視察
旅順に戻った白根は、一日休んだ後、各部隊の視察を行った。
まず最初に向かったのは郊外に設けられた飛行場である。
現在義勇艦隊が保有している機体は、2年前に比べ大幅に増えていた。
この時点で、第一、第二航空隊に配備されていたのは、戦闘機が96式艦上戦闘機が28機、95式艦戦が20機。そして、ノモンハン戦の際捕獲したソ連のイ16戦闘機が10機の計58機であった。
攻撃機は、97式艦上攻撃機2型30機、96式艦攻12機。そして、フェアリー・アルバコア攻撃機16機の計58機である。
アルバコア攻撃機はイギリス製の複葉攻撃機で、満英貿易融和策の一貫として購入された。本来なら、この機体はそれ以前使われていたソードフィッシュの後継機であったが、パイロットから不評だったため、早々と引退したという曰くつきの機体だ。
まあそういう機体だから売ってくれたとも言えた。
これらの機体以外に、偵察機として97式軍司令部偵察機8機と、100式司令部偵察機も2機保有していた。計10機。
そして水上機が、95式水偵12機と、90式水偵6機に加えて、99式双発飛行艇5機の計23機である。
この他に練習機も保有しているが、それについては割愛する。また、台湾に展開している航空部隊についても今回は割愛する。
基地に突然、総司令官の白根がやってきたので、航空部隊総司令官の名古屋大校は大いに驚いた。
「白根司令官。どうしたのですか、藪から棒に。」
「いや、ちょっとこのあたりで各部隊の様子を確認しておこうと思ってな。・・・・・どうかな、各部隊の練度は?」
「はい。どの部隊も大いに練度は向上しています。初期のころは機材や言語関係で苦労しましたが、今は機材も充分。要員も、中国語をマスターしているので、かなり改善しています。」
その報告に、取りあえず一安心する白根。
「そうか、大いに結構だ。」
「はい。しかし、もし噂になっているアメリカやソ連との戦いが始まったら、自分としても実戦経験のない彼らがどこまでやれるかは未知数です。」
義勇艦隊のパイロットは、海難救助や洋上捜索任務を何度も行ったことはあるが、実戦経験をもっている者はほとんどいない。だが、これは致し方ない問題である。
名古屋大校との会話を終えると、航空部隊の視察に入った。
まずは戦闘機隊である。丁度上空では4機の編隊が、編隊旋回を鮮やかに行っている所であった。
「上手いな。」
その光景に、一言そう漏らす白根。
「あれは戦闘機隊隊長の真下大尉の小隊です。彼は非常に有能です。もと帝国海軍母艦航空隊の戦闘機乗りです。」
同行していた参謀の大月少佐が言う。
「母艦戦闘機乗りだと。だったら腕が上手いはずだ。しかし、何で我が軍に来たんだ?」
自分のような物好きはそうそういないと思っていただけに、白根には驚きである。
「彼は帝国海軍在籍中に上官への命令不服従と暴行事件を起こしたのですよ。軍法会議では、相手の上官も理不尽だったことと、部下からの嘆願でなんとか懲役は免れたのですが、結局除隊に追い込まれてしまいましてね。そこで我が部隊に移ってきたわけです。ちなみに、その時の部下だった者も2,3人我が軍に移籍しています。彼らのおかげで戦闘機部隊の練度は大いに向上しました。」
その言葉に、少しばかり苦笑してしまう。
(我が軍は本当に様々な人間が集まっているのだな。)
次に向かったのは練習航空部隊である。この日、攻撃部隊は予備機と哨戒任務の機体を覗いて、全て満州陸軍との合同演習に出動中であり、あいにく見ることは出来なかった。
練習部隊は、日本製の赤とんぼを使って訓練中の部隊である。隊員は教官を除けば、殆どが17,8の若者である。
白根が行くと、整備実習中で合ったらしい。全員が機体に取り付き訓練を行っていた。
「あ!白根司令官。総員敬礼!!」
白根に気付いた教官の一人が敬礼をする。それに対し、白根は手を小さく振って言った。
「いいよ諸君。今日はたんなる視察だ。いつもどおり訓練を続けたまえ。」
「は!全員訓練を続けよ。」
「「「了解!!」」」
全員そのまま訓練を続ける。
その中には、明らかに女性とわかる隊員が複数混じっている。
黄海の海戦で女子飛行隊員が活躍して以降、女性志願者が飛躍的に増えた。まだ軍艦には乗っていないが、航空部隊や高射砲部隊には広く浸透している。
「搭乗員の養成は進んでいるのかね?」
再び大月参謀に問う白根。
「はい。先ほどの教官は呉上尉と言うのですが、中満戦争後に亡命してきた元中華民国空軍のパイロットです。部下の人当たりもよく、面倒見も良いので非常に有能です。」
練習部隊も高いレベルを維持できているようだ。
白根は練習生の女子兵の一人に声を掛けてみる。
「おい、きみ。」
いきなり声をかけられた女子兵は仰天してしまった。
「え!あ、はい。」
すごく緊張した敬礼をする。それに対し、白根は笑いながら言った。
「ハハハ・・・・、楽にしたまえ。」
その言葉で、その女子兵は少しばかり緊張を解いた。
「君は飛行機が好きなのかな?」
「はい。大好きです。」
その女子兵は元気良く答える。その瞳を見て、白根は満足した。ひたむきな真剣さと、未来への希望を持った良い眼をしている。
「名前は?」
「加古芳江です。」
「加古飛行兵。しっかりがんばれよ。」
「はい。」
白根は会話を終えると、今度は呉上尉の側に行き言った。
「呉上尉。若人たちをしっかり頼むぞ。」
「はい、お任せください。必ず一人前のパイロットに育てて見せます。」
こうして、航空部隊の視察を午前中一杯行い、満足した後、白根は港へと向かった。
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