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千島列島海空戦 下

「全艇機関最大船速!!敵艦隊に突撃せよ!!」


 命令と共にマストに突撃を指示する旗が上げられる。


 各艇はエンジンの出力を最大にする。


 義勇艦隊と海上護衛総隊の使用魚雷艇は同型で、最高速度は42ノットを誇る。凄まじい高速のために艇の前が持ち上がる。


「魚雷戦用意!!」


 それとともに有坂は信号弾を空中に向けて発射した。全艇に陣形の変更を伝える物だ。


 それまで単縦陣で走っていた4隻はまず傘型に隊形を移行する。


 一方、米艦隊も魚雷艇隊の接近に気付いたらしい。迎撃の為駆逐艦が主砲を発射し始めた。4隻のまわりに水柱が立つ。


「ひるむな!!40ノットで走る魚雷艇にそうそう当たるか!!」


 むしろ怖いのは砲より機関砲だ。機関砲なら多数の砲弾を短時間でばら撒ける。魚雷艇の船体には装甲など無いから1発の被弾が命取りに成りかねない。


「肉薄しろ!!目標、前方の駆逐艦!!」


 敵の迎撃の凄まじさから、とてもではないが戦艦までは近づけそうに無かった。有坂は生還と攻撃成功の可能性を高める為駆逐艦に目標を定めた。


「鄭上等兵、前部機関砲を撃ちまくれ!!」


 この時には、敵艦から40mmや12,7mm機関銃の発射が始まっていた。時折弾が空中を裂く音や、船体に当たるような音がしてくる。


 彼はそれに少しでも対抗するため、前部の40mm機関砲の発射を命令した。


 もちろん、これで敵を撃沈しようというわけではない。あくまで露出している機関砲等への牽制だ。


「距離7000!」


 測距儀で距離を測っていた宇都宮准尉が報告する。


「まだだ。5000まで突っ込め!!」


 陸上では5000はかなり距離があるが、海上の砲戦では目と鼻の先である。危険を冒してまでその距離に迫らなければいけない理由が彼らにはあった。


 実は、彼らが使用している魚雷は日本の誇る酸素魚雷でも、オーソドックスな空気魚雷でもなかった。彼らが使用していたのは電池魚雷であった。


 これは日本海軍が開発した92式電池魚雷の改良型である。本家の魚雷は電池魚雷としては性能優秀で、同時期のUボートが使っていた電池魚雷よりも優れていた。しかし、日本の潜水艦艦長からは嫌われていた。


 理由は単純だ。それよりも優秀な酸素魚雷が出来てしまったからだ。速度も速く、場合によっては戦艦や空母にも致命傷を与えられる酸素魚雷を誰もが使いたがった。


 しかし商船相手なら電池魚雷で充分である。それに信頼性や安全性、採算性も良い。実際に日本の潜水艦艦長の中にもその有用性を認める者もいた。しかし、そうした人間は本当に少なく、結局92式酸素魚雷はほとんどの人間から忘れられてしまった。


 それに目をつけたのが義勇海軍で、帝国海軍から買取してさっそく改良に移った。ヨーロッパから亡命した科学者に応援を要請して、より強力な電池を開発し搭載した。


 結果、最高速度を40ノットまで引き上げた。しかし、電池魚雷の致命傷ともいえる足の短さだけはどうにもならず。40ノットでの航続距離は6000mしかない。そのため彼らは5000mまで肉薄する必要があった。


「距離6000!」


「後1000mだ!!がんばれ!!」


 操舵手は敵の砲撃を撹乱するために蛇行航行を繰り返す。


「距離5500!」


 5000につくまでがとてつもなく長く感じられる。乗員の誰もがそう思った。休憩時、誰かが「俺たちは水上を疾走する雷撃機ですな。」と冗談を言っていたが、あながち嘘ではないかもしれない。もしかしたらそれ以上にきついかもしれない。


 しかし、彼らはまだ幸運から見放されてはいなかった。この時点で脱落艇は0だったからだ。


 そして、ついに。


「距離5000!!」


「発射!!」


 雷撃手が発射スイッチを押した。


 魚雷艇の魚雷発射管は火薬を使った発射方式である。発射した瞬間には炎と硝煙が出る。


「減速!取り舵一杯!!」


 有坂は回避運動に入った。減速するのは魚雷を追い抜いてしまうかもしれないからだ。


 この瞬間がもっとも危険な時である。敵に腹を向けるからだ。幸いにも有坂の艇は大丈夫だった。


 発射を済ませた2,3号艇も同様に反転離脱した。


 しかし、最後の4号艇だけはそうはいかなかった。4号艇は敵に腹を向けた瞬間に集中射撃を浴びてしまった。そして、その内の一発が燃料タンクに命中し、次の瞬間には大爆発を起こして四散した。


「4号艇がやられました!!」


 その報告にも有坂は気にしている余裕はなかった。自分たちが脱出できるかもわからないからだ。


 そして魚雷発射から凡そ一分後。


 グワーン!!という鈍い爆発音がした。命中である。そして一瞬敵の砲火が薄くなった。その瞬間を逃がさず、有坂艇以下2隻はなんとか脱出できた。


 だが、結局どのような戦果を上げたかはわからなかった。


 彼らに戦果が伝わったのは翌日である。4号艇の乗員救助に向かった魚雷艇からの物で、敵沈没艦の乗員を救助したという事だった。


 その捕虜への尋問の結果、命中魚雷はどうやら3発であったようで、その全てが駆逐艦に命中していた。16発の中の3発だから、初陣にしては決して悪くない成績である。命中した隻数は2隻で、内2発を喰らった方が沈没したようだ。


 ちなみに、これは戦後わかったことだが、もう一隻も大破し航行が難しくなったため、ソ連の港に逃げ込み、そこで接収されることとなる。


 こうして、一矢報いた魚雷艇隊だったが、電池魚雷の航続力不足や少数での襲撃の困難さ等の今後の戦闘の困難さを物語る戦訓も得ることとなり、そのために尊い12名の犠牲者を出さなければいけなかった。


 御意見などをお待ちしています。

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