空撃!!アジア艦隊
「日本機と思われる編隊、接近中!!」
装備されたばかりの対空レーダーが航空機の編隊を捉えた。
現在米アジア艦隊の司令官であるハート中将は真珠湾に呼ばれているため、艦隊の指揮は「ヒューストン」艦長のルックス大佐が兼任して執っていた。
彼はその後報告された敵機の方位から、午前中に陸軍爆撃隊が発見した敵機動部隊の艦載機と推測した。
「対空戦闘用意!おそらくそいつらは陸軍の爆撃隊を壊滅させた奴らだ。だが我々海軍にはそう簡単に手出しできないことを見せてやれ!!」
「オウ!!」
士気を上げるために言った言葉に、乗員たちは力強く答えた。アジア艦隊の将兵の士気は高かった。
(だが、我々の対空火力で大丈夫か?)
実のところルックス大佐は内心では不安だった。
この時、米アジア艦隊の陣容は重巡「ヒューストン」、軽巡「マーブルへット」、「ミルウォーキ」、平甲板型駆逐艦7隻からなっていた。
しかし、これらの艦艇の対空兵装は後に針鼠とまで呼ばれた米軍艦艇の対空火器に比べると、お粗末なほどに貧弱だった。
どの艦も申し訳程度の対空砲や対空機銃しか装備していなかった。旗艦である「ヒューストン」が一番忠実していたが、それでも少ない。この時期まだまだ航空機への評価は低かったのだ。
もちろん、貧弱だから対空戦闘をしませんなどとは言ってはいられない。兵士たちは対空戦闘の命令が下ったからには、装備された対空砲や対空機銃に次々と仰角をかけて空を睨み、弾薬を装填する。
そして、凡そ10分後。北の空に航空機の編隊が現れた。
攻撃隊隊長の藤堂兵五郎大尉は前方洋上を走る艦艇を視認した。辺りを窺うが、情報どおり敵戦闘機の姿はない。
「隊長機から全機へ、艦攻隊の目標は敵巡洋艦だ!!戦闘機隊は露払いとして駆逐艦の動きを抑えろ!!各機突撃隊形作れ!!」
無線交信の後、彼は合図の信号弾を上げた。
合図と共に、各部隊は一斉に動いた。戦闘機隊は先陣を切って敵艦隊に突っ込む。艦攻隊の内雷装した部隊は低空に舞い降り、爆装した部隊は綺麗にV字を作って飛ぶ。
義勇艦隊では重視されるのは対潜攻撃や対地攻撃であるが、万が一に備えて対艦攻撃も訓練してきた。もちろん、訓練時間そのものは少ないから帝国海軍の航空隊に比べれば劣る。だが、現在の状況(相手が中小艦艇ばかりで数も少ない)で言えば充分な練度を維持していた。
「攻撃開始!!」
最初に攻撃を開始したのは「飛龍」戦闘機隊であった。
今回「飛龍」は20mm機銃のポッドではなく、250kg爆弾を2発もしくは60kg爆弾を4発装備していた。爆弾が違うのは予想される対地攻撃のために温存されているからだ。
「ファイアー!!」
一方、米艦艇も対空戦闘を開始したが、日本機の編隊は予想に反して単縦陣の後方を走る駆逐戦隊に襲い掛かった。
「何!!」
驚く米海軍将兵を尻目に、「飛龍」は爆撃を始めた。もっとも、まだこの時点では反跳爆撃機は開発されていなかったので、普通に緩降下爆撃するだけである。しかも、相手は高速で走り旋回性能も高い駆逐艦であるから簡単には命中しない。
結局、「飛龍」隊の爆撃は全て空振りに終わった。
一方で、その後突っ込んだ96式艦戦の部隊も同様に緩降下爆撃を行ったが、このうち4発の60kg爆弾を2隻に命中させた。この結果1隻は魚雷発射管が損壊。もう1隻は艦橋に直撃したため戦闘不能になった。
戦闘機隊がそうした戦果を上げたころ、艦攻隊も巡洋艦への攻撃を開始した。
藤堂隊長機は今回爆装であるから、水平爆撃を行う。
照準主が照準器を除きながら、高速で走る「ヒューストン」に狙いを定める。時折機の周りで対空砲弾が炸裂するが、幸い直撃はしない。
「用意!!撃て!!」
隊長機の合図と共に、後続する機体も投下する。
800kg爆弾が「ヒューストン」目掛け落下していく。
藤堂は機がその場から急速離脱するために直ぐには戦果を確認できなかったが、数分後「ヒューストン」を見たとき、盛大に黒煙を吐いていたため、命中を確認できた。それとともに、97艦攻が1機欠けているのもわかった。
水平爆撃隊は知らなかったが、800kg爆弾は「ヒューストン」の前部砲塔を直撃していた。
1番砲塔は完全に損壊、2番砲も爆圧により砲身が変形し使用不能になった。また艦橋ではガラスが吹き飛び、負傷者が出た。
弾薬に引火しなかったのは不幸中の幸いであった。しかし、火災が後部に流れたため、対空砲は照準が出来なくなった。
その隙を、艦攻隊に「ヒューストン」はつかれてしまい4本の魚雷を受けてしまった。さすがに重巡といえど、4本も喰らってはお終いである。
ルックス大佐は総員退艦を命令した。
だが、アジア艦隊への攻撃はこれだけでは終わらなかった。義勇艦隊の編隊が去った直後、新たな航空機が北の空に出現した。
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