南鳥島沖海戦 遭遇編
「左舷30度船影!!日本の特設監視艇の「第23国東丸」と思われます。「国東丸」より信号。貴船団の安全を祈る!!」
見張りの兵士が左舷に現れた小型艇を見ながら言った。
「「第23国東丸」に返信。信号感謝す。貴艇の任務の安全を祈る!!直ちに信号!!」
八島少将の命令は直ちに信号所に伝えられ、「白虎」から「国東丸」に発光信号がなされる。
「日本の哨戒圏の一番外側にまで来ましたね。」
航海士の白根護中尉が言う。
「ああ。ここより先は我々にとっても未知の領域だ。気を引き締めていかねばな。」
義勇海軍ではこれまでにここより以西へと行ったことのある部隊、艦はない。彼らが初めてである。
「そうですね。しかし、まだ日本軍の聖域ですから潜水艦以外に脅威はないでしょう。」
しかし、そうやって八島が余裕を持って話をしていられる時間はほんの20分ほどしかなかった。
20分後、それを捉えたのは水上電探だった。
「中尉!水上電探に感あり。」
レーダー室で対水上用レーダーのスコープを覗いていた滝川兵曹長が報告してきた。
「何!?」
電探室室長のカン中尉は滝川兵曹長が除いているスコープを覗く。確かに、円形のスコープ上を回転する線が複数の光点を映し出していた。
亡命ユダヤ人科学者を優遇して採用している大亜細亜造船電気部では、帝国海軍よりも優れた電探の開発、生産に入っていた。その結果彼らは最新鋭のレーダーを扱っている。
カン中尉は部下からの報告を自分の目でも確認すると直ぐに艦橋へ報告をあげた。
「何!?電探に反応だと!?」
「は!自分も確認しましたが間違いありません。確かに船団の前方45km先に複数の艦影らしき物を捉えました。」
電話をとった新任の副司令官、橘渡大佐は直ぐに八島司令に伝える。
「司令官。電探室より報告、船団前方45km地点に複数の艦影らしき物を確認したとのことです。」
「何!?おい白根航海士、今日この付近を通る日本の艦隊、もしくは船団があったか?」
八島が護に訊ねる。
「いいえ、それはないはずです。」
護はそんな報告を受けた覚えはなかった。艦橋内のスタッフに、まさかという想いが走る。
「司令官、だったら船団上空を飛んでいる対潜哨戒機に確認させましょう。飛行機なら40kmは目と鼻の先です。」
提案したのは飛行長のチェ少佐だった。現在船団付近には対潜哨戒の97式2号艦攻が3機いた。
「よし、そうしてくれ。それと万が一に備えて艦隊ならびに船団に戦闘配置発令!!船団は一時進度を北へ向け離脱を図る。航空部隊は直ちに対艦兵装にて出撃準備せよ!!あと、戦闘機隊の内適当な数を直掩として上げてくれ!!」
「「「了解!!」」」
命令と共にスタッフが動く。
発光信号で各艦に命令が伝えられる。命令を受けた艦船ではただちに乗員が戦闘配置に就き、変針する。艦上では将兵達がヘルメットを被り、救命胴衣を着け持ち場に就き砲を操作する。
続いて対艦攻撃準備が発令された。「白虎」でも整備員たちが急いで魚雷や徹甲爆弾を弾薬庫から引き出して台車で運び、97艦攻に装着する準備にかかる。
一方、前方索敵を命じられた97艦攻は直ちに指示された進路へと機首を向けた。
その搭乗員たちは命令をうけたものの半信半疑だった。まさかこんな所にアメリカの艦隊がいるとは思えなかったからだ。
「機長、本当に敵がいるんでしょうかね?」
航法員の臼井兵長が伝声管越しに機長の巻田准尉に聞く。
「さあな。」
巻田准尉としても、このまま突き進めば日本本土という海域に大胆にもアメリカ艦隊が出撃するとは信じがたかった。
しかし、7分後。彼らは現実を見た。
「そんな馬鹿な・・・・」
ありえないという表情をしながら巻田准尉は呟いた。
平甲板を持った2隻の大型軍艦を中心として、複数の巡洋艦と駆逐艦からなる艦隊が彼らの視界内にあった。
2隻の大型艦は間違いなく空母だ。しかも、「白虎」のような改装艦ではない。正規空母だ。おそらく「ヨークタウン」級だ。
「桜井!艦隊に緊急打電!!目標は敵艦隊、空母2、巡洋艦5、駆逐艦5以上見ユだ!!」
「了解!!」
無線主の桜井2等兵曹が急いで打電する。だが、打っている途中で臼井が叫んだ。
「後方に敵機!!」
巻田が後ろを見ると、後ろに回りこんでくる敵機が見えた。アメリカ海軍の艦爆であるSBDドーントレスのようだ。機首に7,62mm機銃を備え、こっちよりも優速で旋回性能も高い。このままではやられてしまう。
「回避するぞ!!」
敵機を巻くためにエンジンをフルスロットルにして、彼は機を海面スレスレにまで降下させた。
こうして、後に南鳥島沖海戦と呼ばれた戦いは始まった。