米爆撃隊壊滅!!
「上空より敵機!!数6!!」
機銃員であるウォーレス曹長が伝声管越しに報告してくる。
B18を操縦する爆撃隊隊長のトマス・A・ポート中佐はそれに対し、余裕の表情で答えた。
「落ち着け!ジャップの飛行機など紙飛行機だ!返り討ちにしてやれ!!」
この時期、アメリカを始めとする欧米諸国は日本側の兵器を過小評価していた。特に空軍力はその筆頭であった。中には、「日本の飛行機は竹と木で出来ている」等と言う冗談みたいな言葉を信じている人間までいた。
さすがに、軍上層部はそこまで見下してはいなかったが、それでも機体の性能は欧米の機体と7割程度でいい所イタリアと同等と見ている人間が多かった。また、人種的に日本人はパイロットに不適格とも考えていた。
ポート中佐も今自分たちを襲ってくる敵機も識別帳に乗っている96式戦闘機、クラウドだと考えていた。
彼はその96式艦戦をオランダのフォッカーのコピーで、原型機の性能にさえ達していないと信じていた。
だから、今となっては旧式となったB10や性能的に劣るB18でも大丈夫と考えていた。
しばらくして、7,62mm機銃の発砲音が響き渡った。
(これで何機かは打ち落としたな。)
しかし彼の予想を裏切り、ウォーレス曹長の絶叫が伝声管から響いてきた。
「5,7番機がやられた!!」
「何!?」
信じられなかった。
「馬鹿な日本機にやられたのか!?」
すると、ウォーレスから意外な報告が入ってきた。
「敵機は引き込み脚でスマート。主翼には20mmクラスの機関砲を積んでいる模様。7番機は木っ端微塵に吹き飛びました!!それに、国籍マークはミートボールじゃない。見たことも無い奴だ!!」
アメリカは満州をまだ承認していなかった。そのため、充分な情報を兵士たちに渡していなかった。そのツケを、最前線の兵士たちが払わされることとなった。
「隊長機から全機へ、編隊を密集させ機銃の密度を上げるんだ!!敵機はたった6機だ!!焦るんじゃない!!」
しかし、やはり防御火器の少なさがあだになった。密集しても防御に穴が開いているし、さらに敵機はその穴をついてきた。
「8番やられた!!あ!13番も煙を噴いている!」
そして、さらに悪いことは続く。
「前方に新たな敵機!!」
副操縦士のエドワード少尉が叫んだ。
ウォーレスにも、前方から接近してくる6機の敵戦闘機が視認できた。
「く!!」
操縦桿を左に回して回避運動に入ったが、爆弾を積んでいるためそこまで機敏な動作は出来ない。そうこうしているうちに、敵機の発砲音が響き渡った。
ガンガンガン・・・・・
着弾の衝撃が伝わる。
敵機とすれ違った瞬間、彼は見た。敵の主翼に描かれた5色の国籍マークを。
「クソ!!どこをやられた!?」
「左エンジン被弾!停止!火災発生!もう長くは持ちません!!」
エドワードの言ったとおり、左エンジンは凄まじい炎を吹き上げていた。燃料タンクに引火するのも時間の問題だ。
「やむえんな、全員機を捨てて脱出だ!!」
ウォーレスたちは非常口から脱出する。
体が空中に投げ出され、しばらくしてパラシュートを開く。
空中を漂う彼らが見たのは、次々と追い立てられ敵機に撃墜されていくB10やB18の姿だった。
「これじゃあまるで訓練飛行だ!」
この日3機目の戦果を上げた佐伯氷室少尉がつぶやいた。
米軍爆撃機は武装が貧弱で、しかも動きも鈍かった。味方は次々と敵機を撃墜している。
「戦闘機がいたり、相手がB25やB17だったらこうはいかなかっただろうな。」
彼はそう言ったが、事実そうだった。
もし、これが武装もあり、動きもそれなりのB25や防御装甲に優れたB17では96式艦戦を含んだ義勇艦隊艦載機では苦戦していただろう。今回の勝ち戦は偶然による所が大きいと言っても過言ではないだろう。
空戦は収束に向かいつつあった。敵機の多くは撃墜され、生き残った機体は爆弾をすて遁走していた。
「全機へ、敵機は遁走した。深追いはするな、帰還せよ!」
彼は無線で命令すると、自らも機首を艦隊へと向けた。
その命令を聞いていた中には、加古芳江伍長の姿もあった。
「お、終わった。」
彼女は今回が初陣であったが、戦果は敵爆撃機1、共同撃墜であった。無事戦闘を切り抜け、ホッと安堵のため息をつく芳江。と、そこへ。
「加古!何している?帰還だぞ!!」
隊長の野乃原楓准尉の声が無線越しに伝わってきた。
「は!はい!」
「そう気張るな。今回は良くやったぞ!」
隊長に褒められ、彼女は嬉しくなった。
「ありがとうございます。」
「全機へ、帰還せよ!!」
この戦闘で、米軍側は爆撃機22機を失い事実上敗北を決した。対し、義勇艦隊は紛失0の被弾4であった。
この勝利によって、艦隊内の士気は大いに盛り上がった。また、芳江ら初陣のパイロットに貴重な実戦参加の機会を与えたのであった。
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