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マレー沖海戦 下

「S6」潜水艦が発射した魚雷を最初に発見したのは、駆逐艦「テネドス」の見張り員だった。


「右舷に雷跡!!距離400!!」


 この時、ちょうど日の入り時であったために海面は夕日の照り返しによって見難くなっていた。そのため、魚雷の発見が遅れてしまった。


「取り舵一杯!!それと各艦に通達!!」


「テネドス」艦長は直ぐに命令をだした。しかし如何に俊敏な駆逐艦といえど、距離400mは近すぎた。45ノットで走ってきた魚雷はわずか15秒後には「テネドス」に到達した。


 鄭中尉が心配していた磁気信管魚雷はきっちりと「テネドス」の竜骨の真下で作動した。


 竜骨は船の背骨ともいえる重要な物だ。それが破壊される事は、船体の崩壊を意味する。「テネドス」は魚雷命中30秒後には船体が真っ二つに折れた。


 艦長の総員退艦を待つまでもなく、乗員たちは我先に海に飛び込んだが、沈没まで1分ほどしかなかったため、生存者は吹き飛ばされた2名、なんとか飛び込み、沈没の渦に巻き込まれなかった11名のわずか13名だった。


 もっとも、撃った側の「S6」にしてみれば、そんな惨状はわからないから、ただ魚雷の爆発音と艦艇の沈没音を聞いて命中を祝い、万歳三唱をしていた。


 この時被害を受けたのは「テネドス」だけではなかった。巡洋艦「エクゼター」も被雷した。ただ「エクゼター」の場合は一本のみであり、さらに爆発したのも信管の誤動作によって舷側であった。そのため、若干の浸水をうけたのみですんだ。


 2艦が被雷する光景を目の当たりにしたフィリップス提督は、ただちに残る駆逐艦に「テネドス」乗員の救助と潜水艦の捜索を命じた。


 しかし、ここで誤算が起きた。艦隊の残る駆逐艦は4隻、内1隻を救助に出すと残るは3隻である。艦隊を丸裸には出来ないから潜水艦攻撃に向かわせられるのはせいぜい1隻だった。


 その一隻にしても、艦隊陣形右側にいた駆逐艦は「テネドス」のみだったため、この時艦隊の左側にいた、そのため、分離させるのに時間を喰う事となった。


 主力艦偏重の艦隊編成が仇となってしまった。


 そんなことを知らない「S6」潜は、発射管室で水雷兵たちが汗だくになりながら魚雷の再装填を終えていた。


「艦長!魚雷再装填完了です!!」


「御苦労!!」


 驚異的とも思える速さで再装填を終えた水雷兵たちに労いつつ、鄭は再び潜望鏡を覗いて照準を定めた。


 この時、既に一回目の魚雷は命中していた。


 潜望鏡には「テネドス」の轟沈によって隊形を乱す敵艦隊の姿があった。


「ようし次の目標は空母だ!!4本前部きっちり当てろ!!」


 この時、艦隊最後尾を走っていた空母「フォーミダブル」がちょうど射線に入っていた。しかも、その後ろにいた駆逐艦は増速して前に出ようとしている。


「目標距離7200!!方位左に10度。速力15から20!!」


 管制版にデータが入力された。


 ちょうどこの時、ようやく分離を終えた敵駆逐艦がこちらに向かってくる所だった。


「急げ!!」


「艦長、入力完了です!!」


「発射!!」


 再び4本の魚雷が発射された。


「潜望鏡下げろ!!急速潜航!!深度100!!敵駆逐艦の動きに注意!!」


「メインタンク注水!!」


「トリム10!!速力8ノット!!」


 鄭の命令のもと、兵達が迅速に動き、艦は急速潜航に入る。タンクに水が入り、艦首が海底へと向けられる。


「深度15!!」


 深度計の針が回る。深度は直ぐに30まで達した。


「敵駆逐艦前方、近づく!!」


 聴音兵が狂ったように叫んだ。


「とにかく潜れ!!」


「S5」はひたすら潜る。


 数分後、爆雷攻撃が始まったが、音は遠かった。そしで20分後には完全に駆逐艦を巻くことに成功した。こうしてなんとか危機を脱したが、鄭たちは敵駆逐艦との格闘のため、戦果を確認することは出来なかった。







 この時の「S6」の戦果は翌日わかることとなった。


 早朝、英機動部隊を発見した山口中将の機動部隊は、見敵必殺とばかりに航空機による全力攻撃を行った。


 3隻の空母から合計124機の攻撃隊が発進した。


 攻撃隊隊長の村田重治少佐は敵の航空攻撃能力を殲滅するため、最優先で空母を狙った。しかし、そこで彼は思わぬ光景を目にした。


「おや?2隻しかいないぞ。」


 彼の目に入ったのは、2隻の空母だった。実は「S6」は見事空母「フォーミダブル」を撃沈していたのだ。その事実が日本側に知れた瞬間であった。


 攻撃隊は残る「インドミダブル」と「ハーミス」をあっという間に撃沈した。敵艦隊にあった防空戦闘機はわずか24機であったために、たちまち零戦に蹴散らされてしまい、おまけに護衛艦が不足していたため、日本機の跳梁を許した結果だった。


 さらに、戦艦「POW」も推進器と舵に魚雷が命中し、グルグルその場を旋回することしか出来なくなった。これではただの的である。


 航行不能の「POW」を「レパルス」が曳航しようと試みたが、そこへ今度はフィリピンからやってきた陸攻隊が攻撃し、留めを刺した。彼らは波状攻撃の末、「POW」と「レパルス」、そして巡洋艦の「エクゼター」を撃沈した。


 こうして、マレー沖海戦と呼ばれた海戦は日本側の大勝利で終わった。その糸口を作った「S6」潜は、後日連合艦隊司令長官から感状を戴くという栄誉に授かる事となる。


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