や対空砲はさすがに後に米軍が実戦配備する近接信管はついていなかったが、最新の2式対空射撃指揮装置によって管制された。そのため、以前よりも若干ではあるが命中率は向上している。


 ちなみに余談ではあるが、日満ではそれぞれ近接信管の開発には成功したが、機銃に搭載できるほどの生産能力がなかったために、魚雷とロケット弾の弾頭にのみ使用されている。


 しかし確かに日満側の対空能力はそれなりに高かったが、米軍機を全て落とせる程の物でなければ、その攻撃を完全に止められる物でもなかった。やはり艦対空の戦いでは航空機に分があった。


 米軍は最終的に船団に襲い掛かった20機(戦闘機6機、艦爆14機)の内戦闘機1機と艦爆3機を失ったが、対空砲火を突破して投弾を行っている。


 護衛艦の1隻である「新京」では、空母「白虎」航海士から昇進の上転属した若き艦長の白根護大尉が懸命に操船を行っていた。


「右、弾幕薄いぞ!撃って撃って撃ちまくれ!!見張り員、各船の動きに注意しろ!戦闘中に衝突なんかしたら話にならんぞ!!」


 船団では回避運動を優先する方法ではなく、個々の距離をギリギリまで近づけて密集し、弾幕を密にする方法を採用している。こうすることで、敵機に弾幕を激しく見せて威嚇するのだ。


 もっとも、この方法では衝突の危険も高まる。そのため、操船には慎重に慎重を重ねる必要があった。


「船団旗艦右10度回頭!!」


「面舵10度。第2船速!!」


 旗艦の「有珠」の動きに従って船団各船は動く。護は速やかにそれにあわせる動きをするように命じる。ちなみに、第2船速とは18ノットのことだ。「新京」はもっと出せるが、貨物船にあわせている為に仕方がない。


 米軍機は約20機であるから、9隻の船団に対する空襲としてはそう大した物ではないといえる。それでも、「新京」のようなフリゲートでは爆弾、魚雷の1発が致命傷となりかねない。幸い敵機は艦爆だけで、積んでいるのも対地用爆弾であった。


 通常艦船攻撃には、装甲を破るために若干信管の起動を遅らせた徹甲爆弾を使用する。しかし対地用爆弾なら表面ですぐに爆発するために、艦船には効果が薄い。せいぜい上部構造物を吹き飛ばす程度だ。


 もっとも、致命傷とならないからといって当ててよい道理はないので、船団の各船はひたすら逃げ回る。


 空襲が始まって5分ほど立った時である。この時点では機銃掃射以外で損害を負った船はなく、爆弾は全て外れていた。しかし、米軍機はめげずに攻撃を仕掛けてくる。


「右舷、貨物船「大河」上空に敵急降下爆撃機2!」


 見張り員が絶叫する。今まさに敵ヘルダイバーが貨物船の1隻に投弾せんとしていた。


「右舷側対空火器は「大河」を掩護せよ!!」


 とは言うものの、恐らく間に合うまい。案の定、敵機は「新京」の対空砲が撃ち出す前に投弾を終えてしまった。


 2発の黒い塊が貨物船に向かって落ちていく。それを見ていた者はひたすら「外れろ!」と祈った。しかし、1発はなんとか回避できたが、もう1発は貨物船の前部甲板に命中した。


 ピカッと閃光が走り、次の瞬間には貨物船の前部甲板で爆発が起きた。


「しまった!「大河」に信号!被害状況知らせ!」


 直ちに発光信号が送られる。そして1分後返答がきた。


「「大河」より信号。我前部甲板に1発被弾するも航行に支障なし。火災発生するも、被害は最小限なり。」


「空船で助かったな。」


 今回貨物船はウェーク島への物資輸送を終えた後だったので、各船ともにその内部は空だった。もし弾薬か燃え易い燃料類を積んでいたら一発でアウトであった。


 結局、船団の被害はそれだけで何とか留められた。間もなく。


「敵機引き上げます!!」


 の報告が入り、船団の将兵は安堵の息をついたのであった。もっとも、指揮官たちは第二次攻撃が来るのを警戒した。しかし、ウェーク島と船団に対する攻撃は結局これっきりであった。


 米軍はこのウェーク島空襲を始めとして、その後タラワ等の諸諸島をヒットエンドランという飛び石的に空襲する予定だったので、空襲は一度きりだったのである。


 この攻撃で日本軍はウェーク島の基地機能を紛失し、航空機30機を失い特設潜水母艦1隻沈没、貨物船1隻中は、その他3隻が小破という損害を負った。一方の米軍は最終的に撃墜、不時着、着艦後の破棄機含めて損害は30機であった。


 この戦闘は日米両軍に大きなショックを与えた。まず日本側はウェーク島のような外洋基地の防御力の脆弱さを再確認することとなり、トラックや千島などの基地機能強化に拍車が掛かる事となる。


 一方の米軍は、日本軍基地と船団の対空火器の強力さに驚き、さらに自信を持って投入した最新鋭機で編成した攻撃隊の出撃機の3分の1が失われるという大損害にも驚愕した。これはやはりパイロットの腕がまだ充分ではなかったのが大きな要因だった。


 米軍は緒戦期に戦前からのベテランパイロットの多くを失っている。生き残ったパイロットも本土で訓練教官をするか、大西洋戦線に引き抜かれてしまったためにその数は少なかった。そのため、500機近い航空機を保有しているにも関わらず、パイロットの8割が実戦経験を有していなかった。


 この後数日間、米機動部隊は日本軍基地を飛び石戦法で攻撃するが、作戦全期間で100機近い航空機を失う事となる。米軍のパイロットの練度不足が解消するのは、昭和19年初頭に入ってからである。


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