南鳥島沖海戦 衝突編
敵機動艦隊発見の方に、「白虎」の艦橋は一気に慌しくなった。
「敵空母2隻だと!!」
この続報に八島の表情が一気に厳しくなった。もし敵が正規空母が2隻いるなら、少なくとも160機から200機の艦載機を積んでいる可能性が高い。そうなると、42機しか搭載していない「白虎」では太刀打ちできない。それ以前に、敵の巡洋艦に捕まって航空機を発艦させられないまま撃沈されるという最悪の事態もありえる。輸送船団の足が遅いためだ。
「とにかく敵艦隊から離脱せよ!!それと航空隊の発艦急げ!!」
今はそれ以外言いようがなかった。しかし、八島達の危機感とは裏腹に、米機動部隊も大混乱に陥っていた。
この米機動部隊はドーリットル中佐率いる特命爆撃隊のB25爆撃機を搭載していて、日本本土へ奇襲爆撃する予定であった。
この時の米空母戦隊は「ホーネット」と「ヨークタウン」の大西洋艦隊から転属してきた2隻から編成されていたが、このうち「ホーネット」は日本本土爆撃用として搭載された16機のB25爆撃機を甲板に満載していたため艦載機の運用が不可能になっていた。
また、僚艦の「ヨークタウン」もまさか日本艦隊と接触するなんて考えていなかったから即時発艦可能な機体は直援用のF4F「ワイルドキャット」と対潜哨戒用のSBD「ドーントレス」がそれぞれ数機ずつ以外なかった。
艦隊司令官のニュートン中将は、ここで致命的なミスを犯してしまった。もしそのまま直進し突撃していたら戦力で圧倒する米軍が勝利していただろう。しかし、彼は奇襲の失敗を悟ると一応敵艦隊攻撃準備の命令こそ下令したが、そのまま撤退に移ってしまった。
ニュートンはあまりに慎重すぎた。もしこれが猛将と呼ばれたハルゼー中将なら躊躇することなく突撃していただろうが、彼はマーシャル諸島沖海戦で戦死していたため、そのようなことは実現しなかった。
もしこの時ニュートン中将が偵察機を出し、日本艦隊が義勇艦隊と輸送船団であると確信していれば歴史は変わっていたかもしれない。
両軍ともお互いそのような事情はわからないまま、距離を大きく取るために針路を変更した。
そんな中で、最初に米機動艦隊を視認した巻田准尉の97艦攻はSBD艦爆の追跡を逃れるために低空にあった雲の中へと逃げ込んでいた。
「敵機見当たりません。」
最後尾の桜井二等兵曹が伝声管で報告してきた。
「なんとか撒けたな。」
SBDを撒いた事に安堵する巻田。
「ええ、敵機が近寄ってきた時は一瞬冷や汗をかきましたよ。」
後席の臼井兵長も伝声管越しに言う。
「ようし、雲から出たら母艦に一端帰投する。」
彼の機体には今爆雷しか積んでいなかった。これでは敵艦を攻撃する事は出来ない。一端帰投して魚雷か爆弾を積みなおさねばならなかった。
しかし、数秒後雲から出た彼らの目の前に現れたのは、撤退するために急速回頭中の敵空母であった。
「うわ!!どうして!?」
巻田が驚きの声を上げた。どうやら雲の中を飛行しているうちに針路を誤ったらしい。
一方驚いたのは米艦隊も同様である。突如として日本機が雲の間から現れたからだ。そして唖然とした彼らは対空砲を撃つ命令をしばし出せなかった。
空白の時間が生まれた。
「ええい!一か八かだ!前方の米空母を攻撃する。」
巻田は偶然にもドンピシャで射線上にいた空母に狙いを定めた。それは「ホーネット」だった。そしてこの時、巻田は爆弾を捨て忘れていた事に気づいたのだった。
「よーい、撃て!!」
絶好のタイミングで投下レバーを引いた。
積まれていた60kg爆弾2発が投下される。そして2発とも甲板上にあったB25に直撃した。命中しても爆雷であるから爆発しないはずであった。しかし、この時B25は長距離爆撃用に燃料タンクを増設していた。爆雷はそのタンクを破損させ、ガソリンが甲板上に流れ出した。
何が原因で発火したかはわからないが、数分後「ホーネット」の甲板は大火災となった。もれたガソリンに加えて、残ったB25にも引火したからだ。
これによって、「ホーネット」は最低3時間は航空機の運用が不可能となった。
「敵空母炎上!!」
戦果確認した桜井が報告する。
「嘘だろ・・・・」
攻撃した本人さえ信じられない大幸運だった。
こうして巻田の一か八かの攻撃は大成功を収めた。しかし、巻田機の幸運もここまでで、その後敵艦からの猛烈な対空砲火を受け撃墜されている。
乗員の内2名は後に救助されたが、その中に機長である巻田の姿はなかった。
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