表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/88

敵艦発見!!

 

 この当時、張学良軍には小規模ながら艦艇を保有する部隊が存在した。その大部分は内陸部での使用を前提にされた河川用砲艦であったが、わずかではあるが外洋航行可能な艦艇も存在した。


 これらの艦艇の内、内陸部にあった艦艇は清朝政府軍や関東軍によって拿捕され、武装解除されている。しかしながら渤海の港に停泊していた数隻の外洋航行可能船は、事変が勃発すると錨を上げて緊急出港した。


 今回、出撃した2隻に下命されたのは、これら脱出した張学良軍の艦船が渤海から脱出し、蒋介石軍と合流することの阻止であった。つまり、渤海の封鎖である。


 そんな中、臨時旗艦となった「流星」の小さな艦橋では、大貫司令が先任士官の黄上尉と話し合っていた。


 ちなみに、黄は名前のとおり中国(支那)系で、日本領台湾の出身である。彼は志願兵として海軍に所属した経験があり、それを買われて今の役職についた。


 現在、大亜細亜造船では社内共通語として日本語を採用している。これは社員の割合が、未だ日本人の方が多いからだ。


 ただし、中国系や朝鮮系などの所謂外国人従業員も増えており、中国語、朝鮮語の使用ももちろん認めているから同族同士の会話では普通にそういう言葉が使われている。


 また、社内では簡単な挨拶がお互い出来るよう、日本人・朝鮮人・中国人それぞれに簡単な会話を紹介する授業も行われている。


 同じ会社の社員である以上、ある程度の意思疎通は必要不可欠であった。


 一方で、今回出撃した2隻の艦艇の乗員の9割が日本人である。これは日本語で、しかも海上任務で必要な専門用語を喋れる人材が、外国人にはまだまだ少ないからだ。加えて外国人には船を操れる人材が少なかった。


「敵はいますかね?」


 黄が大貫に聞いてくる。


「わからんな。情報では渤海に何隻かいるのは間違いない。しかしだ、いくら渤海が狭いとはいえ、2隻で敵を探すには広すぎる。せめて航空索敵でもできればな。」


 レーダーもないこの時代、敵を探すには見張り員の視力のみが頼りであった。しかし、それでもって敵艦を発見するのは中々難しい。艦隊ならともかく、相手は独行の艦船である可能性が極めて高いからだ。


 渤海は狭い海ではあるが、海には違いない。大海原では船など小さな点でしかない。肉眼でしか探せないとなると、その難易度は高い。


 かと言って、大貫の言う航空索敵は無い物ねだりでしかなかった。二隻には航空機の塔載設備などないし、大亜細亜造船やその子会社でも保有している航空機はわずかで、いずれも輸送機だ。外洋の索敵は期待できない。


「まあ私としては、敵を見つけられれば御の字と思っているがね。この時期の出撃にそもそも無理がありすぎる」


 大貫がそんな事を言った。


 彼は今回、実は出撃するのには反対の立場であった。


 戦隊の練度は極めて低く、戦闘などまだ無理だと彼は思っていたからだ。また、不足しているのはそれだけではない、武装を大して装備していないのもそうだが、何よりも士官クラスの乗員や、戦闘に関しての造詣を持っている者が圧倒的に不足している。


 これはもちろん、その手の人間は海軍で士官教育を受けたような者でないと勤まらない。しかし、そうそう上手い具合に退役士官を雇えるわけがない。


 軍縮などで、確かにリストラが発生している海軍ではあったが、だからと言って満州と言う辺境の造船会社に就職してくれる物好きは少なかった。


 大貫にしても、帝国海軍時代に少尉にまで任官したものの、士官学校(海軍兵学校)の教育は受けていない叩き上げの特務士官だ。彼の歳が50という年齢を見てもわかる。


 また、黄にしても帝国海軍に籍を置いていたのは間違いないが、その経験は水兵のみであるから、作戦立案等の幹部としての能力は、大貫や白根が教えた急ごしらえの物しか持ち合わせていない。


 だからこそ、大貫としては今回戦闘には乗り気ではなかった。


「せめて後3ヶ月は訓練が必要なのだ。」


 それが彼の正直な感想であった。


 それでも、彼は雇われ身分であるから、行けと言われれば行かねばならない。


 そして出撃後迎えた9月15日。無線室には次々と関東軍や清朝亡命政府軍の動きが伝わってきた。しかし案の定、張学良軍の動きに関する情報は陸上の物に限定された。


「情報はこないか。」


 それを知って、大貫はため息をついた。


 今回の出撃期間は6日間である。燃料はなんとか手配したが、食料等の物資が間に合わなく、それだけしか行動できない。そのため、どんなに粘っても19日には帰還せねばならない。


 もっとも大貫にはそれでも良いという考えがあったが。経験を積むだけでも彼にしてみれば万々歳だ。


 とにかく彼らはそれまで訓練を繰り返しつつ渤海で行動を続けた。しかし、何度か接触した船はいずれも民間船であった。


 状況が大きく動いたのは、18日であった。その日正午前、ついに見張り員がそれらしい船影を捉えた。


「船影発見。本艦前方。距離は18000から200000。数2。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ