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決戦のとき迫る

 日本の対米通告期限の迫った11月20日。義勇海軍の母港である旅順には、艦隊の主力艦艇が集結していた。


 改装を終えた航空母艦「白虎」、「紅虎」。創設以来の主力艦である「流星」級駆逐艦。開戦を間近にして武装を強化した「大洋」級コルベット。竣工して間もない「奉天」級フリゲート。そして3隻の潜水艦や沿岸警備の魚雷艇も勢揃いしていた。


 艦隊や部隊、戦隊司令官、そして各艦艇の艦長や艇長が、この日桟橋の側に建てられている義勇艦隊総司令部の大会議室に集まっていた。彼らの視線は総司令官である白根に注がれていた。


 この数日前、白根総司令官は正式に大将に就任し、義勇艦隊独自の物である空色の制服の肩章と襟章には大将を表す3つの星マークが誇らしく付けられていた。


「諸君。いよいよ戦いの時が来た。12月8日までに大日本帝国がハル・ノートに対する対米通告を行わない場合、安全保障条約を結んでいる我が満州国も同時にアメリカと戦争状態に入る。米国を仮想敵にしての作戦計画については、かねてより日本海軍と協議してきたが、我々はその作戦計画に沿って行動を起こすこととなるだろう。」


 この一言で、場はざわめく。ちなみに、安全保障条約とは、日満協約の翌年に結ばれた物である。


「なお、艦隊編成については、戦時体制へ移行するため第一艦隊を編成する。司令官には木村中将に就いてもらう。木村中将。よろしく頼むぞ。」


 髭のショーフクと部下たちから親しまれている木村中将が立ち上がり、そして白根に向かって敬礼した。


「は!全身全霊をこめて働く所存であります。」


 平時、義勇艦隊の任務は国境警備や密輸取締り、行っても他国からの要請に従っての人命救助や海賊退治であるから戦隊や個艦単位での行動はあっても、艦隊単位で動くことは稀である。かつて日本海軍の連合艦隊が戦時のみに編成されていたのと似ている。


 もっとも、あくまで艦隊を組むのは指揮上のことであって、実際には船団護衛任務などを主任務にするので、臨機応変に戦隊や単艦での行動も考えられている。


「それでは諸君。手元の書類を見て欲しい。それぞれの行動計画が書かれているはずだ。よく確認しておいて欲しい。」


 会議出席者が、手元に置かれている封筒を開き書類を取り出す。


 これら書類は、もちろんそれぞれ内容は違う。ほとんど平時と同じ事が記されていて、内容がないのは魚雷艇部隊と基地警備部隊だ。


 司令官である金少校と綾崎少校もあらかじめそれを予想していたから、特に不満などはない。この2部隊は防衛用部隊であるから、外に出て行く任務などはない。強いて言うなら、スパイや工作員への対策を強化するぐらいだ。もっとも、それは開戦時だけになるのだが。


 一方、それとは対照的に深刻な顔をしているのは第一艦隊司令官の木村中将と、第一航空戦隊司令官の八島少将だ。


 この二人がそのような顔つきになったのは、後々判明することとなるだろう。


 また、二人ほど深刻ではないものの、それなりに顔をしかめた者もいた。各練習部隊司令や補給担当部隊の司令官である。彼らは戦時になったら、必然的に忙しくなる。練習部隊は短期間に多数の兵士を育てねばいけないし、補給部隊も大量消費する物資の輸送を請け負うこととなるからだ。


「なお、質問がある者は今のうちにするように。」


 白根のその言葉に反応するように、複数の人間が手を上げた。


「大貫大校。」


 最初に発言を許されたのは第一戦隊司令官の大貫大校であった。


「私は、日本海軍との共同任務を行うこととなりましょうが、その場合、指揮系統はしっかり守ってもらえるのでしょうか?日本海軍内では、我々を敵視し見下していると聞きますが。」


 彼の言葉に、他の人間も頷いた。


 義勇海軍はこれまでに幾つかの戦果を上げてきたが、それでも日本海軍はあくまで彼らは見掛け海軍であるという見方をしていた。もちろん、全員が全員そういうわけではないが、大方の見方はそうであるとされていた。


 協定上義勇艦隊と日本海軍が共同任務を行う場合は、どちらの軍にも関わらず、先任指揮官が指揮を執ることとなっている。しかし、それが守られないのではという不安が義勇艦隊内には存在していた。


「私としては、一応豊田海軍大臣や山本連合艦隊司令長官のお墨付きを取り付けてあるとだけ言っておこう。だが万が一そのような事態に陥った場合はその場の臨機応変な指揮を執ってもらう以外にないとしか答えようはない。」


 この2週間前、白根は日本へと飛び、直接豊田副武海軍大臣や山本五十六連合艦隊司令長官と話をつけてはいた。だが、前線指揮官一人一人がそれを遵守するかは彼自身、甚だ疑問であった。


 だが、彼らとしてはそんなこと起きて欲しくはなかった。仲間を疑うようでは、戦争は覚束ないと考えていたからだ。


 白根はその後幾つかの疑問に受け答え、それを終えると会議を締めくくる形でこう言った。


「それでは諸君の健闘を祈る。だが、決して死んではいかんぞ!!」


 御意見等を募集しています。どんなささいなことでもかまいませんので、よろしくお願いします。

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