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昼下がり

 

 港に向かった白根は、今度は魚雷艇隊や潜水艦部隊の視察を行った。


 しかし、魚雷艇は一番出動率の高い部隊で、この日も港に残っていたのは1隻のみだった。そのため、魚雷艇部隊の視察は早々と終わり、次に潜水艦部隊の視察に出向く。


 潜水艦は以前は1隻しかなかったが、ソ連軍の増強を受けて義勇海軍も新たに「S3」型潜水艦3隻の建造に入っている。


 「S3」型は「S2」型の拡大発展型で、魚雷発射管が4門に増強され、艦体も一回り程大きくなっている。また、航続距離延長のために燃料タンクを拡大したため、排水量が100tも増加している。しかし、性能の低下はエンジンの出力アップにより相殺された。また、戦時には急速量産可能な設計となっている。


 この新型艦の内、既に一番艦の「S3」は竣工し、乗員の慣熟訓練に入っている。


 白根は潜水艦部隊司令官である大瀬少校の下を訪ねた。


「白根司令官。そろそろうちの部隊に来るころかと思い、お待ちしておりました。」


 大瀬は帝国海軍退役大尉である。帝国海軍時代は将来を有望視されていたが、友人が2,26テロ未遂事件に関わっていたために彼も取調べを受けた。それによって閑職に左遷されたため、そのまま退役した。


 退役後しばらくは民間企業を転々としていたらしいが、そこを義勇海軍にスカウトされている。


 義勇海軍配属後少しの間は、中国語の取得に苦労したらしいが、今は日常会話と艦内の指示語程度ならしっかりとしゃべれる。


「歓迎ありがとう大瀬少校。早速だが、潜水艦部隊の現状を知りたい。もちろん、一応報告は受けてはいるが、君の率直な意見を言ってくれ。」


 白根は、潜水艦部隊からの報告には一応目を通していた。しかし、書類だけではわからないこともある。大瀬の率直な意見もそうであるし、部隊の士気なども直接尋ねてみなければわからないことは多い。


「私からの意見としましては、ほとんどは御覧になった報告書のとおりです。ただ強いて言うならば、訓練不足の点があります。」


 この言葉に、白根は意外だと思った。潜水艦部隊は航海時間では充分な訓練を行っているはずである。訓練不足など考えられなかった。


「訓練不足だと?しかし提出された書類には充分に訓練しているように書かれていたように見えたが、それでも不足なのかな?」


「はあ。いえ、確かに今までの任務でしたら充分な訓練時間を行ってきました。しかし、今後起こると予想されている対米、対ソ戦では必要になると思われる訓練が不足しているのです。それは私にもどうにもならないことでして。」


 その言葉に、白根は大瀬の言いたいことが頭に浮かんだ。


「つまり、君は遠洋航海訓練を行いたいと言うのだな?」


 義勇海軍における遠洋航海訓練はよく行われている。もちろん、もともと艦艇の数が少ないのであるから、頻繁とまでは行かないが、それでも練習戦隊では必須であるから行うし、日本や台湾までの航路防衛や、航路上における人命救助の際は出動するから、各水上戦隊も年に一、二度は台湾や日本本土ぐらいなら出かけていく。


 しかし、潜水艦部隊は元々が近海防衛と対潜訓練の標的が主任務だから、そのような遠距離航海は行わない。行っても黄海の中ほどだ。


 しかし、対米、対ソ戦では日本海軍と共同で遠方の戦線まで出動する可能性は高い。そうなると、確かに遠洋航海訓練は必要である。


 しかし、他国の了解に入る可能性もあるから、日本政府や朝鮮政府準備委員会、台湾総督府に許可を仰がねばならない。


「はい。つきましては、司令に外交筋への要請を行っていただきたいのですが。」


 これに対し、白根は笑って答えた。


「ああ。やれるだけやろう。まかせておきたまえ。しかし、書類に書いてくれれば良かったのに。」


「いえ。直に要請した方が良いと思いまして。もし司令官がこなかったら自分から出向こうと思っていました。ところで、これから食事でもどうです?」


 白根は昼食をまだ取っていなかったので、いただくことにした。


「では、お言葉に甘えてもらおうか。」


 義勇海軍では基本的に兵から士官に到るまで同じ物を食する。基本的に義勇海軍では、給与と住居面以外の平等性を高めている。


 だから、例えば衣服の支給回数も同じであるし、艦内や官舎の一人当たりのトイレの数も同じである。


 この日の食事は、麦飯に高粱入りの味噌汁、そして豚の生姜焼きであった。


 義勇艦隊では食事には極力、肉や魚を出すことを行っている。


 給料もよく、飯も上手くおまけに平等性の高い環境が整っているので、貧困層出身の者たちからは大いに歓迎され、そしてそれを積極的に行っている白根は支持されていた。


 大瀬等の帝国海軍出身者たちは、それが新興国における準軍事組織の義勇艦隊が高い士気を保っている秘訣であると感じていた。


 白根は潜水艦部隊の視察を終えると、艦隊司令部に戻った。


 この2週間後、潜水艦部隊に遠洋航海訓練の許可が出され、部隊は日本の横須賀までの往復航海を行った。しかし、これが結局戦前最後の遠洋航海訓練となった。


 時に、開戦の3ヶ月前のことであった。


御意見・御感想・御批判お待ちしています。


今回は若干義勇艦隊の待遇面のことを書きました。それに関する意見も受け付けています。

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